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独・コンスタンツ大学高等研究所 研究者相互派遣プログラムレポート 2026年度 第1弾(パフチャレク パヴェウ 講師)

早稲田大学高等研究所は2023年度より、当研究所の協定機関であるZukunftskolleg(ドイツ・コンスタンツ大学高等研究所。略称:ZUKO)と、研究交流を目的とした所属研究者の相互派遣を実施しています。当記事では、本プログラムの4人目の利用者として現在ZUKOに滞在中のパフチャレク パヴェウ 講師より、利用に至った経緯や、現地での研究活動、日々の生活についてご紹介します。

独・コンスタンツ大学高等研究所 研究者相互派遣プログラムレポート 2026年度 第1弾(パフチャレク パヴェウ 講師)

パフチャレク パヴェウ

研究テーマと訪問の背景

2026年4月より、早稲田大学高等研究所(WIAS)とコンスタンツ大学高等研究所(Zukunftskolleg)の研究者相互派遣プログラムを通じて、コンスタンツ大学に滞在しています。今回の滞在では、草間彌生の文学作品を、パフォーマンス、プロテスト、社会的関与の問題と結びつけて考察する現在の研究を進めています。

訪問のきっかけの一つは、2025年に行われたWIASとZukunftskollegの合同ワークショップでした。その際の議論を通じて、日本文学、現代美術史、ジェンダー研究、パフォーマンス研究のあいだに位置する私の研究を、Zukunftskollegのような分野横断的な環境で検討することの意義を感じました。

現在の研究では、草間の文学作品を、視覚芸術の補足資料としてではなく、それ自体が独自の美学的・政治的論理を持つ実践として読んでいます。特に、ニューヨーク時代のパフォーマンス、反戦的なハプニング、フェミニズムやクィアな身体性をめぐる実践が、後年の小説や詩にどのように再構成されているのかに関心があります。

文学とパフォーマンスを別々の領域として比較するのではなく、身体が声へ、身振りが語りへ、出来事がテクストへと移される過程に注目しています。草間の文学における反復、断片化、自己消去、不安定な語りは、単なる文体上の特徴ではありません。それらは、主体、ジェンダー、権力を揺さぶる形式として機能しています。コンスタンツ滞在中は、この問題を「テクストによる抵抗」として論じる論文の構想を進めています。

コンスタンツでの研究と生活

コンスタンツ大学では、主に論文の構成、草間のテクストの精読、文学・パフォーマンス・プロテスト美学を結ぶ理論的枠組みの整理を行っています。個人の研究室を使うことができ、資料を整理しながら、次の段階に向けた作業を進めています。

Zukunftskollegや大学内の研究者との会話では、日本研究や現代美術史の前提を共有していない相手に、自分の研究を説明し直す必要があります。そのため、議論のなかで、どの部分が草間に固有の問題であり、どの部分がパフォーマンス、文学、政治的形式をめぐるより広い議論につながるのかが明確になってきました。

コンスタンツでの滞在は、生活のリズムという点でも変化をもたらしています。私はこの10年以上、研究・教育・キュレーションの活動を主に日本を拠点に行ってきました。そのため、ヨーロッパに三か月滞在することは、短い出張や学会参加とは異なります。コンスタンツは比較的コンパクトな街で、ボーデン湖やスイス国境にも近く、自然環境が日常生活のすぐ近くにあります。住まいから湖までは徒歩数分で、暖かくなり始めた最近では、すでに泳いでいる人も見かけます。また、スイスが近いため、滞在中には近隣の都市や山岳地域を訪れる機会もありました。ドイツとスイスを短時間で移動できる地理的環境は、東京や大阪での日常とはかなり異なる空間感覚を与えています。

研究計画

コンスタンツでの研究に加えて、滞在中には短い調査旅行も行いました。ブリュッセルでは展覧会を訪れ、ヨーロッパにおける現代美術の制度的文脈を確認しました。また、ヴェネツィア・ビエンナーレのプレオープニングにも参加し、芸術、公共空間、プロテストの関係について考える機会を得ました。

今年のビエンナーレでは、展示内容だけでなく、展覧会を取り巻く政治的条件も重要でした。参加と排除、国家表象、ロシア、パレスチナ、ジェノサイド、アートウォッシング、ホワイトウォッシングをめぐる問題は、展覧会の外部にあるものではなく、ビエンナーレを読むための制度的・言説的枠組みの一部になっていました。

草間彌生の1960年代の反戦パフォーマンスや公共空間での介入を研究している私にとって、この文脈は直接的な比較対象というよりも、国際展が可視性、正当性、政治的圧力をどのように組織するのかを考えるための重要な参照点でした。特に、プロテストが美術制度の外部ではなく、その周辺や内部で生じる場合に、制度と抵抗の関係をどのように捉えるべきかを考える手がかりになりました。

今回の滞在を通じて、草間の文学とパフォーマンスの関係を論じる論文の構造がより明確になってきました。中心となる議論は、草間の文学作品をパフォーマンスの二次的な説明としてではなく、パフォーマティヴな戦略が別の媒体で継続する場として読むことです。今後は、反復、声、不安定な語りの政治性を中心に、具体的なテクスト分析を進めていく予定です。

WIASとZukunftskollegの研究者相互派遣プログラムは、今回の研究を論文化する前の作業期間として重要な意味を持っています。研究に集中する時間、制度的な距離、そして異なる知的環境のなかで、プロジェクトの論点をより明確にすることができています。

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