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人と共生する“機械”を考える 岩田浩康 准教授 (2008年3月当時)

  • 岩田 浩康(Hiroyasu Iwata)准教授(2008年3月当時)

人間を知ることから始める

「何かすごいものに携わりたい」という強い思いに駆られていた大学生時代、触るとしなやかに動く“柔らかい”ロボットアームと出合いました。私はそれに衝撃をうけ、ロボットテクノロジー(RT)の研究を始めました。それから12年。いまは、RTの医療福祉分野への応用を中心に研究を進めています。
これまでロボットは、危険な作業を行い、重労働を軽減する道具としておもに使われてきました。しかし今後は、人間のパートナーとしての需要が増大すると同時に、人間を支援するさまざまな装置に応用されるようになると考えられます。
人間のすぐかたわらで生活をサポートする次世代の“機械”の創造。そのためには、人間と機械の新しい関係性をデザインする視点が重要です。機能を向上させるだけでなく、人間の認知に与える影響も考慮しつつ、ほんとうに有用なサポートのあり方について考える必要があるのです。それを実践するため、私は、機械工学という学問領域を超え、人間工学、認知科学、コミュニケーション論にもわたる幅広い知見を取り入れつつ研究を展開しています。人間と共存する機械を考えることは、人間を知ることにつながるのです。

人間の巧みさを加えて完成したロボット

人間の生活にロボットが入り込むのは容易ではありません。私たちがふだん何気なく行っている缶ジュースの蓋を開けたり、卵を割ったりといった、微妙な力加減やタイミングを制御するのはじつは至難の技なのです。これまでのロボットは、高度な制御技術を駆使することで、これら複雑で巧みな操作を実現しようとしてきました。ところがこの方法では、設計よりモノの位置が少しでもずれるとうまくいきません。
一方、私たち人間の手は、モノが多少ずれていても関節が自然に変形して最適な位置に持っていくことができ、また、指や手の平が柔らかくできているため接触面積を調整することで安定して持つことができます。このように人間をつぶさに観察した結果、私は、制御方法を改善するまえにロボットの“身体”を見直すことが重要であることに気づき、機械に人間がもつ柔らかさを加えてみました。さらに、これまでRT研究で培われた情報処理技術を組み合わせることで、硬いモノでも柔らかいモノでも同じアルゴリズムでつかめるロボットの開発に成功しました。
このように細部の設計までこだわった結果として、2007年11月に完成したのが人間共存ロボット「TWENDY-ONE」(http://www.twendyone.com/)です。家事支援や高齢者の自立支援に対応できる機能を備え、人の手となり足となるロボットの誕生です。現在は、操作の失敗を通してちょうどよい力の入れ具合を見つける、学習知能の研究を展開しています。

岩田先生_図

レモンをつかむ「TWENDY-ONE」(提供/岩田浩康准教授)

人間の“気づき”を支援する

ロボットの巧みさや安全性が向上し、人間の代わりにいろいろなことができるようになってきました。しかし私は、生活をサポートするロボットは、あくまでも自分で何かをやろうとする人間を“助ける”存在であってほしいと考えます。そのためには、補助は必要最小限に抑え、残された能力を活かせる身体の使い方を人間自らに気づかせる機械が必要です。
たとえば、一人で立ち上がるのが難しい方の場合、ロボットが手先をうまく誘導して負担のかからない姿勢を教示しながら介助を続ければ、自身でコツをつかめるかもしれません。身体に対するこの“気づき”こそ、人間と共存する機械がサポートすべきポイントです。私はこのコンセプトに基づいて、身体の動かし方を教示する運動支援ロボットの開発に取り組んでいます。

失った感覚をとりもどす“気づき”

それに加え、知覚を支援する装置も開発しています。たとえば脳卒中などで半身が麻痺した場合にリハビリを行いますが、これまでは麻痺した手足を動かしてもらう受身の運動訓練が中心でした。ところが最近の研究から、脳神経において回路網の再編成や神経細胞の新生が起きることがわかってきました。
そこで私は、知覚を支援する装置を用いて、麻痺している箇所への注意力を高めることで神経細胞の再生を促し、運動機能の回復につなげられるのではないかと考えました。こうして世界で初めて開発したのが、麻痺している側の足底の圧力をセンサーで検出し、麻痺がない箇所にフィードバックする「知覚支援」装置です。
この装置はすでに脳卒中の患者さんに応用して、効果が確かめられています。半身が麻痺すると、足底の外側に力が集中してしまう内反という症状が表れ、バランスを崩しやすくなります。そこで、バランスのとり方に自ら“気づかせる”ため、麻痺した足の着き方とフィードバックされる刺激を対応づける学習訓練を行いました。それを3カ月間続けてみたところ、健常者の歩行に近づく効果が認められたのです。
また、脳科学に基づく検証も行い、フィードバックの刺激を頼りにリハビリを進めてもらうと、麻痺側の感覚野が活性化されることを初めて観察することができました。現在、この装置を取り入れた効果的なリハビリプログラムを、臨床現場に提案しています。今後は、どのような症例において、どのような訓練を行えば効果を挙げられるのかを明らかにし、より適切な刺激方法や刺激箇所を探っていく予定です。

人を進化させる機械

知覚支援の応用は、リハビリだけにとどまらず、さまざまな広がりをみせています。建設機械や遠隔手術ロボットの操作には熟練したスキルが必要ですが、操作対象の状態をうまくフィードバックできれば、より短期間でスキルを向上させることができるでしょう。
人間の成長を促し、進化させる機械。私はそんな機械の創造を目指しています。

取材・構成:那須川真澄
協力:早稲田大学大学院政治学研究科MAJESTy

 

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