トランプ大統領がアメリカ第一主義の方針を打ち出し、その一環として、アメリカが多額の貿易赤字を抱えている国に対してその是正を求めてきている。米中間では関税の掛け合いが始まり、貿易戦争の様を呈している。
あたかも諸悪の根源のように取り上げられる「貿易赤字」だが、実は、それ自体は特に問題視されるべきものではない。2カ国間の「貿易黒字が得で貿易赤字が損」というのは言葉のイメージからくる誤解である。そもそも、国際貿易は輸出国・輸入国の双方に経済的な便益をもたらすものであり、2カ国間の貿易収支が均衡することはなく、またその必要性もないのである。
輸入品に関税を課すということは、その国の消費者にとって、商品選択の幅を狭め、価格の上昇を招くだけであり、全くいいことがない。これらの製品に対する支出の増加は他の商品への支出を減少させ、保護されていない製品・サービスを提供している産業にとっても痛手となる。つまり、このような保護政策は国内経済にマイナスの影響しかもたらさないのである。
理論上2カ国間の貿易不均衡自体には全く問題がないのに、あたかもそれが問題であると唱える政治家は後を絶えず、またそれを支持する国民も存在する。多くの人は「赤字」という言葉に怯(ひる)み、思考停止の状態になりがちであるが、そんな時にこそ冷静に考える力が必要である。今回トランプ政権が採った政策を機に、今一度、国際貿易の本質に立ち返り、政治家の扇動的発言に惑わされない本質を見極める力を培ってもらいたい。
(K.N.)
第1035回