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バイオマスから見た循環型社会 齊藤修 助教 (2008年9月当時)

  • 齊藤 修(Osamu Saito)助教(2008年9月当時)

里山から自然との共存のヒントを探る

私たちが使うことのできる資源は無限ではなく、また、二酸化炭素や廃棄物を無尽蔵に捨てるわけにはいきません。21世紀は、このような一方向に生産・消費を繰り返す社会をやめて、廃棄物を新たな資源に再利用していく「循環型社会」を築いていくべきです。
ただ、単に循環型社会といっても、国や地域で3R(Reduce:減らす、Reuse:再利用、Recycle:リサイクル)を推し進めていくものから、自然との共存を目指すシステム作りなどさまざまなテーマがあります。私はこれら大きなテーマから小さなテーマまでを、バイオマスの利用を軸に、横串を刺すような研究をしたいと思っています。
そのために私は、実際に里山に出かけていき、そこで発見した「気になること」を工学的な分析で評価し、その地域の未来像を予測しています。これを基に、政策や社会の仕組みから環境問題を解決していこうと考えています。

バイオ燃料利用の持続可能性

近年、温暖化防止のためにバイオエタノールの利用拡大が叫ばれています。しかし一方、食料と競合したり生態系へ影響を及ぼしたりすることから、さまざまな批判もあります。バイオエタノールの影響は、環境や社会、経済にわたって複雑にからみ合っています。現在行われている「化石燃料をどれだけ減らせるか」「温暖化にどれくらい有効か」といった評価方法だけでは、影響を十分に汲み取ることができません。
そこで、環境への影響を生産から廃棄までに必要な土地面積におきかえる「エコロジカル・フットプリント(EF)」という指標を用いることにしました。これは、日本のバイオエタノール政策が及ぼす影響を、温室効果ガスの排出量だけでなく、土壌の劣化や農業用水の確保、汚染の許容量、原料作物供給にまで広げて評価できます。私は、昨年まで大学院で指導していた若津宇宙さんと共同で、EFによる評価を行いました。
従来の評価法ではガソリンと比べて温室効果ガスを削減できるバイオ燃料作物がいくつかありましたが、それらをEFで再評価すると、ガソリンよりも環境や社会経済に悪影響を与えることがわかりました。対して、建築廃材や麦わら、間伐材などの国内の未利用廃棄物(バイオマス)を利用したバイオエタノールでは新たに土地を利用することがないためEFを低く抑えられ、環境への影響が少なくてすむでしょう。
しかし、これら廃材などの供給量だけでは、日本が目指すバイオエタノール導入目標には届きません。たりない分は輸入などに頼ることになりますが、それでは、温室効果ガスを減らせてもEFを上昇させてしまうのです。
今後、ガソリンによって排出される温室効果ガスをバイオエタノールの導入によって半減させようとすると、EFは現状の2~3倍になってしまうおそれがあります。日本のバイオエタノール政策は、このジレンマを考慮して取り組む必要があります。

余っているゴルフ場をどう利用するか

日本には2,400を超えるゴルフ場があります。これはなんと日本の国土面積の0.7%、森林面積の約1%を占める広さにあたります。そして、関東一都六県には全国の4分の1にあたる600カ所以上のゴルフ場が集まっていて、森林面積に占める割合も3.7%にもなります。これらは、地域開発の一環として建設されてきましたが、バブル崩壊後はゴルフ人口が年々減少し、倒産が相次いでいます。かつて里山を切り開いて開発されたゴルフ場が将来的に余剰となり、放置されてしまわないか危惧しています。
実際に廃業したゴルフ場跡地を訪ねてみても、イノシシなどの野生動物や雑草によってコースは非常に荒廃していました。またクラブハウスや接続する道路などの付属施設でも、不審者の侵入や土砂崩れなどの問題が起こっているようです。
私は2035年までに、日本全体で約1,000カ所、首都圏では150カ所のゴルフ場が立ち行かなくなる、いわば「限界ゴルフ場」になる可能性があると予想しています。また、交通アクセスの悪さ、ゴルフ場の過密度、その地域の環境の3要因から潜在的な限界ゴルフ場の分布を調べ、首都圏の302カ所のゴルフ場がこれら条件に当てはまることを明らかにしました。
こうした限界ゴルフ場は、その地域社会の特性にあった転用を行うべきです。たとえば、農村に近ければバイオ燃料の原料作物を育てたり、間伐材や農業廃棄物を貯蔵したりできるでしょう。都市圏に近いところでは、霊園化する例も報告されています。そのほかにも放牧や再森林化などが考えられ、これらのシナリオを定量的に評価していくのが今後の課題です。

持続可能性はどのようにして評価していくべきか

持続可能性の評価にはいろいろな方法がありますが、具体的にどうしたらいいのかはまだまだ検討段階です。私は、普遍的な解き方ではなく、地域を観察することで、その場所の特性やタイミングに合わせて考えていくことが大切だと思っています。そして、単なる評価や提言で終わるのではなく、それを地域に持ち帰って実践し、実践のなかから新たな研究課題を見つけていきたいと思っています。

齊藤助教が定点観測調査を行っている、埼玉県鳩山町の里山のコナラ林(雑木林)。市民団体によっていまでも下刈りや除伐などの管理がされている。2008年8月1日撮影。

取材・構成:吉戸智明/山下敦士
協力:早稲田大学大学院政治学研究科MAJESTy

 

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