Waseda Institute for Advanced Study (WIAS)早稲田大学 高等研究所

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fMRIを使って自閉スペクトラム症の脳の働きを調べる
岡本 悠子 講師

岡本 悠子 講師

自閉スペクトラム症の脳の活動を見る

私は神経科学を専門としており、主に自閉スペクトラム症(以下ASD)の脳の働きを調べる研究をしています。この研究を始めたきっかけは、大学生の時にボランティア活動でASDの方たちと接したことです。キラキラと光るものをじっと楽しそうに見つめる様子や、驚くほど優れた記憶力を発揮する姿を目の当たりにして、ASDの方たちがどのように物事や世界を見ているのかを知りたいと強く思うようになりました。

ASDは神経発達障害の一種で、コミュニケーションなど他者との関わりを苦手とする社会性障害がその特徴です。最新の報告では、その数は人口の3%以上にもなると言われています。生まれつきの脳の機能障害ですが、その原因はまだ分かっていません。ASDでは、感覚が過敏だったり逆に鈍麻であったりという感覚特性や、手先が不器用といった運動の苦手さが多く見られます。そこで近年では、「感覚および運動機能」と「社会性」との関係性が注目されるようになってきました。

私は、感覚・運動機能に特異性があることと社会性がうまく働かないこととに共通する脳の生物学的基盤(認知・行動を司る脳の領域)があるのではないかと思い、fMRI(functional MRI)を使って研究することにしました。fMRIは、物を見たり、体を動かしたり、課題に取り組んだりするような脳の機能を発揮する時に、脳のどの領域が働くかを見るものです。何かをやっている時と、やっていない時の脳の血流の状態を比べることで、活発に働いている脳の領域を見つけることができます(図1)。

図1.左はfMRIの図。中央は、感覚・運動機能と社会性に共通する生物学的基盤があるのではないかと予想した図。右は、感覚・運動機能と社会性には異なった生物学的基盤があるのではないかと予想した図。

そして活発に働いている領域がASD者とASDではない定型発達(以後TD)者とで違いがないかを調べ、最終的にASDの認知や行動の違いの要因を探ることに繋げていこうとしています。

ASDの特性を引き起こす脳内の生物学的基盤「後頭皮質」

社会性の強い認知機能から、感覚・運動機能の強い認知機能までの3段階について、ASD者とTD者の脳をfMRIで調べ、共通の生物学的基盤があるかどうかを確かめる実験をしました(図2)。

図2.左は、3つの課題に共通して活動低下を示した後頭皮質を示した図。中央の矢印は、上に行くほど社会性が強い認知機能で、下に行くほど感覚・運動機能が強い認知機能を示している。

まず社会性が強い認知機能の「模倣認知(自分の行動が他人に真似される)」に関連する脳の活動を見ました。その結果、大人のASD者では、脳の「後頭皮質」と呼ばれる領域の活動がTD者に比べて低くなっていました。後頭皮質は「視覚野」とも呼ばれている場所なので、次は「視覚」に注目した「視点の処理(自分の手を見るような一人称視点と他人の手を見るような三人称視点の手の写真を見る)」の実験を大人のTD者とASD者について行いました。一人称視点で手を見たときはTD者とASD者ともに後頭皮質の活動量はほとんど変わりませんでした。しかし、三人称視点の手を見たときは、TD者では自分の手を見るときよりもはっきりと後頭皮質の活動が活発になっていましたが、ASD者では自分の手を見る時とほぼ同じでした。このことから大人のASD者は他人の手と自分の手の視点の違いを識別できていない(視点の処理ができていない)ことがわかりました。最後により感覚・運動機能が強い「身体の視覚処理(体、顔、風景、車の写真を見て、どれが体であるかの識別)」の実験をしました。その結果、大人ではTD者もASD者もともに後頭皮質の活動はほぼ同じでしたが、子供の場合はASD者ではTD者より活動した領域の体積が小さいことがわかりました。

このように模倣認知、視点の処理、視覚の処理、3つのいずれの課題でも、ASD者の脳の後頭皮質の活動の低下が見られたことで、社会性と感覚・運動機能には後頭皮質という共通の脳内の生物学的基盤があることが明らかになりました。

今後の展望

ASDは単一の特性を示す疾患ではなく、言葉の発達に遅れがあったり、友人関係が作れなかったり、環境変化に順応できなかったり、興味の範囲が狭いなどの特性の強さに個人差があります。また、人によって特性の出方にも違いがあります。また、fMRIは、「ボクセル」という3ミリメートル角の小さい立方体単位でデータを取っており、その一つ一つのボクセル内の脳の活動の強弱を調べることができます。現在機械学習を用いた複数のボクセルの空間的な活動パターンの分析(Multivoxel pattern analysis(MVPA))などを始めたところです。例えば「後頭皮質」の中でも、それぞれの認知・行動特性に関連する反応の仕方が異なるのかを調べ、ASD内の個人差を生み出す脳機能を明らかにしていきたいと思っています。そして将来的には、これらの研究を通して、ASDの方やその家族の自立と生活の質を向上させていくことが私の目標です(図3)。

図3.左は、今後力を入れたいと思っている機械学習などの手法。右は同じASDでも症状が個人によって違うことを示した図。

取材・構成:四十物 景子
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

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