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体験から当たり前を問い直し世界を見る目を深める

特集:WASEDA's Global Campuses

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  • #キャンパスナウ
  • #研究の今を知る

Fri 31 Jul 26

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Fri 31 Jul 26

地球規模の課題に直面する現代社会においてグローバルな視点は欠かせません。サステナビリティ教育を軸に各地での「体験」を通じて持続可能な社会のあり方を探る髙野孝子教授に、世界に通用する力を育む学びについて聞きました。

髙野孝子 文学学術院 教授

何かにぶつかり乗り越えた経験が深い学びにつながる

私の研究の軸にあるのは、サステナビリティです。持続可能な社会をどう実現していくかを考えるために、場の教育や環境と開発、伝統知などの研究を行っています。野外・環境教育分野では、若い人が自然の中での体験を通して得た価値観が時間の経過によりどう変容していくのかを調査し、伝統知の研究では、アラスカネイティブの村々やグリーンランド、ニュージーランドのマオリの人たちが暮らす地域、福井県池田町などを巡り、人々の知識や知見を記録しています。

ミクロネシアのヤップ島で毎年実施している青少年向けのプログラムも教育実践のひとつ。ヤップ島は日本のように電気やガス、水道を自由に使える環境ではありません。「豊かさとは何か」をテーマにしたプログラムのなかで、参加者は日本よりも圧倒的にものが少なく不便な島で、裸足で大地を踏みしめ、波の音や風に包まれて眠ります。「以前は深夜までSNSを見て悩みごとを反すうしていたけれど、自然を眺めていると、そんな悩みはどうでもよくなった」という人もいます。

もちろん、慣れない環境は楽なことばかりではありません。虫もいれば冷房もない日本とかけ離れた毎日を過ごす中で、ストレスを抱える人もいます。それでも、何かにぶつかり、乗り越えた経験は、その人の中に深く残っていきます。異なる環境の中で自分の当たり前が揺さぶられ、これまで見えていなかった価値観や暮らし方に出会う。その積み重ねが、広い視野で世界をとらえる力につながるのです。

属性ではなく一人の人間として向き合う

世界に通用する人材になるために私が大事だと思うのは、「人を人として見る力」です。「どこの国の人か」ではなく、その人を一人の人間として見る。年齢や言葉、見た目の違いをその人の個性として受け止められるようになるには、多様な人々と一緒に暮らし、ともに作業する経験が必要です。ときにはぶつかり、ともに苦労し、笑い合う時間があるからこそ、相手を属性ではなく一人の人間として認められるようになるのだと思います。

その時に軸になるのは、自分が何者であるかを知っていることです。多文化交流の場では、想定外の視点から意見を投げかけられることがあります。そのとき、自分の根っこがないと、ぐらぐらと揺らいでしまう。特に、いまの日本には「こう考えるべき」「こう振る舞うべき」という空気があり、自分で考える機会が少なくなっているのではないでしょうか。だからこそ、自分の軸となるアイデンティティーを確立させることが重要です。

自分の軸は、海外に行かなければ得られないものではありません。東京でも見つけることができます。早稲田の周辺にも田んぼが広がっていた時代があり、地域の歴史や暮らしの積み重ねがあります。短い時間でもいいのでそこに暮らす人の視点に近づいてみる。スーパーに行き、道を歩き、人と話す。どこに行ってもローカルはあり、その地域の歴史や課題を知ることで、自分を形づくる学びを得られます。

自分の枠を超える経験を重ね物事を多角的に見る力を養う

授業では、できるだけ体験を通して考える機会をつくっています。例えば「世界が30人の村だったら」というワークでは、安全な水にアクセスできない人、家に住めない人など弱者の立場に置かれた人を教室の隅に集めるようなワークをします。自分が社会的弱者となってみることで、貧困や暴力といった世界で起きている問題が、他人事ではなくなるのです。

情報があふれていてAIに聞けばすぐ答えが出るような時代だからこそ、学生には自分の枠を超える経験を重ねて、本質を見抜く力や自分の考えを発信する力を養ってほしいと思っています。留学は大きな機会ですが、もっと身近なところにも経験のチャンスは転がっています。いい本を読み、最高の音楽を聴き、人と対話することで、当たり前だと思っていたことが当たり前ではなかったと気づく。その気づきが、物事を多角的にとらえる力につながっていくのです。

PROFILE

1963年新潟県生まれ。1986年早稲田大学第一文学部卒業、1989年同大学院政治学研究科修了、2000年ケンブリッジ大学修士課程修了。2005年エジンバラ大学博士課程修了。博士(School of Education)。特定非営利活動法人ECOPLUS代表理事。早稲田大学留学センター教授などを経て、現在文学学術院教授。