Authors Alive! ~海外文学最前線~ レベッカ・ブラウン×木村紅美 対談(2025/6/25)レポート
2026.05.22
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国際文学館は2025年6月、アメリカ・シアトル出身の作家レベッカ・ブラウンさんを招き、作家の木村紅美さんとの対談と朗読会を開催しました。
ブラウンさんは、実験的な作風で知られ、エイズ患者の世話をするホーム・ケアワーカーの語りを綴った『体の贈り物』でラムダ文学賞、ボストン書評家賞を受賞しています。木村さんの中編小説『あなたに安全な人』は、Bunkamura ドゥマゴ文学賞を受賞し、2025年4月に英訳版が出版されています。
お二人の対談は当館顧問であり、ブラウンさんの作品の翻訳者でもある柴田元幸さんが司会を務め、木村さんの作品の英訳者である手嶋優紀さんが通訳として登壇しました。

ブラウンさんと木村さんはまず、互いの作品を読んだ印象について話し始めました。木村さんは、病床にある祖母を見舞いながら会社勤めをしていた頃に、ブラウンさんの『家庭の医学』を読んで非常に感動したといいます。一方、ブラウンさんは最近、柴田さんに薦められて木村さんのSomeone to Watch Over You(『あなたに安全な人』)を読み、すぐにファンになったそう。柴田さんはこの二人の作家には「多くの共通点」があると指摘し、「日本の作家が海外の同時代作家の作品を読むことは一般的だけれども、その逆はまだ珍しいことです。こうして今日、お二人の対談ができることは非常に喜ばしい」と述べました。
ブラウンさんは、対談のテーマの一つとして、有償の労働と無償の介護を含む「仕事」が二人の作品に共通していることに触れ、どちらも作家活動を続けるために忍耐力が必要だったと語りました。木村さんは、実家で甥の世話を手伝いながら『あなたに安全な人』を執筆。また、ブラウンさんが、終末期の病を抱える母親を介護した経験を綴った回想録『家庭の医学』を木村さんの家族全員で読んだといいます。
「ブラウンさんの作品にみられる人と人との関係性の描写に大きな影響を受け、私自身もこんな風に人物を描けるようになりたいと思ったのです」と明かすと、ブラウンさんは、「それこそが自分が作品を書く大きな原動力になっています。芸術の役割とは、私たちの内面にある最も大切なものを他者との対話に反映させ、また、人と人とのつながりや心の奥にあるものを表そうとすることなのです」と語りました。
そして、話題は木村さんの作品へ。タイトルに込められた静かな恐怖感やコロナ禍における生活の具体的な描写など、作品に漂う不穏な雰囲気について話は及びました。
「作品の中で何かを記録しておこうという意図があったのか」と問われた木村さんは、辺野古の米軍基地建設に反対する座り込みに参加し、強制退去させられた経験から「暴力をふるう側の体験」を描きたいという思いがあったと述べました。すると、ブラウンさんは、「木村さんがそうした経験を、作品の中で思いやりのある、より広い視点に変えて表現していることに感心しています」と述べました。
その後、木村さんはブラウンさんの作品について「例えば、母親の感情を、汗や体臭から心理を描くなど、客観的に距離をとった描写でありながら、人としての信頼や愛情にあふれているところに惹かれます」と感想を述べ、「そうした描写をどのように習得したのか」と尋ねます。すると、ブラウンさんは「とにかく推敲、推敲、推敲です!」と回答。「8ページの物語を40回も書き直したり、一日に数百ワードの文章を書いて、その半分を削除したりすることもある。とにかく、“天気のように”変わりやすいし、迷うことも多いのです」と語りました。
そして、イベントは朗読へと移ります。木村さんは日本語で、手嶋さんは英語で『あなたに安全な人』の一節を朗読。ブラウンさんは、この朗読パートを選んだ理由をこう説明しました。「主人公のタエが、ほぼ面識のない男性に対して『彼自身の人生があること』を想像し、その結果として彼の身体の世話を引き受けるようになる出会いの場面なのです」。
続いて、ブラウンさんが渡り鳥のガンとの出会いを描いた作品を、ご自身は英語で、柴田さんは日本語で朗読しました。同作は、ブラウンさんが地元で開かれる講座のために創作し、小冊子として発表したもので、柴田さんは、二人が新幹線で移動する途中で翻訳したといいます。


そして、イベントは朗読へと移ります。木村さんは日本語で、手嶋さんは英語で『あなたに安全な人』の一節を朗読。ブラウンさんは、この朗読パートを選んだ理由をこう説明しました。「主人公のタエが、ほぼ面識のない男性に対して『彼自身の人生があること』を想像し、その結果として彼の身体の世話を引き受けるようになる出会いの場面なのです」。
続いて、ブラウンさんが渡り鳥のガンとの出会いを描いた作品を、ご自身は英語で、柴田さんは日本語で朗読しました。同作は、ブラウンさんが地元で開かれる講座のために創作し、小冊子として発表したもので、柴田さんは、二人が新幹線で移動する途中で翻訳したといいます。
その後、柴田さんと手嶋さんは、翻訳の工夫や苦労について語りました。
手嶋さんは、春の象徴であり、日本人なら誰でも知っているウグイスの「ホーホケキョ」という鳴き声の翻訳の難しさに言及。また、食べ物に関する語はあえて日本語のまま用いるという翻訳の工夫を挙げました。木村さんは、こうした手嶋さんのエピソードに驚きながら、感謝の意を述べると、ブラウンさんは、「senbei(せんべい)やizakaya(居酒屋)という言葉を、自分で調べて、やっと理解できたこともあります」と付け加えました。
一方、柴田さんは「誰かを恋しく思う」を意味する英語のmissについて、「日本語では、missをそのまま訳すと、長くなり過ぎてしまうので、場面ごとにその気持ちを表す言い方を変える必要があります」と説明。また、文末は感情の伝わり方だけでなく、文章の響きにも関わるため、特に重要だと指摘します。すると、ブラウンさんは、「柴田さんの言葉への細やかな配慮は、自分の執筆法にも通じます。音の流れがきれいに収まるのか、それとも途中で途切れるように感じるのかを意識して書くことがよくあります」と語りました。
その後、イベントは観客からの質問を受けるQ&Aセッションへと移ります。
「作品執筆のために本を読むなどのリサーチをされるのか、それともリサーチから始められるのか」という質問に対し、木村さんは「取材やリサーチはあまりせず、主に想像力から作品を書いています」と回答。「新しい発想がきっかけとなって、それまで心の中にとめていた題材が形になることが多いです。幸い、書き続けたいという思いによって、アイデアも沸いてきます」と述べました。一方、ブラウンさんは「多くの作品が私の個人的な経験に基づいています。着想がどこから生まれるのかは自分でもわからないけれど、15年前に感じていた『書かなければ』という切迫感は、今はもうなくなりました」と語りました。
「お二人の作品には、暴力的なシーンが描かれたものとは対照的に、登場人物が様子をみながら相手を傷つけないように行動するものもある。それらをどのように執筆したのか」という質問には、二人とも、「ある種の感覚に頼って書いている」と答えました。ブラウンさんはそれを「直感的」なものと述べ、木村さんは「私は予めプロットを立てずに、推敲を重ねながら物語の行方を見つけていくのです」と説明しました。そして、木村さんが、ブラウンさんは『家庭の医学』や『体の贈り物』で人への思いやりを描く一方で、『わたしたちがやったこと』では、暴力的なシーンから始まる。そうした実験的な作品にも心惹かれると述べると、ブラウンさんは、「作品によって、自分の考えはもちろん、使う言葉や人物の感情表現も変わるものなのです」と、語りました。
「翻訳ではどの程度自分自身の考えや個性を反映させ、作家との共同作業と両立させるか」という質問に柴田さんは、「自分という翻訳者の痕跡は、本の中に残る体臭のようなもの」と、例えました。一方、手嶋さんは、「『あなたに安全な人』に登場するのは、自分の頭の中に住む見知らぬ陰鬱な二人であって、翻訳には自分自身の要素は全く含まれていません」と説明しました。
この夜のイベントは、文学を通じた唯一無二の出会いの場となりました。レベッカ・ブラウンさんと木村紅美さんの対話は、柴田元幸さんと手嶋優紀さんという共感的な翻訳者と卓越した通訳者、そして参加された皆さんによって実り多きものとなりました。まさに国際文学館が掲げる、物語について語り合い、人と人とが交流するという精神を象徴するひとときでした。
レベッカ・ブラウン(Rebecca Brown)
シアトル在住。作家。邦訳書に『体の贈り物』『私たちがやったこと』『若かった日々』『家庭の医学』『犬たち』『天国ではなく、どこかよそで』、『かつらの合っていない女』(ナンシー・キーファーとの共著)がある。代表作『体の贈り物』は2025年6月20日にtwililight から復刊された。
木村紅美
作家。兵庫県尼崎生まれ、盛岡在住。主な著作に『雪子さんの足音』、『あなたに安全な人』、『夜のだれかの岸辺』、『熊はどこにいるの』など。Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作『あなたに安全な人』は、2025年4月に英訳が刊行された (Someone to Watch Over You, translated by Yuki Tejima, Pushkin Press)。
柴田元幸
米文学者、早稲田大学特命教授、国際文学館顧問、翻訳家。ポール・オースター、スティーヴン・ミルハウザー、レベッカ・ブラウン、スチュアート・ダイベックなどアメリカ現代作家を中心に翻訳多数。文芸誌『MONKEY』日本語版責任編集、英語版編集。
【開催概要】
・開催日時:2025年6月25日(水)18時30分~20時
・会場:早稲田大学国際文学館 地下1階
・主催:早稲田大学国際文学館
※募集時の案内はこちら
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