アイルランド文学・文化という領域を主な研究対象としている関係で、アイルランドには多くの友人がいるが、LGBTの当事者も少なくない。LGBTの友人たちと何十年もつきあってきたことで、自分自身の思考パターンや価値観がいかに狭く限られたものだったか、否応なく気づかされることの連続だった。
アイルランドでは、ヴィクトリア時代からのイギリス法の名残で、1993年まで同性愛が法的に禁じられていた*のであるが、このような法的不平等を是正するため、多くの当事者たちがカミングアウトし闘ってきた。その成果として、2011年には「パートナーシップ制」が導入され、2015年には、世界で初めて国民投票によって同性婚が認められた。今では、LGBTに関して、世界で最もリベラルな国の一つと言われている。
このように強烈な<逆境>を経験することのなかった日本では、逆にLGBTをめぐる状況を日常的にとらえにくい状況が起こっているのかもしれない。早稲田LGBT Ally Weekという取り組みが、もしかしたら目に見えにくいことがらを、想像力で喚起し、理解し、共感するきっかけの一つになると嬉しいと思う。
早稲田大学国際コミュニティセンター センター長
国際教養学部教授 三神弘子
*実際には、17歳(女性の場合は15歳)以上で両者の合意がある場合は、慣習として不問とされていたが、同性愛が非合法であることに変わりはなかった。