2023年6月30日、「COVID-19を経験した社会の人文学」主催の第3回研究会がオンラインで開催され、本学教授の松永美穂先生が「文学作品に見るパンデミックの影」と題した発表を行った。発表要旨は以下である。
古来、文学作品においてはしばしば疫病への言及が見られた。ギリシャ古典ではそれらが神の怒りと捉えられ、中世から近代へ近づくと、対処法としての隔離や衛生といった医学的な観念が見られるようになっていく。日本でもスペイン風邪の流行後に書かれた菊池寛の「マスク」のような作品があるが、百年前とは思えないくらい現代に当てはまる描写がある。新型コロナウイルス感染症流行下ではこうした過去の作品があらためて読まれるとともに、流行初期からさまざまな作家の発言や作品が発表されてきた。コロナ禍の全体像がすでに描かれたとはいえないが、パンデミックが可視化した政府の無策ぶり、格差の拡大、人々や国家の間の壁の存在、などを日本語で書かれたいくつかの作品にも見ることができる。文学は遅いメディアであり、本格的なコロナ小説の出現はむしろこれからと予想される。とはいえ、これまでに書かれた作品からもコロナ禍に対する作者のスタンスが透けて見え、考察の対象として興味深い。(松永美穂記)
開催詳細
- 日時:2023年6月30日(金)18:00-19:35
- 開催方式:オンライン(Zoom Meeting)、公開(参加者12名)
- 発表者:松永美穂(早稲⽥⼤学文学学術院教授)