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鼠径部痛の既往歴を有するアスリートにおける方向転換動作中の筋シナジー
- Posted
- 2025年12月16日(火)
鼠径部痛の既往歴を有するアスリートにおける方向転換動作中の筋シナジー
概要
本研究は、鼠径部痛既往歴者に特徴的な方向転換動作中に体幹筋活動の偏りと骨盤安定性の低下を示し、筋協調性の破綻を明らかにした。鼠径部痛の再発との関連を今後追跡し検証していく必要がある。
これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)
鼠径部痛は方向転換動作を伴う競技で高頻度に発生し、再発も多い。再発の予防をするには鼠径部痛の既往歴者を細かく調査する必要があったが、従来研究は筋力や動作解析中心で、全身の筋協調性を考慮した報告は限られていた。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
本研究では、鼠径部痛既往者が着地・減速・加速局面で異なる筋シナジー構成を示し、体幹筋の過剰活動と骨盤安定性の低下が確認された。

そのために新しく開発した手法
筋電図データを筋シナジーを用いて解析し、動作中の筋シナジー構造を抽出。胸郭(胸周辺)から下半身までの筋活動を統合的に評価する新たな枠組みを確立した。
研究の波及効果や社会的影響
筋協調性の変化を指標に用いることで、再発予防やリハビリ設計に新しい視点を提供し、競技復帰後の再受傷リスク低減に貢献できる可能性がある。
今後の課題
被験者数の拡大や様々なレベルのアスリートへの適用、長期的追跡による因果関係の検証、介入効果を評価する実験的研究の発展が今後の課題である。
研究者のコメント
本研究では、鼠径部痛の再発要因を「筋協調性の乱れ」という観点から明らかにしようとしました。単なる筋力の強弱ではなく、体幹から骨盤・下肢にかけた全身的な連動の重要性を示せた点が成果です。再発予防のための新しい評価・トレーニング指標として社会に還元できる研究であり、アスリートがより安全に競技を続けられる未来を目指しています。
用語解説
※1鼠径部痛
鼠径部痛とは、股関節周囲や太ももの付け根に生じる痛みであり、方向転換やキック動作を繰り返す競技で多く発生するスポーツ障害である。
※2筋シナジー
筋シナジーとは、複数の筋が協調して活動することで効率的な運動を実現する神経制御の単位であり、運動の簡略化と安定性に寄与する概念である。
論文情報
雑誌名/Journal:Sports
論文名/Title:Muscle Synergy During Cutting Movements in Athletes with a History of Groin Pain
執筆者名・所属機関名/Authors and Affiliated Organisation:
齋藤裕美・早稲田大学スポーツ科学研究科
秤谷名鷹・東京大学大学院総合文化研究科生命科学専攻、国立障害者リハビリテーションセンター研究所 運動機能障害部
Teerapat Laddawong・Department of Physical Therapy, Faculty of Allied Health Science, Thammasat University
曽我利明・芝浦工業大学 SIT総合研究所、日本学術振興会
茂木達哉・早稲田大学スポーツ科学研究科
金岡恒治・早稲田大学スポーツ科学学術院
松永直人・聖学院大学 基礎総合教育部
広瀬統一・早稲田大学スポーツ科学学術院
Publishment Date(Local Time):2 October 2025
Publishment Date(Japan Time):2 October 2025
(オンライン掲載の場合/For online publication)
URL:https://www.mdpi.com/2075-4663/13/10/338
DOI:https://doi.org/10.3390/sports13100338
研究助成
研究費名/Research Fund:国立研究開発法人 科学技術振興機構 次世代研究者挑戦的研究プログラム
研究課題名/Research Subject:鼠径部痛の予防を見据えた胸郭-体幹協調性エクササイズ法の開発
研究代表者名・所属機関名/Research Representative and Affiliated Organisation:齋藤裕美・早稲田大学スポーツ科学研究科