
朝倉書店 A5判/224ページ 刊行日:2022年08月30日 ISBN:978-4-254-12272-5 C3041
本書は、拙著「統計学入門 第 I 巻 朝倉書店 2022」の続編です。近年、統計分析を利用した論文の成果が再現されないとの報告が相次いでいます。これは再現性問題と呼ばれています。再現性問題の主たる原因の1つは、有意性検定によって
(1) 研究では帰無仮説の棄却という学問発展のための必要条件を示せばよい。
(2) 研究分野/文脈によらずに、その研究に価値があると自動的に判定できる統計指標p値が存在する。
という2つの誤った査読文化が定着してしまったことにあります。
定着した文化を変えることは容易ならざることです。しかし論文の成果が再現されないと、学問の発展に大きな支障が生じます。何としても改善が望まれます。そのために筆者は、初等統計教育の教程を変更することを第 I 巻で提案しました。具体的には、有意性検定を初等統計教育から割愛し、
- 統計データ分析は、学問発展の十分条件を最初から目指す。
- 研究の価値判断には、ドメイン知識で実感できる指標を用いる。
という2つの教育目標を掲げました。
有意性検定を割愛した代わりに、「尤度によるデータ生成過程の表現」という教授学習パラダイムを提案しました。本書は、第 I 巻の教育目標・パラダイムを引き継ぎ、中級のテーマに関して学習系列を提供します。「尤度によるデータ生成過程の表現」という教授学習パラダイムには、有意性検定を扱った従来の初等・中等教程と比較して、以下のような3つの長所があります。
- 統計学の初等・中等教育がシームレスにつながる
- ビッグデータの時代に即応する
- 自分自身で分析方法を工夫することが可能になる
「統計学入門」という書名の書籍を出版することは、20代の頃からの筆者の夢でした。国内外に類書が全くなく、しかも自身で満足できる内容の「統計学入門」は、自分にはとても書けないだろうと思っていたからです。夢が叶い、感無量です。
〈研究内容紹介〉
心理統計学を専門としています。共分散構造分析,教育測定学,マーケティング・サイエンス,人工知能,項目反応理論,実験計画法,標本抽出理論,数理統計学等,広い意味でのデータ解析を主たる研究領域としています。
早稲田大学文学学術院教授
豊田 秀樹(とよだ ひでき)
教育学博士(東京大学)
受賞歴:日本行動計量学会優秀賞(1995年)、日本心理学会優秀論文賞(2002年)、日本心理学会優秀論文賞(2005年)、日本教育心理学会優秀論文賞(2009年)
業績: https://sem-toyoda-lab.w.waseda.jp/
(2023年5月作成)