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製品アーキテクチャとIT戦略~「組み合わせ」のモジュラー型と「すり合わせ」のインテグラル型 朴英元 助教 (2010年1月当時)

  • 朴 英元(Yongwon Park)助教(2010年1月当時)

人間が作りだしたモノはすべて何かの「考え」から作られています。これにはさまざまなレベルがありますが、必要な機能をどの部品に受け持たせ、その部品の間をつなぐインターフェースをどうするかについての設計思想が、私の研究している「製品アーキテクチャ」です。
製品システムの性質に着目すると、製品アーキテクチャは、モジュラー型とインテグラル型の2種に分けられます。現代の工業製品では、モジュラー製品の代表はパソコン、インテグラル製品の代表は乗用車でしょう。
パソコンのキーボードやプリンターは、別のものに交換しても入力や印刷ができます。CPU(中央演算装置)も取り換えて性能アップが可能です。このように、個々の機能と部品が対応しており、「組み合わせ」で設計するアーキテクチャをモジュラー型と呼びます。これに対して、乗用車では、エンジンを燃費のよいものに変えると乗り心地や走行安定性も変わります。すると、この変化への対応のために、サスペンションやボディ構造も変更しなくてはなりません。このように個々の部品が複数の機能と密接に関係しており、「すり合わせ」で設計するアーキテクチャをインテグラル型と呼びます。

図1:モジュラー・アーキテクチャとインテグラル・アーキテクチャ(提供/朴 英元助教)

図1:モジュラー・アーキテクチャとインテグラル・アーキテクチャ(提供/朴 英元助教)

市場拡大が製品のモジュラー化を促す~オープン型とクローズ型

製品アーキテクチャは、オープン型とクローズ型に分けることもできます。クローズ型は、部品のインターフェース設計を関連企業にだけ公開する方式で、部品を作れるのは仲間だけです。対するオープン型は、社会全体にインターフェース設計を公開する方式で、誰でも部品を作って販売できます。これらはビジネスの違いによる分け方であり、社会的コンセンサスの視点からの分け方です。システムの性質によるモジュラー型とインテグラル型という分け方と組み合わせると、製品アーキテクチャは4タイプに分類できます。
メーカーどうしの競争が進むと、製品アーキテクチャは必然的にオープン・モジュラー化していくと考えられます。高品質化競争により製品の機能が高くなって顧客のニーズをクリアすると、今度は価格競争となり、低コスト化のために標準化を図る必要が出てくるからです。
実際に、多くの工業製品のアーキテクチャがオープン・モジュラー化しました。パソコンはクローズ・モジュラー型からオープン・モジュラー型に変化し、CD-ROM、CD-R、DVDなどの光ディスクドライブは、オープン・インテグラル型からオープン・モジュラー型に変化しました。こうした変化の背景には、MPU(超小型演算処理装置)やシステムLSI(大規模集積回路)などに代表される情報を媒介する半導体と、それを駆動するファームウェアの進化があります。これらが、個々の機能を担う部品どうしの結合を容易にし、モジュラー化を促したのです。
他にも、1980年代のカラーテレビをはじめ、デジタル携帯電話、太陽電池、多機能プリンターなどがオープン・モジュラー化してきました。今後はインバータエアコンやLED照明、乗用車もこの方向に進むでしょう。

図2:製品アーキテクチャの変化(提供/朴 英元助教)

図2:製品アーキテクチャの変化(提供/朴 英元助教)

ITシステムから見た企業組織と製品アーキテクチャの関係性

私は現在、企業組織と製品アーキテクチャの関係性を研究しています。そのなかで、現代のITシステム、特に3次元CAD(コンピューター支援設計)システムに注目しています。設計情報を形にすることができ、製品の設計段階で問題解決を図れるという点で、CADは開発期間の短縮に大いに貢献しますが、企業にはそれを活用する力が必要になります。
モジュラー型製品では、業界標準的な汎用部品の比率が高くなります。この場合は部品メーカーが自由に部品を製造販売するため、CADシステムをそれぞれ独自に導入します。すると、最終製品メーカーがCADデータを活用するには、部品メーカーとの対等に近い連携のうえで、それぞれのCADシステムを統合して運用しなくてはなりません。その際、最終製品メーカーの組織にとっては外部との調整能力が重要になるのです。
一方、インテグラル型製品はカスタム設計部品が増えます。この場合は多くの部品の細部調整が重要なので最終製品メーカーの指導力が増します。結果として、グループごとの独自仕様のCADシステム化が進み、グループ内部での調整能力が重要になります。
私たちのグループは、日本の大手電機メーカー10社のAV機器6種、合計20製品を対象として、設計技術者とITシステム担当者にインタビュー調査を実施しました。その結果、日本の電機メーカーではCADが組織の内外で統合されていないインテグラル型に近い設計システムを採用している事実がわかりました。これは、モジュラー化が進むエレクトロニクス製品には不利な企業組織といえます。

ITが活用できる組織づくりでコア・コンピタンス向上を

日本のエレクトロニクス業界は高度な製品開発能力をもっています。かつてのアナログ時代では、新機能を追求する製品はインテグラル型の部分が大きく、開発システムもインテグラル型なので実力を発揮してきました。しかし、製品アーキテクチャがモジュラー化したデジタル製品の場合は部品メーカーの立場が強いため、インテグラル型の開発体制とIT技術の使い方のままでは世界を相手にした競争力につながらなくなっていきます。これと対照的に、韓国の三星電子に対する同じ調査では、メーカー内外のCADを統合するための組織的仕組みを構築していることがわかりました。近年、韓国や台湾のエレクトロニクスメーカーが躍進していますが、その理由は、まさに、製品アーキテクチャと企業組織のIT活用能力との一致ではないかと考えられるのです。
これからの日本のメーカーには、CADなどのITシステム活用にあたって、自社の強みを生かすコア・コンピタンス(他社がまねできない、その企業ならではの力)を高めるような企業戦略が必要なのです。私は、これらの研究成果を社会に生かすため、電機メーカーや自動車メーカーの設計技術者たちといっしょに研究会を開いています。韓国と日本で経済学とIT技術の両方を研究してきた経験を生かし、日本のメーカーが国際的な競争力をとりもどす手助けができたらと思っています。

朴先生_図3

図3:日本の電機メーカーはコア・コンピタンスの強化が必要(提供/朴 英元助教)

 

取材・構成:青山聖子/藤吉隆雄
協力:早稲田大学大学院政治学研究科MAJESTy

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