Waseda Institute for Advanced Study (WIAS)早稲田大学 高等研究所

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中道左派政党の弱体化の要因を組織票から探る
池田 文 講師

池田 文 講師

政治研究へのきっかけは、選挙事務所でのボランティア経験

私は、政党と政党基盤の変容について研究をしています。特に最近は、政党を支持する労働組合などの「組織票」に着目して研究を進めています。

大学では文学部でしたが、選挙でのウグイス嬢などのボランティア経験がきっかけで選挙の面白さを知り、政治研究の道を志すようになりました。選挙の現場を経験したことが原点なので、現場の目線を大切にすることを研究において心がけています。

今日、ヨーロッパを始め世界で中道左派政党が弱体化していると言われています。日本も例外ではありません。中道左派政党とは、自民党に代表される「保守派」と、共産党に代表される「左派」、その中間よりもやや左寄りの政党のことです。私は、主に、旧民主党を母体とする立憲民主党と国民民主党を中道左派政党と位置付けています。2009年に民主党が自民党から政権を奪い、政権与党になりましたが、2012年には野党になり、その後は急速に支持を失って分裂するに至りました。この経緯は、日本でも中道左派政党が弱体化していることを示しています。

研究者の間では、この中道左派政党の弱体化の一因として「組合の組織率(組合に加入している労働者数/労働者数全体)の低下」がよく挙げられています。組合の組織率が低下すれば組織票の動員力も低下し、結果として中道左派政党の弱体化に繋がるというシンプルなロジックです。しかし私は、そもそも「組合の組織率低下が、組織票の動員力低下に繋がるのか」と疑問を持っていました。そこで、中道左派政党を支援する労働組合の「組織率と組織票の動員力の関係」について調べることにしました。

組合員数と組織票の動員力との関係を探る

中道左派政党を支持している代表的な組合は6つあります。2016年の各労働組合の組合員数と、同年の参議院選挙で支援している候補の獲得票数、2004年から2016年までの参議院選挙で支援している候補の獲得票数の平均をまとめました(表1)。

表1.労働組合への加入人数と支援候補の得票数(出典:朝日新聞)               中道左派政党を支援している各労働組合の組合員数(2016年)、参議院選挙(2016年)で支援候補が獲得した票数、参議院選挙(2004年~2016年)で支援候補が獲得した票数の平均をまとめた。

この表で、例えば、自動車総連の組合員数(2016年)はおよそ77万人でしたが、参議院選挙(2016年)で支援候補が獲得した得票数はおよそ26万票です。それに対して、UAゼンセンは、組合員数(2016年)がおよそ150万人に対し、参議院選挙(2016年)で支援候補が獲得した得票数はおよそ19万票でした。自動車総連よりも組合員数は多いのに、組織票の動員は少ないことがわかります。他の労働働組合を比べてみても、組合員数が多いと組織票が多く、反対に組合員数が少ないと組織票も少ないとは言えません。つまり、組織率の大小が、そのまま組織票の大小に繋がっているとは言えないのです。

図1.日本における労働組合の組織率の変遷 組織率が年々減少傾向にあることが分かる。

近年、労働組合の組合員数は減少傾向にあり、必然的に組織率も低下傾向にあります(図1)。しかし、表1の2016年の参議院選挙で支援候補が獲得した票数が、2004年から2016年のそれと比べて、全ての労働組合で減っているわけではありません。年々低下している組織率(図1)は、組織票の低下に繋がっていると、一概には言えないことも明らかになっています。

組織票の動員力を決めるものは何か

では組織票の動員力には何が関係しているのでしょうか。表1で対照的だった自動車総連とUAゼンセンについて、産業の成長率、構成する企業組合の業種、企業組合の規模、企業組合の合併の有無、地域に根差した企業城下町の有無の5項目について調査し、まとめてみました(表2)。

表2.自動車総連とUA ゼンセンの比較

まず自動車総連は、大企業の自動車会社の企業組合だけで構成されていて、成長産業です。さらに、これまで組合の合併はなく、地域に根差した企業城下町を持っています。一方UAゼンセンは、繊維や化学や運輸など様々な業種の小規模な企業組合で構成されており、その全てが成長産業というわけではなく、組合の合併も何回かを繰り返してきました。地域に根差した企業城下町はあっても、その数は減少傾向にあります。そこで、自動車総連の特長である「構成される組織の単一性」や「地域に根差した企業城下町がある」「大きな企業で構成されている」「合併をしていない」「成長産業である」といったことが、組織票の動員力を決定する要因になっているものと推測されます。

今後はヨーロッパの中道左派政党との比較をしたい

以上の研究から、労働組合は組織率が減少していても、必ずしも組織票を動員する力は低下しているとは言えず、まだ選挙での影響力が残っているのではないかというのが、私の研究結果です。では、中道左派政党の弱体化の原因は何なのか、今後も分析を進めていきたいと思っています。そして将来的には、同じく中道左派政党が弱体化しているヨーロッパの原因を我が国の原因と比較して、その類似点や相違点を明らかにし、その理由も明らかにしていきたいと考えています。

取材・構成:四十物 景子
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

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