
朝倉書店 A5判/224ページ 刊行日:2022年04月05日 ISBN:978-4-254-12266-4 C3041
本書は文科系の大学生が読むことのできる統計学の入門書です。微分と積分を使っていません。必要とする数学的予備知識は高校数学 I です。本書で扱うテーマは、1変数/2群の差/1要因/2要因/比率/分割表の分析です。統計学の入門教程の内容としては、極めてオーソドックスで、何の変哲もありません。入門書とは、統計学に限らず、どの分野でも最初に学習すべき内容は定まっているものです。しかし、本書のアプローチは極めて独自です。国内外を見渡しても、2022年現在、類書は1冊もないと言って過言ではありません。
近年、統計分析を利用した論文の結果が再現されないとの報告が相次いでいます。論文の内容が再現されないと、学問の発展に大きな支障が生じます。これは再現性問題と呼ばれています。統計学を道具として利用する学問は多岐に亘っていますから、結果が再現されない事態は深刻です。研究資源の空費は大きな社会的損失です。またこれは同時に統計学の危機でもあります。本書では、その危機を克服するために初等統計教育の教程を根本的に変更することを主張します。具体的には有意性検定を初等統計教育から割愛します。
有意性検定における帰無仮説は学問発展のための必要条件を確認するために使用されてきました。有意性検定の大きな罪は「学問発展のための必要条件を確認すれば論文は査読を通る」という誤った文化を定着させたことです。学問を発展させることは、言うまでもなく、とても大変です。このため、必要条件をクリアしているけれど、学問発展に寄与しない論文をあの手この手で学術誌に掲載してしまいました。
それは誤った文化の下で、許されたルールの範囲内であったし、卒業・学位・生活がかかっていますから、研究者・執筆者の多くには悪意などありませんでした。これが再現性問題の本質です。たとえば「新薬を服用した患者が回復するまでの平均日数は対照群と同じ」という帰無仮説を棄却できたとしても、それは新薬に有効性があるための必要条件を確認しただけに過ぎません。必要条件などには目もくれず、「新薬を服用した患者が回復するまでの平均日数は、対照群と比較して、医学的観点から評価して十分に短い」等の学問発展に対する十分条件への確信を示す分析を、最初から目指すのが、本書が提案する教程です。
〈研究内容紹介〉
心理統計学を専門としています。共分散構造分析,教育測定学,マーケティング・サイエンス,人工知能,項目反応理論,実験計画法,標本抽出理論,数理統計学等,広い意味でのデータ解析を主たる研究領域としています。
早稲田大学文学学術院教授
豊田 秀樹(とよだ ひでき)
教育学博士(東京大学)
受賞歴:日本行動計量学会優秀賞(1995年)、日本心理学会優秀論文賞(2002年)、日本心理学会優秀論文賞(2005年)、日本教育心理学会優秀論文賞(2009年)
業績: https://sem-toyoda-lab.w.waseda.jp/
(2023年5月作成)