自分が何を学びたいのか、何を思ったのか、何を変えたいのか、体験を通じて密に考えることで踏み出した将来への一歩
人間科学部2年 田中明香莉(たなか・あかり)
私は2022年夏、公認プログラムWIN行政コースに参加しました。受け入れ人数は1人、他大学の学生もおらず、初めは大変緊張していました。そんな中で私がこの夏を充実させた方法についてお話しします。
就業先と実施内容について
主催 :早稲田大学キャリアセンター
プログラム:公認プログラムWIN 行政コース
日程 :8月1日開始、9月20日終了[合計9日間]
就業先 :埼玉県本庄市役所(行政管理課、健康推進課母子保健係)
本庄市は群馬県に隣接する、埼玉県の一番上に位置しています。電車、新幹線、高速道路など交通の充実からベッドタウン的側面もあります。元々本庄早稲田のある市で、早稲田大学との関係性が強い市です。2022年10月時点での人口は77600人ほどで、うち65歳以上が22600人ほどを占めています。
今回私は、行政管理課と健康推進課の二箇所でそれぞれ2日間と7日間にわたって就業体験を行いました。
行政管理課では主に、文書管理や人事、規定の見直しなど、市役所内部に働きかける事務的業務を取り扱っています。今回は具体的に、オリエンテーション、官庁内見学、会議会場の設営、文書管理のファイリング、運賃規定の見直しなどをさせていただきました。
健康推進課では母子保健、成人保健、発達教育支援などを請け負っており、近年ではコロナウイルス関連についても取り扱っています。私はその中でも健康推進課内部の母子保健係にて主な実習を行いました。育児講座、赤ちゃん訪問、健康診断など、母子に関する内容が中心となり、他にも虐待対策会議や、本庄早稲田提携の認知症普及啓発イベント講演会、事務作業にも参加しました。
就業体験することの意義
みなさんは育児講義や健康診断と聞いてどのようなイメージを浮かべますか?
赤ちゃんの特性とか教えてもらえるんだよね、育児上の注意とかを受けるのかな、普通に体重とか測るんじゃないの、これらは私の友人に聞いて出てきた答えです。もちろん、育児講義では赤ちゃんの特性や注意、親としての心構えをきちんと教わったり、健康診断では外的・内的に問題がないか専門的な視点から確認していきます。
しかし、これらは表向きの役割。実は根底に隠れたもっと重要な意味がありました。
職員の方々のいる部屋にいると、皆さんがしきりに電話している様子がよく見えます。疑問に思い、尋ねてみると、「育児上、大きなリスクを抱えていたり、精神的にサポートが必要な家庭などに電話をかけてアプローチをおこなっている」という旨の答えが返ってきました。私は大変驚きました。どうして各々の家庭について、リスクが大きいことやサポートが必要であることがわかるのか、理解できなかったのです。
そこで鍵になっていたのが、先に挙げた育児講義や健康診断、赤ちゃん訪問(生後4ヶ月を迎えるまでの新生児がいる全ての家庭へ訪問し、計測、育児相談、検診や予防接種等の案内を行う)でした。なんと職員の方々は、それらを通じて地域の方々と会話し、顔を合わせ、コミュニケーションをとることで状況の把握をおこなっていたのです。地域住民と関わる全ての機会できちんと観察を行うことで、ハイリスクケースのリストアップやメンタルケアなど、一人ひとりへの丁寧な密着が実現できていたのです。また、2回セットの育児講義も、うち一回を民間保育園にて行うことにより、家庭と地域の “顔繋ぎ”が行われていました。
地域レベルのネットワークを構築することで、継続した地域支援ができる。継続した地域支援があるからこそ、こぼれ落ちのない支援ができる。「助成金などの一側面的な支援だけでなく、知恵や安心、住みやすさの提供を」「そして地域レベルで健康に暮らすことが最善」という職員の方の言葉が、福祉や支援の本質を体現しているように感じられて感銘を受けました。
就業するまでは表面的にただ健診や育児講座をするようにしか見えていなかった業務。さらに言えば、健康推進課が何を行っているのかすら知りませんでした。就業体験することの意義はまさに、「体験でしか得られない学びがある」ことだと実感しています。
WINとしての魅力
ここでは大きく分けて3つ、ご紹介いたします。
キーワードはずばり、「事前学習・10日間・成長へのフォーカス」。
一つ目の「事前学習」についてです。突然実際のインターンシップへ行くわけではなく、まずは春学期にインターンシップ講義を受講します。その中でキャリア形成について、人間的力量について、体験の言語化について、マナーやリスクマネジメントについて、丁寧に学習していきます。さらに就業先が決まった後も書類を提出し、就業先とやりとりを行い、段階を踏んでしっかりと準備を行う必要があります。自分がなぜインターンへ参加したいのか、なぜその就業先を選んだのか、行って何を学びたいのか。事前学習でこう言ったことをきちんと明確にしておくことで、自分の考えや課題が整理された状態でインターンへ臨むことができます。何も考えずに参加するのと比較すると、得られるものが全く異なってくるはずです。
二つ目は「10日間」というキーワード。通常の企業インターンでは3日以下のものも多く、体験も断片的なものになってしまいがちです。しかしWINでは基本、10日間以上の就業体験を行います。就業先と相談しながらも、その日その日で予定を組み、10日以上みっちりと濃い体験ができるのも特色と言えるでしょう。
最後に「成長へのフォーカス」です。WINのインターンは、一般のインターンとは異なり、選考の場になることはありません。だからこそ、自分の学びや成長へと焦点を当てることができるのです。疑問をどんどん質問するもよし、日頃の課題についてアドバイスをもらうもよし、やってみたい体験について可能な限り打診するもよし。純粋な成長の機会というのは意外と貴重なものなのです。
自分のキャリアに役立ったこと
行政という特殊な性質を持った仕事がどのようなものかを体験できたことは自分にとって大きな糧となりました。普段生活しているだけではわからない特徴や内情が一番近くで体験できる機会はなかなかありませんし、自分のこれからのキャリア形成の参考になりました。
また、就業を通じて得た気付きや疑問を大学へ持ち帰ることができました。私は福祉を主に大学で学んでいますが、今回感じたことをベースに、ゼミでの研究に生かしたいと考えています。
自分が何を学びたいのか、何を思ったのか、何を変えたいのか、体験を通じて密に考えることで、自分の不透明だった将来にも一歩踏み出せたと感じています。
就業を考えている方へメッセージ
百聞は一見にしかず。机上で学習するのと実際に体験してみるのでは、感じ方も学べることも全く異なります。その学びや成長は、自分次第で、時間や労力を含めたすべてのコストを大幅に超えることができるはずです。
行政に興味がある人、インターンを体験したい人、何かしたいけれど何をしたら良いのかわからず困っている人、プログラムが少しでも気になる人、あと一歩が踏み出せない人、その他全ての人。性別や学年問わず、ぜひ挑戦してみてください。「この夏、参加してよかった」と、そう言える体験が、必ず待っています。