このシステマティックレビューは、RCTs※1の結果に基づき、加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)患者におけるフラボノイドの筋量、筋力および身体機能への影響を評価することを目的としました。フラボノイドは、サルコペニアの治療に大きな可能性を持つことを明らかにしました。
研究結果の概要
これまでの研究で分かっていたこと
サルコペニアは、主に高齢者において一般的に観察される、筋力と身体機能の漸進的な低下によって特徴づけられます。サルコペニアの進展は、酸化ストレスや炎症反応など多くの要因と関連しています。フラボノイドは、抗酸化、抗炎症、抗がんなどの異なる薬理特性を持つ植物由来のフェノール化合物です。動物における筋代謝へのフラボノイドの肯定的な影響を示す証拠は多くありましたが、すべての臨床研究が一貫して好ましい効果を示しているわけではありません。そこで、上述の点を考慮に入れて、サルコペニア患者におけるフラボノイドの効果の客観的な評価が必要となります。
今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
検索された309件の研究の中から、合計6件のRCTが選択基準を満たしました。RCTは、茶カテキン、エピカテキンおよびイソフラボンの介入の主な成果を評価しました。筋量は3つの研究で有意に増加し、筋力は2つの研究で有意に向上し、身体機能は2つの研究で有意に改善しました。大多数の研究(6つ中5つ)で、フラボノイドの介入によって少なくとも1つの指標が改善しました。フラボノイドは、サルコペニアの症状を改善するために大きな可能性を持つことが明らかになりました。
そのために新しく開発した手法
コクランのアプローチに従い、我々は論文を体系的に検討し、PRISMA※2ガイドラインに準拠して研究結果を公表しました。サルコペニアと診断された成人における骨格筋量、筋機能および身体機能へのフラボノイドの影響を評価するために、RCTのシステマティックレビューを実施しました。
研究の波及効果や社会的影響
本レビューは、サルコペニア患者群において、フラボノイド介入は骨格筋量、または身体機能を向上させることに有効であることが判明しました。今後は、フラボノイドの持つ他の生理活性の検証や、機能性食品としての応用が期待できます。
今後の課題
本レビューは、選択基準を満たした研究の数が少ないこと、サンプルサイズ、そして参加者の性別比の不均衡があります。よってフラボノイドの効果は過小評価される可能性があります。将来的には、フラボノイドの作用機序を明らかにし、その効果の有効性を特定するために、この分野でよりよく設計されたRCTが実施される必要があります。
研究者のコメント
慢性炎症の予防や改善に抗酸化・抗炎症作用のある機能性食品が活用されていますが、我々はその作用機序を解析しています。過去の我々の研究成果については、以下の論文をご参照ください。
Suzuki K. Chronic Inflammation as an Immunological Abnormality and Effectiveness of Exercise. Biomolecules. 2019; 9(6):223. https://doi.org/10.3390/biom9060223
用語解説
※1 RCTs
ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trials:RCTs)は科学的根拠(エビデンス)を証明するために優れた研究デザインとされています。
※2 PRISMA
PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses)は、システマティックレビューやメタアナリシスの報告に関する品質を向上させるためのガイドラインです。
論文情報
雑誌名:Nutrients
論文名:The Effects of Flavonoids on Skeletal Muscle Mass, Muscle Function, and Physical Performance in Individuals with Sarcopenia: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials
執筆者名(所属機関名):呉聡(早稲田大学)、鈴木克彦(早稲田大学)
掲載日時:2023年9月7日
掲載URL:https://www.mdpi.com/2072-6643/15/18/3897
DOI:https://doi.org/10.3390/nu15183897