Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

新しい宇宙像の探求

観測技術の向上で宇宙と素粒子の新たな姿が見えてきました。

Prof. Torii

理工学術院 教授 鳥居 祥二(とりい・しょうじ)

1948年京都府生まれ。1972年京都大学理学部卒業。1977年京都大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。1978年京都大学理学博士。東京大学宇宙線研究所研究員、米国ユタ州立大学物理学科Research Associate、神奈川大学教授などを経て、2004年より現職。専門は宇宙線物理学。

早稲田大学とJAXAの共同研究として世界に先駆けた、宇宙空間における高エネルギー宇宙線観測が始まっています。

私たちが住む地球上には宇宙から無数の宇宙線が降り注いでいます。宇宙線とは、宇宙空間を飛び交う高エネルギーの極めて小さな粒子のことで、原子核や素粒子などから構成されています。宇宙線の発見は今から約100年前。その後の研究で、地上で観測される宇宙線は、宇宙に存在するさらに高いエネルギーの宇宙線が地球の大気と反応することで生成された、二次的な宇宙線であることが分かってきました。そして近年、太陽系外に起源を持つ宇宙線、すなわちこれまで観測が困難であった非常に高いエネルギーの宇宙線に注目が集まっています。なぜなら、エネルギーの高い宇宙線はまだその成因が不明なものが多く、この宇宙線がどこから来ていかにして高いエネルギーを持ち得たのか、最高のエネルギーはいくらなのかを、最新の観測装置や観測手法によって明らかにできれば、宇宙の発展の謎の究明に大きく近づくことができるのです。

私たちの研究チームでは、宇宙線の中でもテラ電子ボルトという高エネルギー粒子を観測することをミッションとしており、2004年には南極周回気球実験を通じて一定量の観測データを取得しました。しかし、気球を使った観測では大気の影響をゼロにすることはできません。また観測時間も制限されてしまいます。そこで、より精密で大規模な宇宙線観測を行うために、10年ほど前から宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同でCALET(高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)プロジェクトに当たってきました。このプロジェクトは国際宇宙ステーション(ISS)日本実験棟「きぼう」の船外実験プラットフォームにわれわれの開発するCALETを搭載するというもので、2015年8月のISS補給機「こうのとり」の打ち上げに伴ってCALETは無事宇宙に運ばれました。今後2 ~ 5年にわたる運用期間で膨大なデータを取得、解析していく予定です。

高エネルギー宇宙線を捉えるのは、CALETのメイン検出器であるカロリメータです。カロリメータに入射した宇宙線が機器内部で引き起こす「シャワー粒子(多重増幅された粒子)」の飛跡を可視化することで、宇宙線の飛来方向や種類、エネルギーの判定をすることができます。現在のところ、1テラ電子ボルトを超える宇宙線は、太陽系のそばで比較的最近起きた「超新星爆発」による加速によってしか地球に到達することが考えにくい状況です。そして、その候補となる天体は3つのみであることから、カロリメータの解析が順調に進めば、宇宙線の加速源の特定は夢ではないでしょう。

また、CALETは、光学的には観測できないとされる仮説上の物質「暗黒物質」の探索にも期待が寄せられています。宇宙は最初、光を放つ電磁波の塊だったものが、膨張と同時に粒子化していったとされていますが、宇宙構造を観測すると銀河の分布にばらつきがあることが分かったのです。もし宇宙が一様に膨張したのであれば、銀河は一様に分布しているはずで、そうでないならば、宇宙の構造形成や進化に主要な役割を果たした未知の物質が初期宇宙に誕生したのではないか。この物質こそ暗黒物質であり、宇宙全エネルギー密度の23%を占めるとされています。さらに、暗黒物質は「弱い相互作用をする非常に重い素粒子(WIMP)」である可能性が高いことや、WIMP同士が衝突すると、その質量のほとんどがエネルギーに替わる「対消滅」や、暗黒物質そのものが既知のより軽い粒子に壊れる「崩壊」が起こり、高エネルギーの素粒子が発生すると考えられていることから、そうして発生した素粒子をCALETが捉えられれば、WIMPの存在を示す有力な証拠となるわけです。


このような宇宙空間における本格的な宇宙線の観測は日本で初めてのものです。世界に目を向けても、高エネルギー宇宙線の飛翔体観測では世界最高水準にあります。早稲田大学がホスト機関となり、私が代表を務めるこのCALETプロジェクトはまさに新しい宇宙像の探求といえると思います。

(『新鐘』No.82掲載記事より)

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