
ミネルヴァ書房 初版 刊行日2025/4/15 判型 A5判 ページ数 308ページ ISBNコード ISBN978-4-623-09864-4
キリスト教史は、当然のことながら、プロテスタント、カトリック、東方正教の立場から、自身の教会の正統性を護教論的に論じる立場で書かれる書物が多い。ルターはカトリックからみれば「異端」だがプロテスタントからみれば「正統」である。プロテスタントにも東方正教会にも、カトリックのような「教皇」は存在しない。教会の歴史はどうしても自身の唯一「正しい」あり方の成就の歴史として語られることが多いが、本書の画期的なところは、そういった特定の教会の護教的な立場ではなく、状況によっては暴力、戦争、迫害を正当化し、政治闘争の重要な役割を担った、キリスト教の現実を分析していることである。本書は、キリスト教史を超歴史的な本質の顕現として考える神学や宗教学の分析とは異なる立場で、歴史学の視点から描こうとすることを目指した。
〈研究内容紹介〉
本書では、キリスト教の現実を人間の生きた歴史のなかでとらえ直そうとして、キーとなる11のテーマ、「東と西」、「罪と贖罪」、「禁欲と戒律」、「正統と異端」、「聖人と奇跡」、「巡礼」、「聖書」、「戦争と平和」、「宗教改革」、「魔女迫害とキリスト教」、「寛容と多様性」を取り上げている。これらのテーマは、共編者踊共二とともに構想したものであり、既成のキリスト教史の概説では論じられない、中近世社会の意外な実態を知ることができる。新しい時代のキリスト教史といえよう。
早稲田大学文学学術院教授
甚野 尚志(じんの たかし)
専攻は、中世ヨーロッパ史、教会史、政治思想史、史学史。博士(文学)。京都大学人文科学研究所助手、東京大学教養学部助教授、同教授を経て2008年より現職。早稲田大学プロジェクト研究所「ヨーロッパ中世・ルネサンス研究所」所長。研究所の紀要として『エクフラシス』を発刊している。単著に『中世ヨーロッパの社会観』(講談社学術文庫, 2007)、『中世の異端者たち』(山川出版社, 1996)、『十二世紀ルネサンスの精神:ソールズベリのジョンの思想構造』(知泉書館, 2009)、編著に『15のテーマで学ぶ中世ヨーロッパ史』(ミネルヴァ書房, 2013)、『中世ヨーロッパの宗教と政治』(ミネルヴァ書房, 2014)、訳書にエルンスト・カントロヴィッチ『祖国のために死ぬこと』(みすず書房,1993)、フランツ・フェルテン『中世ヨーロッパの教会と俗世』(山川出版社, 2010)、ベルンハルト・シンメルペニッヒ『ローマ教皇庁の歴史-古代からルネサンスへ-』刀水書房,2017)、シュテフェン・パツォルト『封建制の多面鏡-「封」と「家臣制」の結合-』(刀水書房, 2023)など。
(2025年8月作成)