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究極の再生医療を目指して 岩崎清隆 准教授 (2007年12月当時)

  • 岩崎 清隆(Kiyotaka Iwasaki)准教授(2007年12月当時)

心臓弁置換術のこれまで

これまでおもに取り組んできたのは、移植用心臓弁の開発です。心臓弁は、開閉することで血液の流れを正しくコントロールする役割をもっています。この弁が閉まらなくなったり、硬くなって動きが悪くなったりすると、人工弁に置き換える手術をして、機能改善を図ります。この手術は、日本では年間約1 万例、アメリカでは6万例行われています。現在、用いられている代用弁は3種類ありますが、どれも大きな課題を抱えています。
まず、機械弁の場合、血液には人工物に触れると固まろうとする性質があるため、患者さんは血液が固まるのを防ぐ抗血液凝固剤を、毎日かかさず一生涯飲み続けなければなりません。
一方、異種生体弁は、ウシやブタといった動物の心臓弁を用いるもので、動物の弁をヒトに使える状態にするために化学処理をしてあります。そのときに用いる薬品等の影響で、耐久性が数年から15年程度という限界があります。そのため、適用患者も60歳以上の方に限られています。
3つ目は、ヒトのドナーから提供される同種生体弁ですが、圧倒的にドナーが不足しています。また、いくらヒトの心臓弁でも患者さん自身のものではないので、拒絶反応が起こってしまいます。
薬を飲まなくても一生涯安全で、耐久性があり、拒絶反応の問題も解決できる心臓弁を作り出せないだろうか――そう考えた私は、ブタの心臓弁から細胞を完全に取り除いて組織のみとする技術(組織無細胞化技術)、その組織に患者さん自身の細胞を植え付け、増殖させる技術(再細胞化技術)の開発に着手しました。ブタの心臓弁なら、ヒトのものとサイズがほぼ同じで入手も容易ですから、患者さんの数に見合った供給を確保することができます。

心臓弁の組織無細胞化技術

移植後の拒絶反応は、患者さんの体が自分のものではない細胞を異物として攻撃することで起こります。心臓弁の場合、組織の中にスイカの種ぐらいの密度で細胞が含まれており、これが異物と見なされるのです。このため、化学溶液で細胞を溶かして取り除く方法が世界的に試みられてきましたが、処理後も多くの細胞が組織に残り、さらに組織自体も壊してしまうという問題がありました。
私は、電子レンジにも使われているマイクロ波を使い、組織の奥まで溶液を浸透させようと考えました。循環する溶液(デオキシコール酸溶液)の中に心臓弁を置き、マイクロ波をあてる装置を作ったのです。心臓弁が温まっては困りますから、温度を37度に保つ冷却機もつけました。マイクロ波を均等にあてるために心臓弁を回転させるとか、化学溶液の循環に拍動を加えるという工夫もしました。その結果、組織の緻密な大動脈弁から、組織自体には傷をつけず組織の強度も保持したまま、細胞のみを完全に除去することに世界で初めて成功しました。

無細胞化された心臓弁の再細胞化技術

無細胞化した心臓弁は、そのままでも移植に使えます。しかし、生体内では、血液に触れる表面は必ず内皮細胞で覆われています。そこで、移植前にあらかじめ患者さんから内皮細胞を採取し、無細胞化した心臓弁に生着させておけば、移植後に理想的な状態になると考えました。

ブタで行った実験を紹介しましょう。開発したのは、体内と非常に近い拍動流・拍動圧力環境を作りだせる装置です。無細胞化した心臓弁に、まず別のブタの血管内皮細胞をくっつけました。そして、この装置に入れて、体内の血流と同じように培養液を循環させると内皮細胞が増殖し、心臓弁の全面を覆いました。内皮細胞は、体内と同様に血流の方向に沿って並んでいました。患者さんの内皮細胞を用いれば、無細胞化した心臓弁の血液に触れるところは移植時点ですでに患者さん自身のものになっているわけです。
ブタでは、こうして作成した心臓弁を、30 回以上の移植実験で評価しました。無細胞化後、再細胞化して移植した組織を6 ヵ月後に摘出し検査したところ、移植されたブタの体内で自己細胞が入り込み、再生・成長していることが確かめられました。

岩崎先生_図

生体内に酷似した拍動流・拍動血圧環境を創出可能な装置 (提供/岩﨑清隆准教授)

一刻も早く患者さんのために

私は、いずれは患者さんの治療に応用することをめざしてこの研究に取り組んできました。ヒトのドナーから提供された心臓弁から細胞を除去し、患者さんの細胞を植え付けて移植することは、技術的にはすぐにでも可能でしょう。現在用いられている化学処理した生体弁と、私の開発した技術で無細胞化した生体弁の動物への移植実験の結果では、明らかに後者のほうが体内でよい状態が保たれています。今後の実験で、ブタの無細胞組織に対してヒトが拒絶反応を起こさないことをより確実に示すことができれば、ブタの心臓弁をここで紹介した方法で処理し、患者さんに移植することも可能になります。さらに、移植された心臓弁に患者さん自身の細胞が入り込んで成長するため、小児に再手術のいらない治療を提供することもできます。今後はヒトへの適用を進められるよう、必要な実験を行える環境が必要です。
この技術はまた、心臓弁・心膜・血管・靭帯などさまざまな組織の再生に適用可能です。必要な組織を無細胞化し、患者さんの細胞を植え付ける技術は、これまでの人工臓器・移植医療を補い、医療革新を起こす資質をもっていると考えています。

取材・構成:青山聖子/押尾真理子
協力:早稲田大学大学院政治学研究科MAJESTy

 

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