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早稲田の学問

プロローグ:歴史の変化を読む① 前編 ニュートン、アインシュタインが切り拓いた世界

koyama

社会科学総合学術院 教授 小山 慶太(こやま・けいた)
1948年、神奈川県生まれ。1971年、早稲田大学理工学部卒業。理学博士。専門は科学史。著書に『科学史年表』(中公新書)、『若き物理学徒たちのケンブリッジ』(新潮文庫)、『ノーベル賞でたどる物理の歴史』(丸善出版)、『マンガおはなし物理学史』『光と重力』(共にブルーバックス)などがある。

 

二人の天才物理学者の共通点

2015 年は、アインシュタインが一般相対性理論を発表してから、ちょうど100周年に当たる年でした。私たちの日々の生活や、それらを支えている技術は、物理学を抜きにして考えることはできません。言い換えれば、物理学は社会に対して大きなインパクトを与えながら発展を続けてきたわけです。しかし、19 世紀末には、「物理学にもはや本質的に重要な問題は何ひとつ残されていない」とされていたのをご存じでしょうか? この「終わる」はずだった物理の世界を一変させたのが、「量子力学」と「相対論」でした。量子力学が出現する以前に古典力学の基礎を築き、体系化したニュートン、そして相対性理論を提唱し、時間や空間の概念を大きく変えたアインシュタイン。物理学に詳しくなくても、この二人を知らない人はいないでしょう。ケプラーやガリレオが活躍した17 世紀から今日まで、およそ400年の物理学の歴史の中で、まさに天才物理学者として双璧を成す二人に注目し、物理学の歴史をひもといていきましょう。

二人にはいくつもの共通点が見られます。まずは、共に孤独を愛し、研究に没頭することを好み、若くして短期間のうちに大発見を成し遂げたことです。ニュートンはペスト禍から逃れて故郷の田舎で過ごした22~23歳にかけての1 年半ほどの間に、3大発見といわれる「万有引力」「光の分析」「微分積分の計算法」の研究を一挙に行いました。一方、アインシュタインは特許庁での仕事の傍ら、25~26 歳のおよそ1 年の間に「特殊相対性理論」「光量子仮説」「ブラウン運動の理論」の3本の革命的な論文を相次いで発表しています。

また、これだけの独創的な業績は、熟思を重ねたうえで手に入れた成果であることは間違いないでしょう。ニュートンが木からリンゴが落ちるのを見て万有引力の着想を得てから、ニュートン力学を統一的に説明できるようになるまでには20 年近くを要しています。アインシュタインは10 代でひらめいた光のパラドックスから約10 年を経て特殊相対性理論を生み出し、20 代後半に浮かんだ自由落下のパラドックスから約8年かけて一般相対性理論を構築しています。両者とも紆余(うよ)曲折があっても、諦めることなく研究を続けたからこそ、天啓に打たれるのです。

Newton

さらに、彼らが関心を抱いたテーマについても、顕著な共通性が認められます。それは「光」と「重力」です。ニュートンとアインシュタインが生きた時代は約2 世紀半ずれていますが、二人が光と重力に向き合い続けたということは、これらが物理学にとって非常に重要なテーマということです。光と重力をニュートンとアインシュタインがどのように捉えていたかをたどれば、物理学という学問分野の特徴が見えてくるかもしれません。

もう一つ、自然を統一して眺め、理解しようとする姿勢も共通しています。ニュートンの目にはリンゴが落ちるのも天体の運動も同じに見えました。一方、アインシュタインの相対性理論の根幹は、どのような速度で運動する観測者にも光の速度は常に同じで、重力場で静止したときと加速度運動をする状況が同じに見えたということです。それぞれ独立していると思われていた対象を、統一して記述できるという信念を持ち続けた点も似ているのです。

『プリンキピア』の発行

ニュートンは、代表的な著作『プリンキピア』(1687 年刊行)で力学の一般法則を定式化し、ニュートン力学の体系を確立しました。さらに光学の研究でも知られ、プリズムに太陽光を当てると虹のような光の色の帯が現れる現象から、光の色によって屈折率が異なることを発見。そして分散された光を再合成して白色光に戻すことに成功し、白色光(太陽光)は屈折性の異なる、さまざまな色の射線が重なり合ったものだと実証しました。これによって、色は白色光に物質が持つ「闇」が混ざり合うことで生じるという旧説を見事に打ち破ったのです。光はまっすぐ進み、鏡などで反射し、物に当たるとはっきりした影ができることから、ニュートンは「光の粒子説」も主張しました。しかし、光が障害物の背後まで回り込む回折現象や、光が重なると強め合ったり弱め合ったりする干渉現象がうまく説明できませんでした。

>>> 後編へ続く(4月15日掲載予定)

[年表]物理学の変遷

1604 ガリレオ/落体の法則を発見
1660 フックの法則発見
1668 ニュートン/反射望遠鏡発明
1687 ニュートン/運動の法則、万有引力の法則を発見
1801 ヤング/光の干渉発見、三原色の説発表
1826 オームの法則発見
1842 ドップラーの原理発見、エネルギーの保存発見
1850 フーコー/粒子説
1865 クラウジウス/エントロピー増大の法則発見
1867 ノーベル/ダイナマイトを開発
1905 アインシュタイン/特殊相対性理論、光量子仮説発表
1900 プランク/量子仮説の提唱
1895 レントゲン/X線の発見
1906 アインシュタイン/固体比熱の理論発表
1911 ラザフォード/原子核の存在を証明
1915 アインシュタイン/一般相対性理論発表
1927 ハイゼンベルク/不確定性原理発表
1935 湯川秀樹/中間子論発表

(「新鐘」No.82掲載記事より)

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