文化構想学部 遠藤 卓
結論から言います。
ICCの【にほんごペラペラクラブ】に参加すれば、みなさんの大学生活は今の学年とは関係なしに、これまでとは全く別のものに変わります。そしてイベント終了後、みなさんは全員がもれなく向上心の権化となり、英語学習への熱は受験期のそれをもはや通り越し、国内外問わず地理、歴史、芸術、政治、宗教といったありとあらゆる分野へ知的好奇心の触手を伸ばしていくことになるでしょう、全く無意識のうちに。
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では、どうしてそんなことが起こるのか!それを今から解説していきたいと思います。
このレポートでは【にほんごペラペラクラブ】の活動を経て、一人の早大生がどのように変わったのかにフォーカスしています。当イベントの具体的な内容は割愛させて頂きますので、そちらを知りたい方は他のサポーターさんのレポートをご覧ください。
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さて、私は2022年10・11月の両イベントに、サポーターとして参加しました。きっかけは、3号館1階窓の万国旗でした。2年ぶりに浴びた西北の秋風がそうさせたのでしょうか、卒業のためだけに復学した私は、窓に貼られたあの極彩色にどういうわけか足を止められたのです。置き看板にはこうあります。『にほんごペラペラクラブ』——————。
もしこれが単なる会話イベントだったなら、私は恐らく参加していなかったでしょう。日本語をこよなく愛する文芸専攻の私は、その反動としてか外国語を毛嫌いし、国際交流などしたいと思ったことは一度もありませんでした。ですが、このイベントは留学生に日本語を用いて日本語、ないしは日本文化を教えるというコンセプトだったのです。
「これは、腕が鳴るではないか」
バイクで日本を半年ほど放浪してきた直後だったというのもあり、ちょうどその経験を共有出来るような場所はないだろうかと探していた最中の出来事で、まさに晴天の霹靂でした。
そして、迎えた当日。オリエンテーションでICCスタッフから詳しい説明を受けていたことや、レジュメがきちんと用意されていたこともあって、スムーズにサポーターを遂行することが出来ました。そして私はその日のうちに、自分が受け持ったグループの中の一人、オーストリアから来た大学院生と仲良くなり、その場の流れで一緒にワセ飯を食べに行きました。私の熱意に応えようとしてくれたのでしょうか、彼はギブアンドテイクと言わんばかり私に英語を教えてくれました。帰り道、どうして自分はあんなにも国際交流を恐れていたのだろうと、一人、腹を抱えて笑ってしまったのを覚えています。これまで自分で勝手に作りあげていたハードルという名の幻想が崩れた瞬間でした。
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それから二ヶ月、一体何人の留学生と友達になったか数えきれません。彼らとはイベント内で会うよりも、イベント外で会うことの方が多くなっていきます。例えば、空きコマにカフェで集まってケーキを食べながら30分ずつ日英でLanguage Exchangeを行ったり、放課後には話題の映画を一緒に見にいったり。休日には、私の自家用車でドライブに行ったり、電車で鎌倉まで坐禅を体験しにいくなんていう日本人同士でもしないような過ごし方をしたこともあります。ICCが開催する他のイベントにも一緒に参加しました。上海から来た中国人留学生にお薦めの小説を教えてほしいと言われたときには、
「これは、腕が鳴るではないか」
と、彼女のために大型書店内をウキウキで探し回ったこともあります。
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周知の通り、早稲田は日本で留学生の受け入れ数が最も多い教育機関です。言い換えれば、いま日本において優秀な留学生が最も多い場所、それが早稲田の杜といえます。その巨大な渦の中に単身飛び込み、先述のように新しい出会いを得る度に、私にはある共通して思うことがありました。それは、
「彼らの知的好奇心の凄まじさは、一体なんなんだ」という驚きでした。
もし皆さんが、留学生に日本のことを一つ教えれば、彼らから十の質問が返って来ます。十の意見を主張すれば、たちまち百もの見解がテーブルの上を飛び交います。決して大袈裟に言っているわけではありません。例えば、日本がなぜ英語学習後進国なのかといったトピック。仮に教育に問題があるとしたら、本当に原因はそれだけか。教育を改善したとして、カタカナ英語というものが文化として存在する限り、他国のアジアに匹敵することは土台無理な話なのではないのか。明治期の英語学習はアジアで最も進歩していたが、これが関係しているのではないか、等々。授業ではありません。全くの日常会話からどんどん白熱していきます。こんな風に海外のエネルギッシュな人々と直に語り合うことで、私の大学生活は、6年目秋学期にして、これまでで最も充実した時間になりました。そして同時に、この場で爪痕を残すためにも、もっと様々な主題を多角的に考察できるようになりたいと渇望するようになり、いつの間にか興味の薄かった分野にまで関心が向き始めていたのです。これが、冒頭に書いたものの正体です。
無論、彼ら留学生が日本語で議論しているという点も無視できません。仮に私が逆の立場に置かれた時、一体どれほど渡り合えるだろうかと途端に怖くなります。道具を十分に使いこなせなければ、いくら材料を持っていても料理することは出来ません。中には、国内でやれればそれで十分だと感じる人がいるかもしれません。かつての私がそうでした。ただ、楽しさを知ってしまった今、あれを世界中の人と出来ると考えただけで、気分が高揚してしまうのです。ともすれば、私の生きる意義はここにあるのかもしれません。こうして気づけば、私の英語学習時間は情熱というエンジンを得て走り出したのです。
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さて、私は3月に大学を卒業し、4月より渡英する予定です。ここまで読んでくれた方であれば、私の決断の背景に何が潜んでいるのかがもうお判りいただけると思います。私は、【にほんごペラペラクラブ】を初めとするICCイベントを通じて、多くの留学生と出会い、大きな影響を受けました。私も彼らのように外へ飛び出し、様々な経験を手に入れたい。そしてそこで培った持論を、今度は母国語以外の言語で自在に語れるようになりたいのです。私がイギリスに行くと伝えると、ロンドン在住の知り合いが今日本にいるからと、すぐに会う日時を取り次いでくれる友達さえいました。世界は遠そうに見えて、行動次第ではこんなにも近く手繰り寄せることができるのです。
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人の数だけ人生があります。今回、私が体験した出来事が皆さんにそのまま当てはまるとは言い切れません。ですが、これだけは言えます。WASEDAには、世界中から人格的にも能力的にも優れた生徒たちが数多く在籍し、ICCでは彼らと出逢うための最高の場が提供され、その恩恵を享受できるのもまた、我々早大生だけということです。

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