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「国語が苦手なお国事情」 ~助教 平山のブータンつれづれ 2~

「国語が苦手なお国事情」 ――助教 平山のブータンつれづれ 2――

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター助教 平山雄大

ぶーつれ2-2

ゾンカと英語で授業が行われるブータンの小学校

【ゾ ンカ(語)】
主に西部で話されている。ブータンの国語。
【ヒンディー(語)】
インドの公用語だが、以前はブータンの学校の教授言語にもなっていた。

ブータンは多言語国家で、国内に20ほどの言語が存在しています。絶対的多数派のものはなく、国語である「ゾンカ」(カ=語)も母語話者数は国民の3割程度に過ぎません。すごく大雑把に分けると、ゾンカを母語としている人は西部の人たちで、東部の人、南部の人、中部の人…等その他の地域出身の人は、それぞれ別の母語を持っています。実は、このようなゾンカを母語としない7割の人はもちろんのこと、ゾンカを母語とする3割の人であっても、ゾンカ=国語の読み書きは苦手です。日常的にゾンカを読んでいる/書いているという国民はほんの一握り。ゾンカ版の新聞は全然読まれていません。ゾンカの本はそもそもあまり出版されていません。ゾンカでFacebookをやっている人も10,000人に1人くらいです。

では、ブータンの人たちが日常的に接し、使っているのは何語なのか?……正解は英語です。学校教育は、全国的な量的拡大を目指す中でもう50年も前に教授言語を「ヒンディー」から英語に切り替え、現在にいたるまで、ほとんどの科目は英語で教えられてきました。国語はゾンカで書かれた教科書を使ってゾンカで教えられていますが、数学、生物、化学、歴史、地理といった科目は、英語で書かれた教科書を使って英語で教えられています。小学校から大学まで、学校現場の本流は英語による教育なのです。英語が教授言語に採用された理由には、「国際化に対応できる人材を育成するため!」といったプラス要素がよく取り上げられますが、それだけではなく、圧倒的に語彙数が少ないゾンカを「近代」学校教育の教授言語として使用するのに難があった、というマイナス要素も潜んでいそうです。

こうした学校教育が大きく影響し、お坊さんを除くと、ブータンの識字者(最新の統計によると成人識字率は55%※)は「ぶっちゃけ、読み書きは国語よりも英語のほうが得意ですわ!」という人ばかりです。会話だって、敬語や丁寧表現を適切に使いこなせる人はさらに少数派でしょう。

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ゾンカで書かれた小学校の教科書

ゾンカは、2009年にユネスコがまとめた消滅危機言語(約2,500の言語がリストアップされました)に選ばれ、「脆弱」(Vulnerable)というカテゴリーに入れられています。「文化の保護と振興」を国家開発の柱のひとつに掲げる政府はゾンカを普及させようと頑張っていますが、どうにもこうにも功を奏していない様子です。

問題は、英語ができる利便性が、ゾンカができる利便性よりも優っている社会に潜んでいるとも言えます。現在のブータンの社会構造では、基本的にゾンカができても「良い就職」には直結しません。ホワイトカラーのオフィスワークをするうえで英語は必須ですが、ゾンカは必ずしも必要ではないからです。正確なゾンカ能力が求められるのは、ゾンカ教員、国会議員(国会の議事進行や答弁はゾンカで行うという決まりがあります)、ゾンカ放送のアナウンサー、ゾンカ版新聞の編集者、映画の脚本家等非常に限られた職業のみです。

言語は人々の暮らしに密接に関わるもののひとつです。言語を通して国や地域を垣間見ると、また新たな発見があるかもしれません。

※Policy and Planning Division, Ministry of Education (MoE) (2015) Annual Education Statistics, 2015, Thimphu: MoE, p.5.

 

IMG_7352「スマホと坊主とエトセトラ」――助教平山のブータンつれづれ1

 

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