Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

自然の風化を切り取る

 長い年月を経て風化したような質感と曲線を持ち、まるで生物のような躍動感を放つ陶芸家・五味謙二さんの「彩土器」。彼が自然から何を受け取り、作品にどう反映しているのかを聞きました。

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 陶芸家 五味 謙二(ごみ・けんじ)

 1978年、長野県茅野市生まれ。2001年、早稲田大学人間科学部卒業後、沖縄県那覇市壺屋にて修業。その後、岐阜県土岐市に移り作家活動をスタート。第5回菊池ビエンナーレ優秀賞(2013年)、第7回現代茶陶展TOKI織部大賞(2014年)など多数受賞。

幼いころに土器や自然を見て感じた風化したものの息遣いが今も私の心に残っています。

陶芸に関心を持ったきっかけはなんでしょうか?
「今思えば、子どものころに抱いた、時空を超えるものに対する憧れがきっかけだったのかもしれません。私の生まれ育った長野県茅野市は、土器が出土することで有名で、私の祖父も自分の畑で土器を見つけては、コレクションしていました。祖父の土器を見て、朽ちかけながらも今ここにある存在感の大きさに圧倒されたのを覚えています。とはいえ、小・中・高校とバスケットボール一辺倒で、土器のことは遠い記憶になっていきました」

早稲田大学の美術研究会陶芸班(現・公認サークルの陶芸部 稲穂窯)で陶芸をしていたと聞きましたが。
「書店でたまたま陶芸の本を手に取ってからは自分でも驚くほどの行動力でした。すぐに陶芸の体験教室に申し込み、「もっと納得のいくものをつくりたい」と美術研究会陶芸班に入会したんです。仲間と作品づくりと陶芸談議に花を咲かせる毎日は楽しかったですね」

卒業後、沖縄での3年間の修業は、作品にどんな影響を与えましたか?
「沖縄は、窯業、陶工のいろはを学んだかけがえのない場所です。同時に、目の覚めるような沖縄の赤土と背景に広がる青い海との対比に刺激を受け、将来自分が職人ではなく、作家の道に進むことを決意した場所でもあります。沖縄の自然の中でも特に引かれたのは、流木や貝殻などの年月をかけて風化したもの。これらに土器の持つ息遣いに通じるものを感じたのだと思います」

五味さんが魅せられた天然の風化は、作風にも影響を及ぼしましたか?
「作家になりたてのころは流木などを作品のモチーフにしました。けれど今は、自然を意識的に盛り込むことはしていません。そもそも、土を高温で焼き固める陶芸の根幹は『物質の変化』にあります。その理に最もかなう形を求めて行き着いた答えが、『彩土器』のシリーズなんです。ですから、私の作風は陶芸による造形の意義を自分なりに解釈したものではあるのですが、どれだけ理詰めでいっても、やはり過去の経験は少なからず影響していると思います。作品の有機的なフォルムや質感は、大好きな茅野の里山や沖縄の海の思い出、風化という人知を超えた自然の力に引かれる気持ちの表れともいえますね」

作品づくりの中で、自然との関わりも大切にされていますか?
「春夏秋冬の季節ごとに土の性質は変わるのですが、これは何年もかけて手で覚えるしかありません。土を通してその土地のことを知り、新しい表現の可能性を探っています。そういう意味で、茨城県笠間市に本年度より開校する陶芸大学校に特任教授として着任することが決まり、作品づくりの拠点を岐阜の市街地から自然豊かな笠間に移したことで、自分の作品にも変化が起こる予感がしています。時々『変わるのは怖くないか』と聞かれますが、怖いと思ったことはありません。なぜなら変化とは自分をアップデートすることです。変われるというのは、自分が右肩上がりである証しで、社会に自分の居場所を獲得できる可能性なのだと思います。ですから、学生の方も変化を恐れずに進んでほしいです」

(『新鐘』No.82掲載記事より)

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