『Authors Alive!~作家に会おう~』に参加した。#1

『Authors Alive!~作家に会おう~』10月9日 村上春樹さん×小川洋子さん 参加レポート

文化推進学生アドバイザー 3年 本間 遥


今月開館したばかりの村上春樹ライブラリーこと国際文学館、まだまだ新築の木の香りが館内に立ちこめるなか、地下一階の「海辺のカフカ」舞台装置の前に、作家・村上春樹さんと小川洋子さんがご登場されました。
。小川さんは本日のイベントのために大阪からいらしたとのことで、まず始めに村上さんが伊丹空港のグリコ像の思い出話をされていました。興奮冷めやらぬ聴衆たちの笑いを早くも誘っていたのが印象的で、村上さんのユーモア溢れるお人柄が伺えたような気がしました。
イベント前半はもっぱらお二人のゆかりの地、阪神間の話題が。お二人が作家としての感性を醸成された地の話は大変興味深かったです。西宮や芦屋の辺りを巡ってみたくなりました。

小川さんも村上さんもイベントの中で2作品ずつ朗読されていました。
小川さんが1作目に朗読作品として選ばれたのは「バックストローク」。「これは読んだままの作品なのでリラックスして聞いていいですよ」とおっしゃっていたのが印象的でした。作家の生の朗読を聞くのもその様子を見るのも初めての経験で、思わず肩に力が入ってしまっていましたが、小川さんのその一言で、すっと緊張がほぐれました。
先ほどまで賑やかだった雰囲気の会場も静まり、秩序が守られた空間で小川さんの声が響き渡りました。言葉を大切にしているのが伝わる読み方だなと感じました。階段本棚に座って聞いていた私は、たくさんの本に囲まれながら想像力がよりかき立てられ、物語の描写がありありと脳内に浮かんできました。


そして村上さんが1作目に朗読作品として選ばれていたのは「とんがり焼の盛衰」。これは村上さんご自身が文壇の世界に入ったときに感じた異世界への不思議さを反映させて描いた作品のようで、「ほぼ実話だよ」とおっしゃっていたのが衝撃でした。
村上さんは朗読される際、私たちの顔をよく見ながら読んでくださっていたのが印象的で、まるで村上さんの読み聞かせ会に参加したような感覚でした。聴衆からも時々笑い声が聞こえてきていて、実体験で感じたことをここまで面白く文学に昇華できるのはやはり凄い!と感じながら聞き入っていました。

イベント後半はお二人の趣味である野球観戦の話に。ヤクルトスワローズの熱狂的なファンであるという村上さん。「関西出身なのになぜ?」と小川さんが尋ねると、「神宮球場が凄く好きだから、ここの球場がホームグラウンドの球団を応援しようと思ったんだよ」と村上さん。神宮球場は作品を書く際のインスピレーションもかき立てられる場所のようで、このイベントの後も神宮球場に行くと話されていたのが印象的でした。日頃よく訪れるとのことで、そんな日常的な場所に物語のきっかけが潜んでいるのかと感動しました。

2作目の朗読作品として村上さんは「アイロンのある風景」を読まれました。阪神淡路大震災を受けて描かれた作品だそうで、関西弁ニーズの高まりに応えて、この作品をチョイスされたそうです。
作中では「焚き火」が印象的ですが、作品のタイトルが物質的にかけ離れた「アイロン」であることを疑問に感じられた小川さんが理由を尋ねると、「僕もこのタイトル『焚き火』だと思ってた、出版された後は一切読まないから忘れちゃった」とおっしゃっていて、村上さんは一度書いた作品にこだわらず、常に次に向かって筆を進め続けるタイプの作家なのだなと感じました。


小川さんの2作目の朗読作品は『小箱』でした。音楽と関連した作品のようで、「ここに音楽が鳴り渡ることはないけれど、みなさんの耳の中で各々の音楽を奏でてください」とお話しされていて、作家の声を聞きながら各々が頭の中で想像をするというとても文学的な体験をしました。

本イベントタイトル『Authors Alive!~作家に会おう~』は村上さんご自身が命名されたらしいのですが、まさしく「本が活きている環境の中で、今生き生きと活動されている作家に会う、作家の感性に出会う」ことのできるイベントだったと思います。
楽しくてあっという間の2時間でしたが、かけがえのない貴重な体験になりました。

以上

  • 村上春樹:
    「とんがり焼の盛衰」(『カンガルー日和』所収、平凡社・1983年、講談社文庫・1986年)
    「アイロンのある風景」(『神の子どもたちはみな踊る』所収、新潮社・2000年、新潮文庫・2002年)
  • 小川洋子 :
    「バックストローク」(『まぶた』所収、新潮社・2001年、新潮文庫・2004年)
    『小箱』(朝日新聞出版・2019年)

* 実際の朗読会の様子は、音楽ストリーミングサービス「Spotify」で配信されています。

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