
筑摩書房 初版 刊行日 2025/8/5 新書版・208ページ ISBN:978-4-480-68530-8
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480685308/
自分で決められる環境というのは、私たちにとって望ましい環境と考えがちです。その一方で、「自分で決めてください」と言われると緊張してしまう、という人も少なくないでしょう。本書は自己決定に焦点を当てて、自己決定を推進する社会でなぜ息苦しさを感じるのか、自己決定を推進することで生じる不具合は何なのか、といったことについて社会学を用いて検討します。
従来、自己決定は自由について論じる政治哲学でおもに扱われてきました。しかしながら、決めることというのは「社会的」「社会学的な」側面が多々あります。たとえば、進路を決めるにしても、われわれはただ漠然と決定をしているのではなく、周囲の人や所属している場の文化などに大きな影響を受けます。同時に、決定をすることで責任が発生することも少なくありません。決定による責任を気にするあまり、なんとなく決定することを避けてしまったり、ほかの人に決定を委ねてしまうといった経験をしたことのある人もいるでしょう。
自己決定というのは、あまり考えず運用してしまうと、間違った決定を赦さず、決定したことを責任もって遂行できる「強い個人」を想定しがちです。しかし、私たちは自分を律して決定を遂行するばかりでは息が詰まってしまいます。時には、「正しい道」がわかっていても、あえてのんびり過ごしたり、脱線をしたりといったこともやりたくなるものです。本書は自己決定を強調しすぎることにより生じる落とし穴や葛藤などについて考察します。
〈研究内容紹介〉
私はもともと自己決定という概念が苦手でした。決定による責任を意識してしまうからです。だからこそ、自分で決める事態になると、めそめそと決断を先延ばししたり、下調べに妙に時間をかけたりしました。同じような気持ちを抱いたことのある方は、本書を読むと自己決定がもつ息苦しさへの理解が深まるはずです。
また、自己決定は、私の研究領域である孤独・孤立とも密接な関連があります。孤立していても本人が「大丈夫」と言っているケースでは、それを自己決定と解釈して放っておいてよいのか、人道的な観点から介入すべきなのか、という問題には未だに結論が出ていません。日本社会はどちらかというと「本人がいいと言っているのだから、関わるのは余計なお世話」という風潮が強まっているように思います。そうした社会は、格差を放置する社会にもつながるのではないかと、個人的には危惧しています。
早稲田大学文学学術院教授
石田 光規(いしだ みつのり)
東京都立大学大学院社会科学研究科単位取得退学。博士(社会学)。大妻女子大学専任講師、准教授、早稲田大学文学学術院准教授を経て2016年より現職。専門はネットワーク論、人間関係論、孤独・孤立研究。著書として『友だちがしんどいがなくなる本』(講談社、2024年)『「友だち」から自由になる』(光文社、2022年)、『「人それぞれ」がさみしい』(筑摩書房、2022年)、『友人の社会史』(晃洋書房、2021年)などがある。
(2025年8月作成)