Waseda University Intercultural Communication Center (ICC)早稲田大学 ICC(異文化交流センター)

その他

なぜSSLになったのか、そして今感じること(菅原雄一)

政治経済学部

菅原雄一

ICC学生スタッフ在籍期間:2008年12月~2010年10月

なぜSSLになったのか、そして今感じること

僕がICCの学生スタッフリーダー(SSL)に応募したとき、ひとつの考えが頭の中にあった。「自分と絶対的に異なる価値観に触れて、自らを大幅に相対化する体験の楽しさを、大学内で共有できる場」が欲しい―そう思っていた。

 

僕がICCでSSLとして働き始めたのは、2008年12月。後期の授業開始とテストの狭間の穏やかかつ退屈な日常の中で、部屋と大学を往復していた。それまでと変わらない、時間が自分の意思とは無関係に、一定の速度で過ぎていく日々。授業では自分の知識欲や関心は満たされても人と出会えないし、大学生活に張りが出ない。だから同じ趣味の人が集まるサークルに入ってみた。…そして辞めた。同じ興味の人が集まるゼミに入り…そして辞めた。なぜ? おそらく、向いている方向が同じ人が集まっても同じ風景しかみえないと思ってしまったのだ。大学がより開かれて様々な学生が入学するようになり、学生生活の過ごし方も多様化しているとはいえ、一部の学部・学科を除いて自分と根底から異なるバックグラウンドを持つ人と大学内で日常的に接する機会というのは、いまだそう多くはない。そんな環境は、心からつまらなかった。ではどんな空間なら自分は好んで身を投げ入れるのだろう?

僕は入学以来、長期休暇に入るとともに日本を脱出し、授業開始ぎりぎりまで他の国で過ごし、それはもう生き生きと動き回っていた。多くの国で、多様な人と出会った。見知らぬ習慣や考えに感動し、憤った。ハワイで日本語を教えたり、ベトナムで現地の大学生と共にイベントを運営した。自分を結ぶ像が、どんどん形を変えていく快感。この時間こそ、自分が思い描いていた青春。…でもそんな日々は、長期休暇の終わりとともに2ヶ月で強制終了されてしまうのだった。

じゃあ、大学内で同じような場所はないのだろうかと逡巡していたときに、ICCのイベントに参加した。そのときは「ICC」という大学の部署をそれほど明確に意識していなかったと思う。でも、参加したイベントの雰囲気や集まっている人の個性に、僕は心底居心地よく感じた。学内にこんな空間があったのか、と思った。まったく脈絡のなかった学生同士が打ち解ける。大学がその場を提供し、学生がスタッフとしてそれを運営している。自分が学内での学生生活に感じていた不全感を払拭するかのようなその空間に浸りながら、自分もこんな場を企画してみたい、運営してみたいと思った。そして、僕はSSLとして働き始めた。

 

結論からいってしまえば、有能な他のSSLと共に1年半SSLとして勤務し、多くのことを学び経験することができて非常に満足している。ICCの運営に関しても、微力ながら貢献できたのではないかと思っている。しかしSSLとしての勤務を終えた今、僕がとりわけ強く実感しているのは、「新しいもの」を企画することの難しさ、チームの中で自分の取り柄を上手く生かすことの重要性、そしてリーダーとして人を引っ張ることの難しさだ。ああ、言葉にするとなんて陳腐な感想…と気恥ずかしくなってしまうが、文字通りこのように体感したのだから仕方がない。

まず、SSLの大きな仕事のひとつに様々な学内における異文化交流イベントを「企画」することがある。学生ならではの視点から、集客や日程、他のイベントとの兼ね合いも含めた上で魅力的な企画を提案し、実行に移していく。僕が入った当初はICCが設立3周年を迎える少し前という時期で、ICCにそれまでのイベント運営経験の蓄積があったためジャパニーズ・フェスタなどの既にあるイベントを部分的に担当しつつ自分の企画を進める必要があった。これが…なかなかどうして難しい。

結局、約1年半のSSLという期間を通じて「これまでにない形式のイベント」を立ち上げることは、ついになかったように思う。ICCで今まであまり扱っておらず、かつ自分の興味関心の強い国際協力系のイベントを企画し、難民をテーマにしたり東ティモールをとりあげたりしたりと、試行錯誤はした。しかし、イベントの運営形式そのものは以前にもあったものにすぎず、どこか独創性にかける企画になってしまっていたように思う。枠組みそのものを変えてしまうようなインパクトある企画を打ち上げられなかったのが心残りでならない。

しかしそんな中でも、2009年に行った『働く杯(Work Cup)』では、自分の強みを上手く生かした仕事ができたのではないかとも思っている。それまでもイベント広報用のポスター制作などを通じて広報物のデザインなどを積極的に行ってはいたが、このイベントでは事前合宿用パンフレット・ポスター・イベント当日パンフレット・当日会場用スライドなど、多くの広報ツールをデザインした。大隈講堂を使用した大規模なイベントであったため、制作にも必然熱が入った。「自分がこの部分に対して責任を負っている」という実感の下、何度も校正した後に発注を終えたときの達成感は、何ともいえず心地よかった…。ここでは、チームとして仕事をする中で、自分の取り柄を生かして貢献することの重要性を身にしみて感じることができた。

しかし、だ。SSLはその名の通りStudent Staff Leader、学生スタッフ「リーダー」なのである。さあ、僕は誰かをリードできていたんだろうか? 言うまでもないが、リーダーのカタチにも色々あるだろう。それこそ「俺についてこい!」的典型リーダーから、縁の下で寡黙にメンバーを支えながら導くリーダーまで…。僕はSSLを終えた今でも、典型にも寡黙下支えにも自分のリーダー像は結べずに、未だ自分がどんなリーダーか考えあぐねている。しかし、リーダーシップを発揮することを念頭において仕事をしなければならないという意識は常に持っていた(つもりである)。自分がどのようなリーダーたりえるのか、またリーダーシップとは何かということを考える上でも、SSLとして働けたことで得られたことは大きい。

 

なにはともあれ、僕が企画したイベントに参加してくれた人やサポーターとして関わってくれた人が、少しでも有意義な時間を過ごしてくれていたのなら、本望である。しかし、冒頭に掲げた「異なる価値観に触れて自らを相対化する楽しさを、大学内で共有できる場」、そんな空間を僕は作り出せただろうか。正直にいえば、自分で自分に多くの疑問符を付けざるを得ないが、個人的には規定ラインすれすれぐらいの達成度かなと今は思っている。もっと面白い企画ができたかもしれない。もっとサポーターをうまくまとめられたかもしれない。…欲を言えばきりがないが、卒業という強制終了が控えているので、課題は次のステージに持ち越しである。なんにせよ、SSLをしていなければ今の自分がなかったことは確かである。

最後に未来のSSLに向けて。ICCのSSLとして働く学生には共通していることがあると思う。それは、「違いを受け入れる度量」を兼ね備えているということ。この一点で、ICCのSSLは揺るぎなくつながっていると僕は感じている。オープンマインド&クリエイティブなこれからのSSLが、もっと多様で、カオスで、活気溢れる空間を早稲田大学にこれでもかというくらい創って、多くの参加者が自分と異なる何ものかと引き合わせられる機会を生み出していってくれればいいなあと、切に願っている。

 

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