谷田川 喜恵
早稲田大学文学部4年
ICC学生スタッフリーダー在職期間
}2012年12月~2016年1月
はじめに
私は大学一年生の冬に学生スタッフリーダー(SSL)になり、3年間働きました。以前から両親が空港勤務ということで外国籍の人と触れる機会があり、その経験から漠然と「国際交流」という言葉に惹かれ、大学に入ったら留学できたらいいな、と高校時代は何となく考えていました。そうして、入学後は自然とICCの活動に興味を持ったのですが、SSLの公募に申し込んだ決め手は、募集要項と先輩SSLのレポートを読んだことでした。
「企画書、ビジネスメール作成」、「広報スキル、協賛交渉」、「リーダーシップ、ファシリテーション」…
当時の自分には無縁のものばかりで、挑戦して教えてもらいながら大学の中で働ける、ということにわくわくして「大学生活はここで頑張りたい!」と一目惚れのように応募を決めました。しかし、Webに掲載されていた歴代SSLの体験談レポートを読み漁っていくと、期待と同時に不安も生まれてきました。とにかく先輩たちのレポートがすごい、もし雇ってもらえてもここでやっていけるだろうか…と、自分には場違いなんじゃないかと怖気づきましたが、やりたいという気持ちが大きく応募しました。
ありがたいことに採用されましたが、最初の1年間は何をするにも緊張しっぱなしでした。SSLは学内のオフィス、大人の職員方と協働します。その中で活躍するすごい先輩たちの姿がかっこよくて、自分もちょっとでも近付きたいと目の前の業務一つひとつに必死でした。
やりたい時とやるべき時
SSLの一番初めの大仕事に、「企画ブレスト」というものがあります。各々アイデアを練ってイベントの企画書を作り、その企画案を実施できるかどうか、職員や先輩たちと意見交換を行う企画会議です。ICCは大学の機関なので、授業暦に合わせて前期と後期の2フェーズに区切ってイベントを運営しています。これに合わせて年2回のブレストがあり、私は初めてのブレストで、自身が大学で専攻にする「ドイツ」の文化を紹介するイベントを提案したいと、事前に職員に相談してみました。ドイツ関連企画をやりたい、というのはSSLになる前から思っていたことで、しかもほぼ月に一度は各国地域紹介イベント(カントリー・フェスタ)を行っていることから、実現性はあると考えました。
しかし、「もうちょっと待ってみたらどうかな?」というアドバイスをいただきました。理由は、このカントリーフェスタは、ゲストやパフォーマー、協賛など関わる人間が多く準備が大変で、経験値が上がってからの方がやりやすいよ、ということでした。なるほど、と納得した私は、今回のブレストではドイツ企画書は書かず、別のものを出すことにしました。
初ブレストで、ドイツ文化紹介企画を見送った私は、「SSL在籍中のいつ、思い入れの強いドイツ企画をやるべきか」と考えました。自分は4年生卒業時までSSLをやりたいと考えていましたし、就活を終わらせSSLに復職してから卒業までの時間が短い、ということで就活前の3年生の前期か後期、という目星をつけました。自分が3年生になる頃にはキャリアを積んでいて、SSLとして一番主力になれる時期のはずだと、一旦、「企画を温める」ことにしました。もちろん、私はドイツ文化紹介企画だけをやりたかったのではなく、今まで作った企画全てが自分の全力で作ったものです。ドイツ企画を素晴らしいものにするため、自身が力をつけるまで待とうと思ったのは、中学の頃一度滞在した経験があり、この国への思い入れが強いからという側面もあったのですが、大きな理由は先述のカントリーフェスタはマネジメントの量が多いという事情からでした。
目標を定めた私は、まずサブ担当でカントリーフェスタに入ったときに、その様子を観察することから始めました。クラシック音楽演奏が主役でしっとりと情緒的なものもあれば、紹介される国・地域出身の留学生たちが沢山集まって盛り上げてくれるものもあり、コンテンツによって毎回様々な雰囲気になります。自分がやりたいドイツ企画はどういうものにするか、イメージしながら、得たことがありました。
例えばドイツのようなある程度知名度の高い国だと、その参加者の知識に大きな差があるだろうということです。「ドイツといえばビールとソーセージ!あとは…?」という初心者から、「ドイツは専門分野だし、実際住んでいた」というドイツ通で、恐らく様々な人が訪れます。「国名だけ知っている、文化を一から知りたい!」というカントリーフェスタもありますが、初心者からドイツ通まで、双方が満足するコンテンツにする必要がありました。その他にも、音楽演奏やパフォーマンスでは、出演ゲストに時間配分を注意して頂くお願いをするなど、基本的な運営のノウハウを学ぶことができました。
そして、いよいよ3年生になって企画ブレストへ臨み、「ドイツ文化&ミュージックナイト」として企画を進めていくことになります。
用意することにしたコンテンツは、メインのトークと音楽演奏、留学生によるプレゼンテーションでした。イベントのメインとなるゲストトークは、私が所属する文学部ドイツ語ドイツ文学コース専攻の教授にご協力を頂きました。普段の授業を聞いていて、背景知識が全くない人にも文化や芸術の面白さを分かり易くお話するのが抜群に上手な方で、是非お願いしたいと感じていたからです。快諾を頂くことができ、トークの内容について相談を重ねていきました。ドイツのことをあまり知らない人にも、熟練の人にも両方に楽しんでもらえる話題を探し、テーマは「ドイツの旅、音楽、ワイン」に決まりました。ドイツを旅するなら、と初めにドイツの概要と魅力をさらった後に、入りやすい文化である音楽の話へ移り、その音楽の話の中で「日本との接点」のエピソードを紹介することで、ドイツに親しみを持ってもらおうという構成です。日本との接点というのは、第一次世界大戦中に日本で捕虜になったドイツ兵が、日本でオーケストラを演奏してクラシック音楽を初めて日本に伝えたという歴史が絡む話でした。ドイツ通にとっても面白い内容ということで相談し、素敵なアイデアを頂くことができました。トークの最後はワインの話で、さわやかにすっきり締めくくろうというコンテンツになりました。
音楽演奏は、トークのテーマにも合う”ドイツらしい”クラシック音楽にして、パフォーマーは、教授がバイオリンサークルの方を紹介してくださることになりました。トークの内容にワインが登場するので、当日は参加者にワインを提供できたらベストだと、私自身の協賛獲得へのモチベーションも上がりました。ICCでは文化の一部である「食」も体験してもらおうという趣旨と集客効果を見込んで、関連する国・地域の食べ物や飲み物を提供することがあります。この飲食物は、SSLが企業に企画を持ち込み、協賛を依頼するものです。必要なことが一つずつ見えてきて、どこに何をかけ合おうと考える時間は、企画を一から作る仕事の楽しい瞬間だと感じます。協力してくださる人たちと打ち合わせやリハーサルを重ね、コンテンツを一つずつ詰めていき、当日は大盛況の楽しいイベントとなりました。参加者の人数は150名、コンテンツを楽しんだ後は、後半のフリートークタイムでドイツの白ワイン、パン、ハムとソーセージを食べながら、参加者それぞれが交流を広げていました。イベントを作る目標としては、参加者に「今日来てよかった」「ドイツっていいな」と思ってもらえることでした。イベントアンケートや、当日来てくれた人達の顔を見て、目標は達成できたかなと思っています。
結論
このドイツ文化紹介企画で、自分なりに工夫できたと思っている点は、メイントークの内容をゲストスピーカーと相談してすり合わせたことでした。教授へ相談する際、想定される参加者の年齢層、人数、従来のカントリーフェスタの雰囲気や会場の様子など、実際にお話いただく上でイメージをしやすいように、できる限りの情報を伝えることを心がけていました。このようにトークコンテンツに力を入れたのは、企画に取り掛かる前に、様々なカントリーフェスタを観察した経験からです。イベントでトークを用意する場合は、その内容がイベント全体の印象を決めることになると感じていました。
企画を終えて思ったのは、もしも最初のブレスト後の1年生でこの企画に取り組んでいたら、3年生で作ったもの程の完成度にはならなかっただろう、ということです。1年生だったら、とにかくイベントを完成させることに精一杯で、当日の会場には初心者だけでなくドイツ通も訪れるであろうという部分まで想定できなかったと思います。メイントークのゲストへは「ドイツの基本情報と、文化の魅力をいくつかピックアップしてお話ください」と依頼し、初心者向けの情報だけで終わってドイツ通には不満を感じさせることになったかもしれません。3年生になるまで経験を積んだからこそ、当日イベントが実施される光景を想像して、課題点をどうやって解決するかという意識を持って企画を進められました。イベントの質をもっと上げたい、完成度を上げて満足度を高くしたいというのは、いつでもそうできたらベストなのですが、やはり経験を積んで余裕ができてからこそ、方法も見えてくるし欲張れる部分なのだと感じます。1年生当時のブレスト前、自分が成長するまで待ってみたらどうかというアドバイスをくださった職員さんに、感謝が尽きないところです。
SSL自身に「やりたい」という信念が特に強いものがあった時、本人はそれをすぐさま企画として取り掛かりたいと思うかもしれません。しかし、ICCのようにイベントのアイデアをいつでも提出できる環境の中においては、それをどのタイミングでやるのか、図ってみるという選択肢もあります。完成度高く作り上げたいのなら、実際にやってみることを想像し、今の自分の中に判断材料となる経験値はどのくらいあるか、確かめることもできます。余談ですが、私はドイツ企画で参加者へ提供する白ワインなどの協賛を行い、もしも自分が新人だったら同じような成果は上げられなかったと感じています。3年生になるまでの間、何度も協賛の経験を積み、その時たくさん苦労して成長できたからこそ、結果としてより理想に近い形で協賛を獲得してイベントを用意することができました。よりベストなものを作るために、「やりたい」企画を少し温めてみること。これはつまり、自分が成長するまでその企画に待っていてもらう、ということです。他の事例から吸収し、スキルが成長し、その企画に取り掛かろうと向き合ったその時、「やりたい!」と思った当初とはまた違う目で見られるかもしれません。