アスレティックトレーニング研究室(曽我利明、広瀬統一)と株式会社S-CADE.が共同で、ハムストリング肉ばなれ予防運動として行われるノルディックハムストリングエクササイズの達成度を可視化するアプリ、『Nordic Angle』を開発しました。(インストールはこちらからhttps://apps.apple.com/jp/app/nordicangle/id6447578435)
研究結果の概要
これまでの研究で分かっていたこと
ハムストリング肉ばなれは筋に加わる伸張性負荷に耐えられずに生じるスポーツ外傷です。多くの競技で頻発し、かつ再発率が高いため予防や再発予防が重要視されています。予防に効果的な運動として、ノルディックハムストリングエクササイズ(足首を固定した膝立ちの状態で徐々に上半身を前に倒す)が広く用いられています。
このエクササイズ中に、ある時点で負荷に耐えられなくなって脱力してしまう点を「ブレイクポイント」と呼びますが、ブレイクポイントが小さい、すなわち体を床面近くまで倒せる人はハムストリングの伸張性筋力が強く、ハムストリング肉ばなれのリスクが低いことが報告されています。
今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
ブレイクポイント角度を定量化することは、トレーニングの達成度を通じてハムストリングの伸張性筋力評価やリスク評価に貢献する可能性があります。しかし、これまでに簡易にブレイクポイントを評価する手法がなく、スポーツ現場でブレイクポイント角度が広く評価および活用されていないのが現状です。「スポーツ傷害予防に取り組む皆さんが簡易にブレイクポイント角度を測定でき、評価結果にもとづくハムストリング肉ばなれ予防・再発予防プログラムの開発に貢献する。」これが『Nordic Angle』開発の目的です。
そのために新しく開発した手法
『Nordic Angle』は画像認識の手法を用いたアプリで、膝関節の角速度を即時的に測定します。その結果をもとに、角速度がある閾値を超えた角度をブレイクポイント角度として評価します。スマートフォンだけで即時的にブレイクポイント角度を測定できるのが最大の特徴です。
研究の波及効果や社会的影響
この開発により、ブレイクポイント角度を評価指標としたハムストリング肉ばなれ予防・再発予防のためのプログラム開発の促進や、受傷後の競技復帰基準の明確化による再発率低下などが期待できます。また、アスレティックトレーニング研究室の過去の研究では、ハムストリングのなかでも最も肉ばなれ発生頻度が高い大腿二頭筋長頭は、ブレイクポイントアングルが小さい時点の方が、活動量が高いことを明らかにしています(Hirose et al., 2021)。肉ばなれを受傷した筋の特性に合った予防運動の開発などにもつながることを期待しています。
今後の課題
本アプリを活用したPDCAサイクルにもとづくハムストリング肉ばなれ予防プログラムやシステムの開発が今後の課題です。学術的にはハムストリング肉ばなれの多くは予防可能とされていますが、現実世界では必ずしも減っていません。科学と現場のギャップを埋めることが、最大の課題です。