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【著作紹介】『危機の時代からみた都市  歴史・美術・構想』(文学学術院教授 坂上桂子編)

グローバリゼーションのなかの都市の未来とは?

 

水声社 初版 刊行日2022/3/20 判型:A5判上製 頁数:445頁  ISBN:978-4-8010-0634-8 C0052

2020年はじめ、新型コロナウイルスが日本でも流行しはじめましたが、その世界規模での拡大と影響は私たちひとりひとりの生活だけではなく、社会全体の構造をも大きく揺るがすこととなり、コロナ以降の社会の在りようは大きな課題として、私たちにのしかかっています。グローバリゼーションがもたらすものは、必ずしもプラスの局面だけではないことを、私たちはかつてないほど身をもって体験したところでしょう。

コロナだけではありません。ウクライナとロシアの間に起きた侵略や戦争をはじめ、テロ、自然災害、環境問題、エネルギー問題、人口問題、経済格差など、世界はさまざまな危機に見舞われています。日本においてだけでなく、世界のどこかで起きた危機は、私たち自身の問題としてすぐにも降りかかってきかねない時代になりました。

こうした「危機の時代」にあって、私たちを取り巻く生活、そしてその生活の基盤にある都市環境は不安だらけともいえますが、未来の都市に求められる姿とはどのようなものなのでしょうか。本書は、さまざまな危機が差し迫る現代の状況のなかで、美術・文学・思想・社会学・建築・土木・都市計画などの視点から、都市の過去を振り返り、検証することで、都市の未来像を模索しようとするものです。

 

内外の執筆陣と学際的視点による論考

 

本書に収録された各論考は、早稲田大学総合研究機構のプロジェクト研究所「都市と美術研究所」における活動成果を基盤としており、研究員、招聘研究員、ゲストスピーカーによる論考で構成されています。
文学学術院からは、編者の坂上桂子(複合文化論系・美術史コース/美術史)が「ニューヨークの画家 木村利三郎:都市の表象と〈9・11〉」を執筆しているほか、宮城徳也(複合文化論系/西洋古典学)著「古典古代の疫病と都市:文学作品における描写」、池田祥英(社会学コース/社会学)著「地底都市の美しき生活:タルド『未来史の断片』を読む」、河野昌広(社会学コース/社会学)著「車の道から歩く道、自転車の道、走る道へ:都市の困難と再生」、長田攻一(本学名誉教授/社会学)著「「危機の時代」における日本の都市」の各論考が収められています。
また理工学術院からは古谷誠章(建築科/建築)、藤井由理(建築科/建築)、および山村崇(高等研究所(執筆時)/都市計画)の各氏が寄稿しており、文理を超えた学際的内容となっていることが本書の特徴です。さらに、ジョフレ・グリュロワ(ブリュッセル自由大学/都市計画)、クレール・ペルグリムズ(ブリュッセル自由大学/建築・都市計画)、マチウ・ベルジェ(ルーヴェンカトリック大学/社会学)、鄭珉(漢陽大学/文学・文化史)、マーティン・グロスマン(サンパウロ大学/ミュージアム・スタディーズ)、ゲイル・レヴィン(ニューヨーク市立大学/美術史)といった各国の研究者による論考を含んでいます。また、大石久和(日本建設技術協会会長/国土学・土木)、冨田章(東京ステーションギャラリー館長/美術史)、塚原史(本学名誉教授/フランス思想)、楢山満照(女子美術大学/美術史)、田中綾子(東京国立近代美術館/表象文化論)の各氏が、各分野の専門性から論文を寄稿しています。
詳しくは出版社のサイトをご参照ください。

 

〈研究内容紹介〉

木村利三郎《City379》スクリーンプリント・紙 會津八一記念博物館蔵

私は、19世紀フランスの画家ジョルジュ・スーラやベルト・モリゾを主な研究テーマにしてきました。これらの画家たちが活躍した当時、パリではナポレオン3世のもとオスマンによる大改造が行われ、近代都市が形成されました。新しく整備されたパリでは、道路や上下水道といったインフラ整備に留まらず、デパートやカフェ、劇場などが誕生し、人々の生活は豊かなものになりました。モネやルノワール、ゴッホら、印象派からポスト印象派にいたる画家たちが描いたのは、こうして改造された都市の情景とそこでの人々の生活そのもので、これらの画家たちの絵では「都市」がまさに主役としてあります。
こうした画家たちの作品を通し、私の興味は、次第にパリという街自体への強い関心につながっていきました。19世紀に創られたパリの旧市内は、現在でもほぼ当時のままの姿を保っていますが、一方で新しい現代的建築や美術作品がところどころに出現しては、古い建物や情景と程よく調和することで、新たな息吹を得ています。たとえば最近では、19世紀創業の老舗デパートサマリテーヌが、建設当初の美しいアールヌーヴォー様式を保持しつつ、日本人建築家ユニットSANAA(妹島和世+西沢立衛)によって、新しくモダンな空間へと仕立てられました。
このように私の都市への関心は、美術作品における表象の問題から現実の都市空間における美術作品や美術館へと拡張し、その結果、2016年「都市と美術研究所」を開設するに至りました。研究所は、「都市」を「美術」の視点から研究することを目的としていますが、とはいえ当然ながら、都市は多様な要素の集積体であって、美術が都市空間で活かされるためには、都市の諸問題を同時に考慮する必要があります。そのため本研究所では、建築や都市計画、土木、社会学など、都市と関わる多彩な専門を持つ研究員が所属することで、多方面からの考察を通し活動を行っています。本書はその成果であって、以上から、読者の皆さんには、美術に限らず幅広い興味から読んでいただけるものと考えます。本書を通して、とりわけ将来を担う皆さんたちには、この危機の時代を乗り越え、未来の都市の構想に向けて何らかのヒントを見出してもらえることを期待するところです。

 

早稲田大学文学学術院教授・早稲田大学総合研究機構プロジェクト研究所「都市と美術研究所」所長
坂上 桂子(さかがみ・けいこ)

東京生まれ。専攻は美術史。主な著書:『夢と光の画家たち―モデルニテ再考』(スカイドア、2000年 芸術選奨文部科学大臣新人賞評論部門受賞)、『ベルト・モリゾ ある女性画家の生きた近代』(小学館、2006年)、『西洋美術の巨匠 ベルト・モリゾ』(小学館、2006年)、『ジョルジュ・スーラ 点描のモデルニテ』(ブリュッケ、2013年)、主な訳書:リンダ・ノックリン『絵画の政治学』(筑摩書房、2021年)、主な展覧会:『ニューヨークに学んだ画家たち 木村利三郎を中心に』(企画・監修:早稲田大学會津八一記念博物館 2019年6-8月)、『イマーシヴ・ミュージアム』(監修:2022年7-10月上映 日本橋三井ホール)。

 

 

早稲田大学プロジェクト研究所ホームページ

都市と美術研究所Institute of City and Art

研究所ホームページhttps://w3.waseda.jp/prj-cityandart/ 

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