Authors Alive! ~作家に会おう~ 長谷川櫂×ロバート キャンベル 朗読と対談「実験/耳に届く575」(2025/12/10) レポート
2026.02.24
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2025年度「Authors Alive! ~作家に会おう~」の第三回目は、俳人の長谷川櫂さんを迎え、国際文学館顧問のロバートキャンベルさんとの対談と朗読会を開催しました。
冒頭、キャンベルさんは長谷川さんが中学時代から俳句に親しみ、大学卒業後は新聞社で記者として勤務した等の来歴を紹介し、「新聞記者と俳句の世界とは対角線上にあると思いますが、それをどう融合されて、今の長谷川さんがあるのかを知りたい」と問いかけます。すると、長谷川さんは「新聞社に入ったのは、新聞と俳句はどちらも言葉を使うものだと考えたからです。でも、入社して半年ほどで新聞と俳句とでは言葉が全く違う、別の世界であることに気づきました。その一方で、『新聞ではこういう言葉の使い方をするが、俳句ではそれではいけない』と考えるようになるなど、役立つこともありました」と語りました。
続いて、キャンベルさんが俳句の着想について尋ねると、「俳句を作る時は、ぼーっとしている時間が大切だと思っています」と長谷川さん。新聞記事の場合、誤報や他社の出し抜きにも繋がるため、ぼーっとすることは許されないけれども、俳句はむしろ、それが本道なのだそう。
「それは言葉がひらひらと遊んでいるような状態で、家族と過ごしている時や食事をしている時に句ができることもあります」。


熊本県出身の長谷川さんは現在、熊本日日新聞で、望郷の思いなどを綴ったエッセイ「故郷の肖像」を連載されています。長谷川さんは「今(2025年12月現在)は夏目漱石の『草枕』の舞台をテーマに書いています」と前置きし、2025年11月13日付けのエッセイを朗読しました。エッセイの前半ではお母様が亡くなり、帰郷した時のことが綴られ、最後はこの俳句で締めくくられています。
大月よ人の命に間に合わず
朗読が終わり、キャンベルさんが自身の体験と重ねながら、「まず短い文章の中でパーソナルな事柄を書き、後半では漱石作品のとらえ方など、文学分析的な内容になります。俳句が良い転換点になっていますね」と指摘すると、長谷川さんは「俳句は文章上とても便利で、場面を変えて安定させ、『ここからはちょっと違う文になります』という仕切りの役目も果たします」と語り、俳句について長谷川さんはこう解説しました。
「熊本に帰ったその日の夜はよく月が見え、それを『大月』としました。これは僕が作った言葉で、素晴らしい月夜を意味しています。『人の命』は亡くなってしまった母の命のこと。つまり、母が生きているうちにこの月を見ることができなかった、間に合わなかったという思いがあるわけです」。

その後、長谷川さんは著書『おくのほそ道を読む 決定版』(筑摩書房)から、立石寺の一節の原文を朗読します。同書には、松尾芭蕉の『おくのほそ道』の原文と、長谷川さんによる現代語訳と解説が収録されています。
山形領に立石寺と云山寺あり。慈覚大使の開基にして殊清閑の地也。一見すべきよし、人々のすゝむるに依て尾花沢よりとつて返し、其間七里ばかり也。(中略)
閑さや岩にしみ入蟬の声
朗読を終えた長谷川さんは、この句についてこんな説明をしました。
「この蝉の種類が何なのか、大きな議論を呼びましたが、それより『閑(しづか)さや』がどういうことなのかを感じることが大事です。実際、岩に染み入るほど蝉が鳴いていたら、煩いはずです。でも、『閑(しづか)さや』と表現したということは、煩いとか、静かとかではなく、何か別の世界があるということです」。
この山寺を訪れたことは芭蕉にとって宇宙への扉を開くような体験だったと長谷川さんは考えており、実際、芭蕉はこの直後に、月や太陽、星の句をいくつも詠んでいるそうです。
続いて、長谷川さんは自作の俳句三句を読み上げ、解説をしました。そのうちの一句がこちらです。
揺りゆれて花揺りこぼす桜かな
「これは奈良の吉野山で詠んだ句で、桜が揺れ、その花びらがこぼれて落ちてくる場面です。『揺りゆれて』と『揺りこぼす』と、『揺り(ゆり)』という言葉を何回か繰り返しています。これは、音を描いていくこともありかなと思って詠んだ句なのです」。
最後に、長谷川さんの著書『古池に蛙は飛びこんだか』(中央公論新社)から、自作の狂言「古池蛙」をキャンベルさんと共に朗読しました。

朗読を終え、キャンベルさんが「音読すると、意味を伝えるだけではなく、いろいろな揺らぎがあり、意味の外にも伝わるものがありますね」と述べると、長谷川さんもこれに同意します。
「今回、こうしてゆっくりと間をとりながら朗読してみて、声や時間の中には意味や情報としては捉えられないものが含まれていることを実感しました。忙しい時代、意味だけを伝えればいいと考えがちですが、もっと遊びがあって、それこそ、ぼーっとした状態で言葉を使ってもいいのかなと思いました」と長谷川さんが語り、会場が拍手に包まれたところで、イベントは終了しました。


長谷川櫂
俳人。神奈川近代文学館副館長。2000年まで読売新聞記者、2000年から朝日俳壇選者。『俳句の宇宙』(サントリー学芸賞)、句集『虚空』(読売文学賞)、『長谷川櫂自選500句』など、多くの著書がある。2024年度日本芸術院賞を受賞。
【開催概要】
・開催日時:2025年12月10日(水)18時30分~20時
・会場:早稲田大学国際文学館 地下1階
・主催:早稲田大学国際文学館
※募集時の案内はこちら
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