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小・中学生野球選手における踵骨骨端核の発育段階と踵部痛との関係/Exploring the Link between Calcaneal Apophysis Maturation and Heel Pain in Youth Baseball Players

概要

本研究では、7〜15歳の男子野球選手336名を対象に、踵骨骨端核の発育段階と踵部痛との関係を調査しました。踵部痛の有症率は14.6%で、踵骨骨端核の発育段階と踵部痛との間に有意な関係は見られませんでしたが、踵骨骨端核の発育完了段階(Stage 5)では踵部痛を有するものはいないことが明らかとなりました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

骨端症は、骨端核が閉鎖していない骨格未成熟期に発生する小児期特有のスポーツ障害であり、骨端部の発育段階が未成熟であることが骨端症の発症リスクとされています。そのため、小児期における骨成熟度の評価は骨端症の予防に有用であると考えられます。踵骨骨端症(Sever病)は、発育期に見られる骨端症の一例で、特に踵部の痛みを特徴とし小児における踵部痛の一般的な原因とされています。腰椎疲労骨折やOsgood–Schlatter病における先行研究では、骨端核の発育段階と発症リスクが検討されているものの、特定の集団を対象に踵骨骨端核の発育段階と踵骨骨端症との関係を報告した研究はありませんでした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

これまでの先行研究では、踵骨骨端核の発育段階はX線やMRI、CT画像が用いられていたことから、小児に対する使用には適していないと感じていました。そこで、非侵襲的である超音波画像診断装置(図1)を用いて踵骨骨端核(図2)を描出し、発育段階(図3)を明らかにしようとしました。加えて、踵骨骨端核の発育段階と踵部痛との関係を調べました。

図1. 超音波測定時における対象者の肢位 (A),超音波測定時におけるプローブ位置 (B,C;黒点線:撮像面,黒実線:測定をした箇所)

図2. 踵骨輪郭画像の作成 (A:各超音波画像,B:各画像を繋ぎ合わせた踵骨輪郭画像)

その結果、7〜15歳の男子野球選手において踵骨骨端核の発育段階と踵部痛との間に有意な関係は認められませんでした。しかしながら、踵骨骨端核の発育完了段階(Stage 5)では踵部痛を有するものはいないことが明らかとなりました。

(3)そのために新しく開発した手法

図1.2に記載した手法で、超音波画像診断装置を用いて踵骨骨端核の発育段階を明らかにしました。その結果、踵骨骨端核の発育段階を5段階に分類しました (図4;Stage 1,Stage 2,Stage 3,Stage 4,Stage 5)。Stage 1は骨端核が存在しない段階と定義しました。Stage 2は小さな骨端核が出現する段階から骨端核が踵骨体部後方部の50%未満を覆っている段階と定義しました。Stage 3は骨端核が踵骨体部後方部の50%以上を覆う段階と定義しました。Stage 4はアキレス腱側の骨端核は結合しているが、足底腱膜側は未結合である段階と定義しました。Stage 5は骨端核が完全結合している段階と定義しました。

図3. 踵骨骨端核の発育段階

(4)研究の波及効果や社会的影響

踵骨骨端症は骨端部 (成長軟骨層および骨端核) に繰り返し機械的負荷が加わることで発症し、踵骨骨端核が閉鎖していない骨格未成熟期に発生します。小児期の身体発育には個人差が大きく、各個人の発育具合に合わせたトレーニング管理やケガ予防プログラムの作成が急務となっています。本研究の結果より、スポーツ現場・臨床現場で踵骨骨端核の発育段階をモニタリング・評価できる可能性が示唆され、今後の踵骨骨端症の予防プログラムに寄与することが考えられます。

(5)今後の課題

本研究は横断的研究※1であったため、踵骨骨端核の発育段階と踵部痛の有無に関係はなかったものの、踵部痛を有していたものがいつから発症していたのかは不明です。今後は縦断調査※2を実施することで、より正確な踵骨骨端核の発育段階を明らかにできるうえに、踵骨骨端症の発症リスクが高い発育段階や無症状になる発育段階を特定できる可能性が考えられます。

(6)研究者のコメント

踵骨骨端症の発症要因として明らかにされているエビデンスの多くは、スポーツ現場・臨床現場では評価できない手法を用いておりました。我々はスポーツ現場や臨床で活動する研究者として、スポーツ現場で適用できうる予防プログラムやその知見を普及させることで、スポーツに励む「子どもをけがから守る」ことを目標にしております。その中でも本研究の成果である、超音波画像診断装置を用いた踵骨骨端核の発育段階は、今後の踵骨骨端症の予防の一端を担う可能性があると考えます。
最後に、本研究に参加してくださった選手、ならびに協力してくださったコーチの方々に感謝いたします。

(7)用語解説

※1 横断研究
ある特定の対象に対して、外傷・障害に関連する評価や介入効果などをある一時点において測定し、検討を行う研究の手法を指します。

※2 縦断調査
ある特定の対象に対して、一定期間にわたって追跡し、その間に発生する変化や発展を観察する研究の手法を指します。

(8)論文情報

雑誌名:Orthopaedic Journal of Sports Medicine
論文名:Exploring the Link between Calcaneal Apophysis Maturation and Heel Pain in Youth Baseball Players
執筆者名(所属機関名):本間 勇伎(早稲田大学スポーツ科学研究科)、筒井 俊春(早稲田大学スポーツ科学学術院)、坂槙 航(早稲田大学スポーツ科学研究科)、樋口 明奈(早稲田大学スポーツ科学研究科)、中村 絵美(順天堂大学保健医療学部理学療法学科)、鳥居 俊(早稲田大学スポーツ科学学術院)

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