ICC (Intercultural Communication Center)早稲田大学 ICC(異文化交流センター)

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ヴィーガンを知る 企画者レポート

大学院法学研究科博士後期課程 T・M
はじめに 

2025年11月6日、英国から Ed Winters 氏をお招きして、トークイベント「『ヴィーガン』を知る──Knowing Veganism」を実施しました。本レポートでは、企画の背景、準備の舞台裏、そして当日の内容を振り返ります。

1.企画背景──なぜ今、早稲田で「ヴィーガン」なのか

日本ではヴィーガニズムが「嗜好」や「宗教」と誤解され、偏見の対象になることも少なくありません。学内でもヴィーガンの学生は少数派で、日々の食選択に困難を抱えるだけでなく、人間関係に摩擦が生じる場面もあります。私は、こうした状況は──部分的には──ヴィーガニズムに関する基本的な理解が十分に共有されていないことに起因すると考え、早稲田ヴィーガンクッキングサークル(WVCC)の代表として、理解促進の場をつくることができないかと模索してきました。
そのような折、世界的に著名なヴィーガンの著述家・講演家である Ed Winters 氏が来日予定であり、大学での講演を希望していることを知り、早稲田でのトークイベントの開催を着想しました。個人的なことになりますが、私が彼のことを知ったのは2年前、誕生日にヴィーガンの友人から彼の著作を贈られたのがきっかけでした。それ以来、私は彼の活動に深い敬意を抱いてきましたので、彼を早稲田にお招きできる機会は、企画者としてのみならず、個人的にも大きな意味を持つものでした。

2.WVCC×ICC:共催の経緯──なぜICCなのか

Winters 氏をお招きする以上、企画の規模や内容も相応のものにする必要があると考えました。そこで、国際交流イベントの開催実績が豊富で、経験・ノウハウ・リソースを備えたICCに相談することにしました。ICCは「異文化理解の促進」をミッションとしており、ヴィーガニズムというグローバルなテーマを英語で学ぶ本企画は、その理念とも合致します。こうしてWVCCとICCの共催が決まり、本格的な準備が始まりました。

3.イベントの構成──「理解→対話→体験」の流れをつくる

本企画には、相互に補完し合う二つの目的がありました。

第一の目的:ヴィーガニズムの理念理解
動物倫理や環境問題の観点から、ヴィーガニズムが目指す価値や背景を正しく理解してもらうこと。

第二の目的:学内の多様性・包摂性の向上
ヴィーガンの学生が直面する困難や孤立感を可視化し、誤解や偏見を解消することで、学内における食の選択肢と心理的安全性を高めるきっかけをつくること。

これらの目標を実現するために、次のような三部構成を企画しました。

  • 第一部:講演(理念と基礎の共有)
  • 第二部:パネルディスカッション(日本の文脈での課題を議論、欧米との対比)
  • 第三部:プラントベース食品の試食と感想のシェア(体験を通じた理解の深化、「ヴィーガン=質素」というイメージの払拭)

講演だけでは一方向的になり、試食だけでは理念が伝わりません。三部を組み合わせることで、理解・対話・体験が連続する構造を意図しました。

4.準備の舞台裏

登壇者・司会の選定
パネルディスカッションの登壇者と司会の選定も、企画の成否を左右する重要な要素でした。日本側登壇者は、菜食普及と社会福祉支援を組み合わせた「ベジエイド」の取り組みで環境省から表彰された実績を持つ Meat Free Monday All Japan(MFMAJ)事務局長の小城徳勇氏に依頼しました。小城氏は内閣官房内閣事務官として勤務する傍ら、休日にはMFMAJの活動に従事し、内閣府食堂へのヴィーガンメニュー導入にも尽力された方です。早稲田大学のOBでもあり、地域食堂や生活困窮者支援など、早稲田を拠点とした社会活動を継続されていることから、本企画の趣旨に最も適した登壇者であると考えました。
さらに、学内の現状を学生の立場から共有するため、WVCC代表である私自身も登壇することにしました。
また、海外ゲストを迎えるにあたり、日本語と英語の双方に堪能でテーマへの理解も深い法学部の鈴木理恵子教授に司会を依頼しました。鈴木教授は英文学を専門とし、菜食主義者として知られる19世紀英国詩人パーシー・ビッシュ・シェリーの研究を行っているほか、日本、イギリス、アメリカでの生活経験を背景に「動物の権利」や環境問題の題材を授業で扱われています。こうした知見と経験から、本企画の司会に適任と考えました。鈴木教授には当日の司会だけでなく、企画立案の段階から多くの助言をいただきました。

使用言語の判断
イベントをどの言語で実施するかが一つの問題でした。通訳者を依頼する予算はない一方で、英語のみでは参加者が限られてしまう可能性があります。そこで、最終的には「講演・パネルは英語、質疑応答のみ通訳」という折衷案を採用しました。当日は急な登壇者変更によりパネルにも通訳が必要となりましたが、司会の鈴木教授が臨機応変に対応してくださり、円滑な進行を実現することができました。

対象の設定
また、参加対象の設定も重要な検討事項でした。本企画は、ヴィーガニズムの理念理解を深め、学内の多様性と包摂性を高めることを目的としていました。そのため、すでに十分な知識を持つ人よりも、日常の中でヴィーガニズムに触れる機会が少ない層にこそ参加してほしいという思いがありました。さらに、学外に広く募集すればWinters 氏の知名度から大きな集客が見込めましたが、それでは学内での理解促進という企画趣旨から離れてしまいます。闇雲に対象を広げるのではなく、まずは学内コミュニティに焦点を当てることが適切だと判断し、本イベントは早大生と教職員に対象を限定して実施することにしました。

ゲスト・協賛企業との連絡
出演者、協賛企業、ICCスタッフとの連絡調整はすべて私が担当しました。メールの往復は多岐にわたり、海外との時差もあったため、想像以上に労力を要する作業でした。しかし、関係者が安心してイベントに臨み、当日の進行を円滑にするためには、事前の協議や条件の擦り合わせが欠かせません。認識の齟齬が生じないよう、一つひとつのやり取りを丁寧に行うことを心掛けました。

研究活動との両立
また、夏季には国内外の出張を伴う学会報告や研究交流プログラムが続き、その準備や渡航・滞在によって時間的にも精神的にも負荷の大きい時期が続きました。それでも準備作業を途絶させずに済んだのは、ICCスタッフの粘り強いご支援のおかげです。

5.イベント当日の様子

集客に関する事前の不安とは裏腹に、本企画には定員を上回る50名超の応募があり抽選を実施しました。会場の大隈ガーデンホールは満席となり、熱気に満ちた雰囲気のイベントとなりました。参加者は、すでに一定の知識のあるベジタリアンの方から、興味はあるものの詳しくは知らない学生まで、留学生も教職員も含めて幅広く、多様な背景を持つ人々が集まりました。
一方、運営側にとっては準備と調整が重なる非常に多忙な一日でもありました。ICCスタッフの方に事前に作成していただいた進行表を頼りに、Winters 氏のお迎え、会場設営、食品準備、来賓対応、登壇者との打ち合わせなどをこなしながら、気づけば開演の時を迎えていました。

(photo by ICC)

第一部:スピーチ
第一部では、Winters 氏がヴィーガニズムの基礎を、動物倫理と環境問題の観点から明快に解説しました。彼はヴィーガニズムを「人間による動物の搾取を可能な限り減らす道徳哲学および実践」と位置づけ、「嗜好」や「宗教」とは異なり合理的な議論の対象となりうる倫理的立場であることを明確にしました。
彼はその上で、9羽のアヒルの雛を故意に殺した人が有罪となった事件と、世界で毎年780億頭の家畜動物が屠殺されている現実を対比させ、私たちの態度や実践に潜む倫理的二重基準を浮き彫りにしました。私たちが前者には反感を示しながら、後者には無関心でいられるとすればそれはなぜかと問うのです。
彼によれば、こうした態度の背景には、動物が個体として豊かで複雑な性格や感受性を持つにもかかわらず、畜産業の「システム化」によってその存在が巨大な数字へと還元され、「誰か」ではなく「何か」として扱われてしまう構造があります。こうした不可視化の構造は一朝一夕に変えられるものではありませんが、個人の消費行動には確かな影響力があり、ヴィーガンは動物性製品を購入しないという主体的な選択を通じてその力を行使していると説明されました。
ヴィーガンは時に──不当にも──「過激派」とみなされることがありますが、Winters 氏の講演は決して対立を煽るものではなく、事実と倫理的考察を丁寧に積み重ねながら、聴衆一人ひとりに静かな内省を促すものでした。

第二部:パネルディスカッション
第二部では、日本側登壇者として MFMAJ 事務局次長の緒方威一郎氏をお迎えし、日本社会におけるヴィーガニズム普及の課題について議論しました。当初は事務局長の小城氏が登壇する予定でしたが、急遽出張が入ったため、緒方氏にご代役をお願いすることになったのです。突然の依頼にもかかわらず、緒方氏は快くお引き受けくださり、官公庁や企業で導入が進む「週一ベジ」の取り組みを中心に、現場の実践と課題を分かりやすく紹介してくださいました。
私からは、都市部では関心が高まりつつある一方で、コンビニや学食など日常的な場面ではプラントベースの選択肢が乏しく、ヴィーガンの実践が難しい現状を報告しました。また、学校給食をめぐるネット上の議論やアニメ文化に見られる食の描かれ方など、日本特有の文化的要因にも触れ、現実的な改善策として「学食への段階的なヴィーガンメニュー導入」を提案しました。
これに対しWinters 氏からは、日本の精進料理や豆腐文化といった伝統を手がかりに、外来思想としてではなく内発的にヴィーガニズムを発展させる可能性が示唆されました。議論は終始活発で、第一部で示された基本的な問題意識を日本の文脈で具体的に考える機会となりました。

(photo by ICC)

第三部:試食会
協賛企業からご提供いただいた「唐揚げ」や「チーズケーキ」などのプラントベース食品を参加者に試食していただきました。一口大の提供で満足度が得られるか不安もありましたが、食品のクオリティは非常に高く、「想像以上においしい」「これがヴィーガンとは思えない」といった声が多く寄せられました。多くの参加者にとって、食体験を通じてヴィーガンへのイメージが変わる機会になったのではないかと感じています。

おわりに

今回のイベントを通じ、早稲田大学においてもヴィーガニズムへの潜在的な関心が確かに存在することを実感しました。参加者からは「ヴィーガンに挑戦してみたい」という声に加えて、「実際に日々の食事の選択をヴィーガンに変えてみた」という報告も届きました。理念の理解にとどまらず、具体的な行動変容につながった点は、本企画の大きな成果であったといえます。参加者アンケートでも、ほぼ全ての回答者がイベントに満足したと回答してくださいました。イベント後にはWVCCへの入会希望も寄せられ、学生同士の新たな交流が生まれています。本企画が掲げた「ヴィーガニズムの理念理解」と「学内の多様性・包摂性の向上」という二つの目的は、参加者の理解の深化と行動変容、そして学内での新たなつながりの形成を通じて、いずれも確かな前進を見せたと感じています。

(photo by ICC)

最後に、出演者の皆さま、協賛企業・団体、ICCスタッフ、そして参加してくださった学生・教職員の皆さまに心より感謝申し上げます。多くの方々の協力と支えがあってこそ、本企画を成功に導くことができました。

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