社会科学部 おせち
はじめに
「あなたが考える多様性は?」就職活動の面接で聞かれ、それまでに多用してきた価値観を自分では理解しているつもりだったのに、いざ言語化しようとすると腑に落ちる説明ができなかった記憶があります。そんな折、パントビスコと考える「真の」多様性についてのイベント案内メールが届きました。パントビスコさんといえば、日常に潜む社会的テーマを、ユーモアと批評性を兼ね備えた独自の世界観のある作品を通じて発信するクリエーターさんです。高校時代から密かにファンであった私にとって、この機会は絶対に逃せないものでした。
当日の流れ
企画者であるたいせいさんの丁寧な司会進行ではじまり、パントビスコさんによるプレゼンと、参加者によるワークショップ+ご講評という二部構成でした。プレゼンでは、パントビスコさんが主にSNSで公開しているコンテンツについて、裏話や制作意図を交えながら解説してくださるというなんとも贅沢な時間で、この時点で参加した価値があったなと実感しました。参加者から数々の笑い声が漏れる会場でしたが、深く考えさせられる内容でもありました。

photo by ICC
ワークショップ
次にパントビスコさんの代表作「#対面シリーズ」を参考に、2人の人物が対話をしているワンシーンをつくることで、参加者それぞれが「多様性」についてアイデアを膨らませる場となりました。下記のようなルールで進めました。
- 対面する二人の人物とそれぞれからでる吹き出しが書いてある紙に、自分で片方のキャラクターとセリフを書く。
- 紙を他の参加者と交換し、互いに空白の吹き出しをうめて作品を完成させる。
例えば、私が書いた「帰国子女?英語しゃべってみてよ」というセリフは、早稲田のようなグローバルな環境で実際によく聞かれる会話の一つですが、常々「うまい返し」を模索していたこのテーマを、今回のワークショップでは他の参加者に託してみました。交換の後、素敵なイラストと共に、「帰国子女=英語がしゃべれる」という先入観を壊してくれるような解答が返ってきました。ワークショップを通じて、多様性のような価値観に関する「正解」を求めること自体が、もしかしたら違うのかもしれない、と実感しました。そして、「多様性」とは単に違いを認めることではなく、相手の背景や考えを想像し、自分の固定観念を手放すことかもしれない、と考えます。みなさんの作品は、異なる価値観を軽やかに受け入れるヒントにあふれていました。シュールな笑いの中に、アイロニーや日常への鋭い視点があり、楽しみながら考えさせられる。これこそが、今回のイベントの収穫だったと感じています。
終わってみて
今回は、4年生にして初のICCイベント参加で緊張していましたが、参加者には異なる学部や学年、さらには教職員の方まで多種多様な方々が集まっており、普段話す機会のない人たちと「多様性」というテーマを軸に意見を交わせたことは、とても貴重な経験でした。特に印象的だったのは、作品のペアとなった、10年以上パントビスコさんの古参ファンである方の視点で、自分が気づかなかった新たな視野が広がる瞬間、価値観の幹が太くなっていくような感覚を楽しめました。個人的に、今回の参加を通じて、もっと早くI C Cイベントに注目していればよかったと思っているので、少しでも関心領域が絡んでいるイベントがある方はぜひ参加してほしいです。
この機会を通じて、「多様性」というテーマが決して堅苦しいものではなく、もっと日常の延長線上にあるものだと気づきました。自分にとっての「多様性」はきっと、これからも変わり続け、自分の視点を疑い、相手を想像し、受け入れる準備をすることから始まるのだと学びました。そして何より、それを楽しく問い続けられる切り口を探すアンテナをはっておくのも、大事な要素なのかもしれません。
最後に、素敵なイベントを企画してくださったパントビスコさんとICCスタッフの方々、そして交流してくださった参加者の皆さんに心から感謝します。ありがとうございました!

photo by ICC