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磁力でめっきをコントロールする― 電気化学反応の新領域 ― 杉山敦史 准教授 (2008年11月当時)

  • 杉山 敦史(Atsushi Sugiyama)准教授(2008年11月当時)

身のまわりで活躍する電気化学反応

金属の薄い被膜をつくることができる「めっき」。この技術は、たとえばオリンピックの金メダルのように見た目をきれいにするために使われています。それだけでなく、さびにくくする、電気を流れやすくするといった目的でめっきは利用されます。
携帯電話やコンピューターの小型化に一役買ったプリント配線板には、電気めっきとよばれる方法が使われています。金属が溶けているめっき液に、めっきをしたい対象物を浸けて電気を流すと、表面を覆うように金属の薄い膜ができます。この電気めっきは、電気を使った化学反応を利用しています。この「電気化学反応」が、わたしの研究テーマです。

思い通りにコントロールしたい―「磁場」という新しい要素の発見

金メダルなら、めっきの厚さにムラがあっても問題になりません。しかし、携帯電話などで使われるプリント配線板には精度の高いめっき技術が必要です。たとえば、直径300ミクロン(1ミクロンは1ミリの1000分の1)の穴の内側に、ムラなく金属膜を作るといったことが要求されます。しかも、金属膜に小さな穴があいたり突起ができたりすることは許されません。めっき技術のコントロールは、電子機器の更なる高性能化につながるのです。
これまでめっきをコントロールするのに、めっき液にどのような物質をどのような割合で入れるか、温度は何度にするか、酸性アルカリ性をどのくらいに設定するか、どのようにめっき液をかきまぜるか、電気を流す量はどうするかといった検討がされてきました。
しかし、私は共同研究者と共に、めっきをコントロールする新たな要素として「磁場」があることを発見しました。とても強力な磁石の影響が及ぶ空間で電気化学反応を行うと、これまでにはできなかっためっき液の対流を起こせることがわかったのです。

杉山先生_図1  杉山先生_図2
磁場の流れを利用することで、めっきのような薄膜だけでなく特徴的な構造体も作ることができる。

やっかいものを手なずけた「磁場」の力

めっきを高精度に仕上げるためには、めっき液に溶けている金属を対象物の表面にスムーズに移動させることが重要です。めっき液をかき混ぜれば、簡単に解決すると思うかもしれませんが、めっき対象物のごく表面には対流境界層という物質の移動が妨げられる層が存在しています。これは、めっきにとってかなり厄介な存在なのです。
私たちは、磁石の影響が及ぶ空間である「磁場」の中でめっきを行うと、これまで物質の移動が起こりにくかった対流境界層のなかでも対流が起きることを明らかにしました。つまり、磁場中でめっきを行うと、めっき液に溶けている金属がめっき対象物の表面にスムーズに移動することがわかったのです。

世界を代表する強力な磁場

最近では、物質・材料研究機構や東北大学金属材料研究所の強磁場グループの支援を得て、30テスラ∗という世界トップレベルの強力な磁場が電気化学研究でも利用できるようになってきました。この磁場を生むためには、家庭用のエアコンが1万台以上動かせるメガワット級の電力が必要です。
私がこの研究を始めたころは8テスラの装置でしたが、メガワット級の電力を送る線がむき出しになっていて、近づいただけで感電してしまうおそれがありました。装置から15メートル以内に近づいてはいけないという中で、「この中に手をいれたら、どうなっちゃうんだろう」と考えながら実験をしていました。
それでも、世界で誰も知らない現象を証明するデータを手にしているという興奮が、私を研究へと駆り立てていました。

∗テスラ:磁場の強さをあらわす単位。1テスラは1万ガウスで、地磁気は約0.5ガウス。最近では、1テスラくらいの強力な希土類系磁石が文具用をはじめとして簡単に手に入る。

世界が追随する磁場中での電気化学反応

その後、磁場中での対流現象を利用して、めっき液中の金属イオンの磁化率を測定する「スピン電極」を作ることにも成功しました。磁化率とは、ある物質を磁場中に置いたとき、その物質がどのくらい磁石の性質を帯びやすいかを示す指標です。これまでの磁化率測定方法では、めっき液全体の磁化率しか測定できませんでした。ところが、スピン電極を用いると、めっきに関与する金属のみの磁化率を測れます。このような磁化率の測定ができるのは、世界中でスピン電極だけです。
磁場中での電気化学反応は、私たちが世界で初めて切り開いた新領域です。磁石の利用環境が限られていることもありますが、日本で中心になって進めている研究者はたったの4人。全て共同研究者です。案外、海外の研究者が「面白い」といってこの分野に参入してきます。これからも海外の研究者に負けないように研究を進め、まだ解明できていない未知なる現象を一つひとつ、ひも解いていきたいと思っています。

取材・構成:大石かおり/吉戸智明
協力:早稲田大学大学院政治学研究科MAJESTy

 

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