- News
- 【開催報告】インド・ボドランドの若者の願望から考える―アジアとグローバルな文脈におけるオルタナティブな未来への想像力―
【開催報告】インド・ボドランドの若者の願望から考える―アジアとグローバルな文脈におけるオルタナティブな未来への想像力―
Dates
カレンダーに追加0203
TUE 2026- Place
- 早稲田大学戸山キャンパス33号館3階第一会議室
- Time
- 13:00〜14:30
- Posted
- Tue, 10 Feb 2026
インド・ボドランドの若者の願望から考える
―アジアとグローバルな文脈におけるオルタナティブな未来への想像力―

発表者
Dr. Balawansuk Lynrah(東京大学 国際高等研究所 東京カレッジ・ポストドクトラル・フェロー)
発表題目
Imagining alternative futures in Asian and global contexts: Insights from the aspirations of young people in Bodoland, India
イベント概要
本企画では、「アジアとグローバルな文脈におけるオルタナティブな未来への想像力」をテーマに、地理学者Balawansuk Lynrah氏による研究発表と、参加型調査方法の実演を英語で開催しました。
若者たちは、社会が望む未来を託され、時に期待され、時に批判される存在です。日本でも、若者は内向き志向で、守りに入っているという批判を耳にすることがあります。しかし、こうした若者たちの選択の背景には、本人たちだけではどうにもできない複数の構造上の制約が存在しています。本企画では、インド東北部・ボドランドの若者の生きられた経験を参照しながら、日本の若者が直面する課題を見つめ直し、さらにグローバルな規模でつながりあう問題ととらえながら、対話の場をひらくことを目指しました。
Lynrah氏は、若者たちがどのように自らの未来を想像し、切り開いていくのかを研究する地理学者です。子ども・若者の地理学、様々な未来の可能性に関する研究、日常政治、開発、正義などの領域に関心があり、博士課程進学前の2011年から、ボドランドのコミュニティに根差した団体での活動に従事していました。その経験は若者たちとの現在の研究に大きな影響を与えています。
企画の前半では、研究成果をご紹介いただき、あわせてLynrah氏が用いた参加型の研究手法であるロードマップ作りに参加者全員で取り組みました(本発表と関連するLynrah氏の論文はこちら)。後半では、発表内容に関する質疑応答と、ロードマップ作りについてふりかえりの時間を持ちました。
ボドランドの若者の政治的活動の中心に位置する学生組合が、未来ビジョンを達成するための戦略を優先する運動を進めていく中で、組織内の差異に応答しづらくなっている状況に鑑み、誰にとっての願望であり、誰がそこから取り残されていくのか、という問題をLynrah氏は提起します。周縁化されたグループによる組織の内部で、新たな周縁化が生じるという状況は、差別や排除を再生産しない実践を構想するうえで注目すべきポイントです。
主流派である学生組合とは性質の異なる動きのひとつとして、Lynrah氏はボド族の民族音楽・ダンスグループSifung Harimu Afadを紹介しました。自らのルーツとなる音楽を奏で、継承していくことが困難になっているという危機的状況を前に、若者たちが自ら組織したグループです。このグループは、楽器は男性、ダンスは女性のみが行うという民族文化における性役割を問い直し、女性も楽器演奏に、男性もダンスに参加するかたちでパフォーマンスを行っています。伝統を変えるという、若者たちの新しいアイディアやそれに基づくアクションに対して大人たちは反対しなかったのか、という質問が出ました。Lynrah氏は、大人たちは、若者たちの取り組みにあからさまな抵抗の姿勢は示していないと話し、高度な技術を要する楽器演奏に卓越すること自体が、彼女たちを鼓舞していたため、結果的にコミュニティの大人たちも彼女らを認め、誇りに思うようになったと説明しました。
若者が思い描く様々な未来を可視化するためにLynrah氏が用いた手法が、参加型の質的調査であるロードマップ作りでした。ボドランドの若者たちはロードマップ作りを通して、自分の現在地と望ましい未来の間に、「万が一に備えた」複数の道筋を描きながら、自身の願望を語ったそうです。研究発表の後、イベント参加者も実際にロードマップ作りに取り組みました。その後、実際に未来への展望を紙に描き出してみることで、どの部分が不鮮明であるか、どのような価値を自分の人生の基盤として大切にしていくかといったことが、参加者の間で確かなものになっていきました。ロードマップの作成は、自分自身をふりかえることにもつながり、さらに各自のロードマップ作成過程における発見や気づきを参加者全員で一緒にふりかえることで、互いの気づきを促す機会にもなりました。
書き出した項目に優先順位をつける作業は皆頭を抱えましたが、就職や学位など、狭義の「将来像」から解き放たれ未来を想像することで、個別の問題としてアプローチした場合には不可視化される恐れのある項目も、マップ上に浮かび上がったのではないかと考えます。こうしたクリエイティブで包括的な参加型調査手法は、大人の想定した枠組みに限定された質問項目では浮上しにくい回答をつかみ取るのに有効であることが良くわかりました。それだけでなく、調査を行うこと自体が、調査者と若者たちとの間に「楽しい」時間を生じさせ、力を取り戻させる(エンパワメント)の契機になるのではと考えさせられました。
周縁化された若者についての研究、ではなく、周縁化された若者たちと共に行うLynrah氏の研究のあり方は、日本に暮らす若者当事者である参加者や、様々な立場性を帯びた人びとを研究する本企画の企画者たちにとっても示唆に富むものであり、学びの実践と研究が同時に立ち上がるような場づくりの可能性を考えさせるものでした。
開催概要
- 日時:2026年2月3日(火曜日) 13時00分~14時30分
- 場所:早稲田大学戸山キャンパス33号館3階第一会議室
- 主催:総合人文科学研究センター「現代社会における危機の解明と共生社会創出に向けた研究」部門(代表:村田晶子・文学学術院教授)
- 企画・運営:齋藤梨津子(文化構想学部助手)、城田美好(文学部助手)