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平和の法則を求めて 林光 助教 (2007年12月当時)

  • 林 光(Hikaru Hayashi)助教(2007年12月当時)

国際関係に普遍的なモデルを

なぜ人は戦争をするのでしょう。ネオリアリズムという学派の始祖であるK. ウォルツは、18世紀の思想家ルソーに拠りつつ、それは個々の国家の性質が原因ではなく、国家間の相互作用によるものとしました。それが国際関係論の発想 です。これまでの国際関係論は、外交資料や規範の分析を通じ、個々の国家の行動を説明しようとするのが主流でした。私のアプローチは、数理的なモデルや計 量的なデータによって、相互作用している国家がどのようなときにどのような行動を取るのか、従来よりも普遍的な説明を与えようとするものです。

ゲーム理論の応用

学部生のころ、私はゲーム理論と出会いました。このゲーム理論とはどのようなものか、「シカ狩りゲーム」というモデルを用いて説明しましょう。
二人の狩人が協力して、シカを捕らえようと待ち伏せしているとします。その目の前をシカではなくウサギが通りかかりました。ウサギを追いかけてどちらかが 陣形を崩してしまえば、シカは得られなくなります。もし片方が裏切ってウサギを追いかけた場合、裏切られたほうには何も利得がありません。そこで、たがい にもし相手が裏切ったらと、疑心暗鬼の状態になります。本来、協力してシカを得たほうがそれぞれの利得が大きく、したがって両者はおたがいを裏切らずにシ カを待つことを望むはずです。しかし同時に、このような状況下におかれた二人が、疑心暗鬼の末におたがいを裏切ってしまう悲劇も起こりえます。このよう に、状況を相手のいるゲームと仮定して、各プレーヤーの行動を考えるのがゲーム理論です。
これを国際関係に当てはめるならば、先の二人の狩人は、緊張状態にある二つの国に相当します。「シカ狩りゲーム」のような状況下では、明らかに両者にとって平和が好ましくても、疑心暗鬼の末におたがいに裏切ってしまう戦争が起こりうることになります。
この話は第三者を加えて拡張することができます。実際の紛争の場合、国際連合平和維持活動(PKO:Peace-Keeping Operations)が紛争当事者のあいだに立つことがあります。PKOは“ガラスのショーウインドウ”にたとえられることがあります。ガラスのショー ウインドウはいかにも脆そうで、商店の品物を強盗から守るのに役立ちそうもありません。しかし、実は強盗を抑止するのに有効な役割を果たしています。とい うのは、簡単に破壊可能ではあっても、同時に大きな音をたてて周囲の注意を集めるからです。
同様に、PKOが派遣されているときに、相手国を攻撃しようとして両者のあいだに展開したPKO部隊を突破すれば、大きな音をたててしまうことになり、国際世論から非難を浴びるでしょう。
もし相手国を攻撃する場合の利得が、ガラスのショーウインドウを破壊することによって被る損失より大きければ、当事国は攻撃へと動くでしょう。ということは逆に、ショーウインドウを破壊するときに出る音をより大きくすれば、攻撃しあう戦争状態を回避できるかもしれません。
このような攻撃による利得とショーウインドウを破壊するときの損失を計量的に示すことができれば、どのようなときに国家は攻撃を仕掛けるか、どのようなときにPKO がその抑止力となりうるかを一般化して、モデルを作ることができるのです。

過去の分析から未来予測へ

私はいま、1997年に締結された「対人地雷全面禁止条約」(別名:オタワ条約)の形成過程を分析しています。この条約は、いままで野放しだった地雷を一 挙に全面禁止とした画期的なものですが、条約への未加入や、加入したものの条約内容を守れない不遵守の問題が懸念されています。条約形成過程についてのこ れまでの通説では、このような未加入・不遵守を一つの理論で説明できません。そこで、世界190カ国の行動を計量的に分析して、未加入・不遵守の要因を探 り、参加国を含めたすべての国家の行動を説明できるようなモデルを構築しようと考えています。また、ゲーム理論のプレーヤーは国家単位に限定する必要はあ りません。一つの国家を政党などで分けたり、NGOを含めたりして、より詳しい分析を行っていくのが今後の課題です。
国際関係を計量的にデータ分析する研究は、もとになるデータを自分で作り上げることが難しいので苦戦していますが、これまでバラバラだった研究を統一的な視点で扱うことができます。
それがこの研究の面白みです。いまはまだ、過去の事例について一つ一つ事後的に分析している段階ですが、そうしたケーススタディを積み重ねることによっ て、予測的に役立つ法則を見つけることができればと思います。将来は、これからの国際関係における意思決定に役立つような提言をしたいと考えています。

取材・構成:吉戸智明/加藤裕幹
協力:早稲田大学大学院政治学研究科MAJESTy

 

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