Research Institute for Letters, Arts and Sciences早稲田大学 総合人文科学研究センター

その他

現代社会における「想像力」の総合的研究(2017~2021年度)

現代社会に、人文学の意義を軽視し、民主主義の手続きを無視する風潮が見いだされることは、多くの研究者が共通して懸念していることである。この際、人文学の研究者が、みずからの研究を介して人文学の意義を再び鮮明にし、そこで捉え出される価値観・人間観・社会観の多様性を媒介として、民主主義の意義を再確認する必要がある。それはまた、人間にとって基礎的な価値を再考することをも可能にするだろう。
そこで本研究は、人文学の多様な営みに通底する「想像力」あるいは「想像力の欠如」の問題に注目する。知識を基盤としていると言われる現代社会は、人間の「想像力」に何をもたらし、何を簒奪しているのだろうか。本研究は、この課題に総合的に応えることを企図し、哲学・社会学・心理学・教育学・文学・歴史学の研究者による学横断的な共同研究組織を形成する。
研究期間には「想像力」研究会を、一年度あたりおよそ四回開催する。毎回、研究者二名が話題提供を行い、その内容について出席者全員で討議する。また、適切な講演者を招き、話題提供を行ってもらう他、シンポジウム形式の研究会を開催することも予定している。さらに、いずれの行事も公開で開催し、学生・大学院生の出席を促すことで、学術院の教育・研究に貢献する。毎回の行事の後には、話題提供者にその内容の要旨をまとめてもらい、それを研究報告として人文研のHPにアップする。

研究内容

藤本一勇:想像力の欠如とは、端的に言えば、他者性の欠如、他なる可能性へのまなざしの欠如である。デジタル化し、ピンポイント化した現代の情報環境において、表面と深淵との緊張関係が失われているが、そうしたネットワーク社会において「織物」という語源をもつ「テクスト」概念がどのような力を持ちうるかを、デリダの脱構築思想のなかに探る。想像力の脱構築と脱構築する想像力とが描く双曲線的な軌道を追うことによって、最終的には、新たな人文学の可能性と来たるべきデモクラシーとの関係を追究してみたい。

森由利亜:テーマ「宗教をめぐる想像力」
自分が専攻する伝統中国における宗教、特に道教の事例を踏まえながら、宗教をめぐる想像力について考察する。宗教が示す非合理や暴力は、どのようにして社会や人々の想像力によって包摂もしくは攻撃・排除されてきたのであろうか。どのように設問すべきかをも含めて考えながら、現代日本における宗教への想像力の欠如や、拒絶反応についても思索を及ぼせれば幸いである。

渡邉義浩:『論語』や他の儒教経典に記された孔子の言葉を検討することにより、どのような孔子が「想像」されていき、そこにいかなる目的が含まれているのかを検討する。

御子柴善之:20世紀にわずかに語られた「道徳的想像力」(ジョンソン)の理論を批判的に検討しつつ、環境倫理において想像力が有効な地位を占めることができるかどうかを検討する。

越川房子:マインドフルネスという心的態度が、他者の視点の想像力ともいえる「共感性」にどのような影響を与えるのかについて検討する。

藤野京子:社会不適応状態で長期間過ごしてきた累犯犯罪者にとって、社会適応していくことが自身にとってどのようによいかの想像力を広げることが可能かどうかを検討する。

岡部耕典:「社会学的想像力」(ミルズ)と「当事者研究」(熊谷)の可能性と限界をめぐり、現実/事件を踏まえつつ探索的に考察する。

草柳千早:現代社会における、他者への想像力の貧困と回復可能性について、社会的相互作用論の観点から考える。

嶋崎尚子:かつての社会、先人たちの日常的営みを「社会的経験」として共有し、現代社会で活用することの価値、ならびにそのために必須の「社会的想像力」の涵養にむけた実践的な方法・手段について、検討する。

竹中均:ライトノベルにおける社会的想像力について、具体的な作品によりながら考察する。

山田真茂留:社会的な想像力、すなわち他者へのコンサーンやケアといったものが及ぶ範囲を拡げていくにはどのようにしたらいいのか、またそれが広く伸張していく際に中身が稀薄化するのを防ぐにはいかなる手立てがあるのかに関し、社会学的な洞察を深めていく。

川副早央里:多様な人々が集う地域社会において、差異をもつ他者と理解や対話を深め、地域づくりに際して合意を形成していくことが求められるとき、「想像力(の欠如)」はどのような影響をもたらすのか、また社会として他者や地域の将来への想像力を育む場合にはどのような課題と可能性があるかについて、実際のまちづくりの事例を用いて検討したい。

沖清豪:人文学系学部で学ぶ中等教育段階の教職を志望する学生にとって必要とされる「想像力」とは何か、およびその習得可能性について、また現職教員の「想像力の欠如」が何をもたらしうるのかについて検討する。

堀内正規:虚構のリアリティにおける人間の生き方の提示と想像力による差異の横断、双方の質を、現代日本文学やアメリカ文学を対象に検討する。

冬木ひろみ:16~17世紀のイギリス演劇が、想像力により、いかに社会的・政治的にも波及する力を持ち得たかを考察することにより、現代社会における想像力の有効性を検討する一助としたい。

松永美穂:「越境」と「他者」への想像力をテーマに、現代ドイツ語圏における文学作品を考察していく。

豊田真穂:フィランソロピー事業においては、将来の社会に対する「想像力」と、事業対象者に対する「想像力」がともに必要であり、この点について20世紀半ばのアメリカにおける具体的な事業に焦点をあてて検討する。

研究報告

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WASEDA University

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