シン・早稲田講義


卒業生の歩んできた“未知の道”を〈○○学〉として紐解く“知の冒険”。
開催
レポート

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あなたはどこで世界とつながっていますか?──室井滋と考える、外の世界とのつながり方【国際文学館 Authors Alive!コラボ企画、聞き手:ロバート キャンベル氏】

講師
室井 滋 氏
俳優・作家
場所
早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)地下1階
定員
70名
参加対象
どなたでもご参加いただけます。
※要申込・先着順。定員に達し次第募集を締め切ります。
※早稲田大学卒業生・一般の方歓迎
開催日時
2026年7月8日(水)15:30-17:00(15:00開場)
参加費
無料

第2回 シン・早稲田講義 <イベント開催レポート>
会えない時間が教えてくれること──俳優・室井滋氏が朗読でたどるつながりの原点

早稲田大学卒業生の歩んできた「未知の道」を紐解き、そこから得られる実践知を届けていく「シン・早稲田講義」。第2回講義は、本学創立150周年記念事業のアンバサダーに就任いただいた俳優・作家の室井滋氏を講師にお迎えし、国際文学館の人気イベント「Authors Alive! ~作家に会おう~」とのコラボ企画として開催しました。
講義のテーマは「あなたはどこで世界とつながっていますか?──室井滋と考える、外の世界とのつながり方」。聞き手は早稲田大学特命教授で国際文学館顧問のロバート キャンベル氏が務めました。
SNSを開けばいつでも誰かとつながれる時代だからこそ、人と向き合うことの大切さをどう捉え直すか。学生時代の経験や朗読を交えながら、室井氏が語った「外の世界」との向き合い方をたどります。

「自分の目で見て、触って、言葉を交わす」
人と向き合うために大切なこと

室井氏が登場すると、まずはエッセイの朗読からスタート。この日のために選んだ一遍は、自身のエッセイ集『東京バカッ花』(作/室井 滋、マガジンハウス、1994年)収録の「清涼飲料水」。早稲田で過ごした学生時代のアルバイトの記憶をつづったものです。室井氏の軽妙な語りに風景が浮かび、観客は一気にその世界へ引き込まれていきます。

見知らぬ家の呼び鈴を鳴らし、発売前の清涼飲料水を試飲してアンケートに答えてもらうという飛び込み営業の仕事。「気持ち悪い」「誰が飲むもんですか」と、ほとんどの家で断られ続けます。

大量の瓶が入った箱を抱えて歩く日々。それでも、20軒に1軒くらいは話を聞いてくれる家がありました。
「そんな時、私は、まるで地獄で仏に会ったような気持ちになったものだ」(「清涼飲料水」より)
一日の終わりに公園のベンチで、余ってしまった清涼飲料水を一本ずつ飲み干していく学生時代の自らの姿を、「マッチ売りの少女」になぞらえたラストの一節に、会場から笑みがこぼれました。

◾️室井滋 氏 | 俳優・作家

朗読を受け、キャンベル氏は「今、こんな飛び込みの営業をしたら、まず誰も出てきてくれないでしょうね」と問いかけます。

「インターホン越しの画面でチェックして、居留守でしょうね。でも、実は今でも、来客があると、ついドアを開けてしまうことがあるんですよ。自分の目で見たり、触ったり、実際に言葉を交わしたりしたいと思ってしまうんです」(室井氏)

その考え方を象徴するエピソードとして紹介されたのが、新幹線で隣り合ったサラリーマンとの出来事です。機嫌が悪そうに見えた男性がお腹を空かせている様子に気づいた室井氏は、持っていたパンを「よかったらどうぞ」と差し出したのだそう。最初は驚いていた男性も、パンを受け取ると表情が和らぎ、降り際には「後日お礼がしたい」と連絡先を尋ねてきたといいます。「そんなに大したことをしたわけじゃないのに」と笑いながら振り返る室井氏。しかし、相手を気に掛けるほんの小さな行動が、人の表情や態度を変え、思いがけないつながりを生み出すことを感じさせました。

キャンベル氏は、自身がニューヨーク・ブロンクス出身であることに触れ、多様な人々が行き交う環境で育ったことから、幼い頃から自然と周囲の「気配」を感じ取る感覚を身につけてきたと振り返ります。「スマホばかり見ていると、この気配を感じる力がどんどん失われていく気がする」というキャンベル氏の指摘に、室井氏も深くうなずきました。

◾️ロバート・キャンベル氏 | 早稲田大学特命教授、国際文学館顧問

SNSがなくても「一人じゃなかった」
支え合いの中で過ごした学生時代

室井氏は、早稲田大学在学中の1981年、村上春樹氏原作・大森一樹監督の映画『風の歌を聴け』で俳優デビュー。役者としての活動が本格化する一方で、生活を支えるためにさまざまなアルバイトを経験したといいます。

「俳優の仕事が入るとアルバイトを休まなきゃいけないので、1つのアルバイトを長く続けることができませんでした。その代わり、単発バイトだけで100種類くらいは経験しましたね」と室井氏。新装開店のパチンコ屋で客寄せ役の「サクラ」をした話など、次々と繰り出されるエピソードに、会場は終始笑いに包まれました。

在学中に父親を亡くしたことも重なり、「卒業したら唯一の身分証である学生証がなくなってしまうので、1日でも長く大学に在籍していたかったんです。仕事が軌道に乗って食べていけるようになったら、住んでいたアパートからも出て行こうと思っていました」と当時の複雑な事情も明かしました。

そんな学生生活を支えてくれたのは、身近な仲間たちの存在です。

「月末にお金が心もとなくなると、近所の友人宅に仲間が集まり、実家のお母さんから届いた食料を分け合っていました。そんなふうにしていたから、当時は何も怖くなかった。1人じゃなかったんですよね」(室井氏)

SNSがなかった時代。困ったときには自然と集まり、お互いに支え合う。便利なコミュニケーションツールがなくても、人とのつながりは日々の暮らしの中で育まれていました。室井氏の学生時代の思い出からは、人と支え合うことで生まれる安心感や、人との距離の近さが伝わってきます。

会えない時間が育てた、誰かを思う心と声で届ける言葉の力

コロナ禍に発表された絵本『会いたくて 会いたくて』(作/室井 滋、絵/長谷川 義史、小学館、2021年)の朗読も披露されました。

介護施設に暮らす祖母に会うことを禁じられた「ぼく」が、糸電話を通して祖母と言葉を交わす物語。

「携帯電話もメールもない時代、手紙を書いて、返事をドキドキしながら待ったものさ」「会えない分、思いは強くなるよ」という祖母のセリフを、室井氏は声のトーンを変えながら読み上げます。参加者は静かに聴き入り、自身の大切な人を思い浮かべたからか、涙ぐむ姿も見られました。


「当時の状況(コロナ禍)じゃないと書けないものを書きたいと思って、会えない時期に人とどう関わるかを考えた作品にしようと思ったんです」(室井氏)

室井氏は、俳優として活躍を始めた当初から朗読が好きだったといいます。友人の結婚祝いや出産祝いに昔話を吹き込んだテープを贈ったりしていたそうです。そのうち、少しずつ朗読の仕事が増え、今では、ドキュメンタリーのナレーションや海外アニメ作品の吹き替えなども手がけるようになりました。

そして近年、「ライブのステージで朗読がしたい」という思いから始めたのが、「しげちゃん一座」という活動です。一座は、絵本作家の長谷川義史氏やミュージシャンの岡淳氏・大友剛氏とともに2011年に結成。公民館やホール、神社仏閣まで、全国さまざまな会場を巡り、著書の朗読に加え、歌や手品なども織り交ぜた内容で、来場者を楽しませています。2025年には、東京都内で2,000人規模の公演も行いました。

「その日のお客さんの反応や場の空気を見て、声のトーンも変えていくんです」(室井氏)

この言葉からは、朗読は一方的に読むものではなく、その場で生まれる空気や聴き手とのやり取りを重ねながら完成していく表現だということが伝わってきます。相手に直接言葉を届けることに重きをおく室井氏の想いが色濃く表れていました。

外の世界は、誰かと向き合うことで近くなる

キャンベル氏は、SNSや配信サービスを通じてファンと一体感のようなつながりが生まれるケースがあるとしつつ、「発信側が受け手の反応に合わせてその場で調整をするのは、朗読ライブならではの良さですね」と話しました。

これに対し室井氏は、自身が今もSNSをほとんど利用しておらず、長年ガラケーを愛用していると打ち明けます。

「電話機自体は壊れていないのに、サービスの方がどんどん変わって使えなくなってしまうんですよね(笑)。SNSを通じて褒められたり貶されたりなどがあると思いますが、相手の方が誰なのか分からないままなのが苦手なんです」(室井氏)

だからこそ、ファンから届く手紙やFAXなど、送り手の顔が見える手段へ信頼を寄せていると続けました。

■質疑応答の際に自ら参加者にマイクを手渡す室井氏

講義の最後には、参加者から「室井さんにとって“外の世界”と“内の世界”の境界線はどこにあるのか?」という問いが投げかけられました。

室井氏は、隣家の解体工事をきっかけに生まれた交流を紹介。当初は工事の音に苛立ちを感じていたものの、現場監督が室井氏の熱心なファンだったことが分かり、自然と打ち解けていったといいます。

「自分とのつながりや相手の人となりが分かると、うるさいと感じていた音が、いつの間にかそばに人がいてくれているという気持ちに変わっていくんです。不思議ですよね」(室井氏)

“外の世界”と“内の世界”の境界線は、時に対立や違和感として立ち上がりながらも、コミュニケーションを重ねることで思いがけない形でつながりに変わっていく。そんな変化がうかがえました。

第2回 シン・早稲田講義では、直接顔を合わせるからこそ生まれるコミュニケーションの温かさを、時にユーモラスに、時に心を打つ朗読とともに伝えてくれた室井氏。SNSによって、いつでも誰かとつながることができる時代だからこそ、その隙間にこぼれ落ちていくものにあらためて目を向ける時間となりました。

次回も、授業だけでは得られない人生の学びを“早稲田から”届けます。どうぞご期待ください。


講師紹介

俳優・作家

室井 滋 氏

富山県出身。早稲田大学在学中に映画デビュー以来、多くの映画賞や芸能賞を受賞。近著に『背中合わせの恐怖』(金の星社)、『やっぱり猫 それでも猫』(中央公論新社)、『ゆうべのヒミツ』(小学館)、絵本『タケシのせかい』(アリス館)、『キューちゃんの日記』(北日本新聞社)、『チビのおねがい』(教育画劇)、『しげちゃんのはつこい』(金の星社)他、電子書籍化含め著書多数。しげちゃん一座絵本ライブを全国で開催中。2023年4月より富山県立高志の国文学館館長に就任。

聞き手:ロバート キャンベル 氏|日本文学研究者

米ニューヨーク市生まれ。カリフォルニア大学バークレー校卒業。ハーバード大学大学院東アジア言語文化学科博士課程修了、文学博士(日本文学専攻)。九州大学文学部専任講師、国文学研究資料館助教授、東京大学大学院総合文化研究科教授、国文学研究資料館館長などを経て、2021年4月より早稲田大学特命教授、早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)顧問に就任。せんだいメディアテーク館長。専門は近世・近代日本文学、とくに19世紀(江戸後期~明治前半)の漢文学。国際文学館では「Authors Alive! ~作家に会おう~」をはじめとする作家との対談企画を数多く手がけている。東京大学名誉教授。テレビ・ラジオ・新聞など多様なメディアでも活躍中。

参加者の声のご紹介
(一部抜粋)

高校生(10代)

朗読を生で聴くのは初めて。絵本は、感情を込めて読んでもらう方が作者の思いがダイレクトに伝わってきますね。この夏休みには、なかなか会えていない祖父母に会いに行こうと思いました。自分から言葉にして伝えることの大切さを学んだ貴重な機会となりました。

社会人(50代)

室井さんの表現力に圧倒されました。最近では読み聞かせサービスなどもありますが、やっぱり自分の声で子どもに語りかけることには敵わないなとあらためて感じました。直接会って手を握ったり、声をかけたりすることを、日々の生活でも大事にしていきたいです。

社会人(40代)

朗読を聞いて、室井さんの本に出会った小中学生時代の自分に戻れたような気持ちです。地元に帰ったら久々に当時の同級生に会いに行ってみようと思います。室井さんのように、どんな形であっても人とのつながりを大切にしながら、自分の軸を持って自然体で生きていきたいです。

社会人(50代)

室井さんの人となりに触れて、私も人に優しくしたいと強く思いました。どんな人間関係でも、日常的に思いやりを持って接していれば、良い関係性が築けるのではないかと、前向きな気持ちになれました。人間同士のつながりを意識することの大切さを忘れずにいたいです。

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