Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

検証・ビットコイン事件「ネット仮想通貨」の未来を探る

ビットコインを切り口に今の国際通貨体制の問題を考えてみよう。

iwamura

商学学術院 教授  岩村 充(いわむら・みつる)

1950年東京都生まれ。1974年東京大学経済学部卒業、日本銀行入行、ニューヨーク駐在員などを経て、1998年より早稲田大学教授(2016年より経営管理研究科教授)。専門は金融論。『貨幣進化論』(新潮選書)、『中央銀行が終わる日~ビットコインと通貨の未来』(同)など著書多数。

中央銀行通貨の価値源泉は中央銀行の財務健全性ですが、ビットコインの価値源泉はそれを作り出すのに要するコストそのものなのです。

もはや「ビットコイン」という名を聞いたことのない人の方が少数派でしょう。

ビットコインとは、サトシ・ナカモトという人物の名で、2008年にインターネット上に掲載された文書を基礎とする通貨的な機能を持つシステムで、それに追随したさまざまなグループにより新たに作り出された数多くの類似システムとあわせて、「暗号通貨」や「仮想通貨」などと呼ばれているものです。

ビットコインは、最初はインターネットで遊ぶのが好きな「オタクのおもちゃ」のように見られていたのですが、2013年に起こったキプロスの通貨危機で国境のない通貨としての自由さが評価されたことや、世界的な金融緩和で円建てあるいはドル建てなどの金融資産の魅力が大きく低下したことなどから、米国を中心として利用が広まり、今や既存の国際通貨体制の議論にも大きな影響を与えるようにまでなってきています。

もっとも、流通金額という観点からみれば、ビットコインの存在は決して大きなものではありません。日本円に換算して8,000億円程度です。これに対して紙の「お札」つまり銀行券の発行残高は、円つまり日本銀行券だけでも約100兆円ですから、その量で評価すれば、ビットコインの存在は取るに足らぬほどのものなのです。では、なぜ、ビットコインがこれほど話題になるのでしょうか。

その理由の一つは、通貨としてのビットコインの価値源泉のユニークさにあります。日本円や米ドルなどの通貨は、それに見合う国債などの金融資産を見合いに発行されます。中央銀行の金庫の中の金融資産が通貨価値の裏付けになっているわけです。これに対し、ビットコインの場合は、ビットコインという条件を満たす数値を「発見」するための作業コストそのものが、その経済的な価値源泉になっています。これは、銀行券以前に広く通貨として使われていた金貨や銀貨の価値構造に近いものです。ビットコインは、他の金融資産の価値を借りて作り出されるのではなく、稀少金属である金や銀と同じように、それを見つけ出し使えるようにするのに要する労力そのものが価値源泉になっているわけです。今までの電子マネーとは違うビットコインの新しさはここにあります。

もっとも、ビットコインに注目が集まる理由はこれだけではありません。ビットコインは、それを使ってみようと思う人と、それを作り出してやろうとする人たちがインターネット上で出会いさえすれば機能できる通貨システムです。ビットコインには政府や中央銀行に相当するシステムは存在しないのです。

私たちの世界は、通貨を政府や中央銀行がコントロールするということを前提にして成り立っているところがあります。通貨の動きを監視して、国境を越えた犯罪や不正を取り締まるのは政府の機能の一つと言えます。そして、通貨の価値に介入して、おのおのの国の経済活動を冷え込みもさせず過熱もさせないよう誘導するのが中央銀行の役割です。

キャプチャ

ビットコインの価格は、2013年春のキプロス金融危機で急騰。このとき、ビットコインの価格は1BTC(ビットコインの計算単位)当たり200ドル近くにまで上がり、2013年秋には1000ドルを超えた。しかし、2014年にマウントゴックスというビットコイン取引所の経営破綻などもあって、100ドル近くにまで落ち込んだ。ただ、その後は、米国やアジア地域などの取引増から価格も持ち直して、現在では400ドル前後で推移している

しかし、ビットコインが作り出す通貨の世界には政府も中央銀行も存在しません。それは、ビットコインに政府や中央銀行の恣意や思惑から自由でありたいと思う人たちの期待を集める理由になる一方で、政府や中央銀行の役割を重視する人たちの警戒を引き寄せる原因ともなっているようです。ビットコインを巡る議論とは、要するにこの2つの流れの絡み合いと言ってよいでしょう。

ビットコインはまだ一人前の通貨ではありません。それは流通量が少ないからだけではなく、図でも示すような価値の不安定性にもよるものです。しかし、そうした不十分さは、暗号通貨あるいは仮想通貨たちがさらに進化する可能性を示すものでもあります。柔軟な目でその未来を見続けたいと思います。

(『新鐘』No.82掲載記事より)

 

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