「ゼミの先生や仲間の協力が不可欠だった」
政治経済学部 4年 馬塲 仁子(ばば・さとこ)
政治経済学部 4年 渡邉 航大(わたなべ・こうた)
2022年11月5日、外務省が主催する「第38回国際問題プレゼンテーション・コンテスト」が開催されました。このコンテストは、全国の大学生などを対象に外交政策の提言を募るもので、今回のテーマは「わが国は2023年G7議長国として、どのような成果を目指すべきか」。国境を超えた気候変動対策として、貿易とインセンティブを通した温室効果ガス排出削減政策「CBAM広島構想」を提言した政治経済学部の馬塲仁子さんと渡邉航大さんは、小論文による事前審査を通過し、本選に進出。審査員を前にプレゼンテーションを披露し、見事最優秀賞にあたる外務大臣賞を受賞しました。受賞にはゼミの先生や先輩、同期の協力が不可欠だったと話す2人に、コンテストに参加したきっかけや受賞を振り返って感じること、早大生へのメッセージなどを聞きました。
――まず、コンテストに出場したきっかけを教えてください。
馬塲 外交に興味を持ったのは、中学時代、米国で現地校に通っていたときのことです。中国出身の子と一番仲が良かったのですが、当時ちょうど尖閣諸島を巡って日中関係が悪化。個人間ではこんなに仲が良くとも国家間では対立してしまうのだと、もどかしさを感じたんです。そこから、国家間の関係を改善する方法として外交に注目するようになりました。
渡邉 自分も国際関係に興味を持ったのは、日中関係が悪化していた中学生のときです。当時、中国でインターナショナルスクールに通っていましたが、中学生同士でも日中関係に関する議論が巻き起こりました。それぞれが自分の国の主張に基づいた意見を言う姿を見る中で、人の意見はバックグラウンドに影響されるのだと痛感。世界での日本の立ち位置はどうなのかと、国際関係に関心を持つようになりました。
馬塲 大学では日本外交を扱う国吉知樹先生(政治経済学術院准教授)のゼミに所属していて、国吉先生の紹介で今回のコンテストを知りました。学んだことをアウトプットする場を探していたところだったので、これは良い機会だと出場を決心。そして出場するからには高みを目指そうと、最優秀賞にあたる外務大臣賞の受賞を目標に掲げました。出場は1人でも2人でもできるのですが、せっかく日本外交のゼミに所属しているのだからゼミ生と一緒にと考え、その中でも外務大臣賞へのモチベーションがありそうだった渡邉くんに声を掛けました。
渡邉 「コンテストに出よう」と馬塲さんから急に連絡が来たときは驚きましたが、出場するなら外務大臣賞を、という気持ちは一緒でしたね。
――今回のコンテストで発表した「CBAM広島構想」の内容を教えてください。
渡邉 まず国境炭素調整措置(Carbon Border Adjustment Mechanism: CBAM)とは、EUが提案している気候変動対策で、環境対策を怠っている国々からの輸入品に対し、炭素コストとして関税を掛けるという経済学的な手法です。炭素税(※)を国家間の貿易に課すとイメージしてもらっても構いません。
この措置の導入により、各国がより積極的に環境対策に取り組むことが期待されます。しかしながら、CBAMの導入は、保護貿易主義的な性質があるなどの理由で多くの国から慎重な意見が出ているのが現状です。
そこで私たちの「CBAM広島構想」では、経済事情に起因する国家間の不平等を是正するとともに、より広範な国々が枠組みに参入し、排出削減をするインセンティブを設けることを試みました。具体的には、排出量および経済状況などを考慮した上で、税を課す国が、課される国に対して支援することを義務化します。例えば、発展途上国に対して炭素税を課す場合には、引き換えに先進国が資金援助や技術移転、環境に関する知的財産権の使用料の割引を行うといった具合です。
日本によるG7議長国としての本政策の提言、そして域外へのインセンティブを明示した形での枠組み拡大の実現は、日本の国益増大と国際秩序の安定という観点から、多くの重要な意義があると考えました。
(※)二酸化炭素の排出量に応じて課される税のこと。化石燃料の需要抑制を通じ、二酸化炭素排出量を削減する経済学的な環境対策。一般には各国内において課される。
馬塲 提言を考えるにあたっていろいろな分野をテーマの候補として検討しましたが、最終的には、世界的に注目が集まる気候変動対策に決定しました。この決定に関しては、ゼミをはじめ大学で国際政治経済を学ぶことで養われた、国際情勢を俯瞰(ふかん)する視座が生かされたと思います。
渡邉 実はCBAMについて初めて知ったのも、大学の授業「環境経済学」(政治経済学部設置科目)でした。そこから着想を得て、今回の提言を作り上げました。
――コンテストに向けた準備を進める上で、印象に残っていることはありますか?
渡邉 プレゼンの準備が印象に残っていますね。20分間の発表で分かりやすく伝えることが、思っていたより難しかったです。ゼミの先輩や同期、先生の前で繰り返しプレゼンをし、アドバイスをもらいました。最初に発表を聞いてもらったときには全然内容が伝わらなかったので、その次は前提知識から丁寧に説明してみたものの、「審査員は専門家だからもう少し簡略化してよいのでは」と意見をもらって…というように、発表直前まで試行錯誤を続けました。ゼミ生や先生の協力は、外務大臣賞受賞に欠かせないものだったと思います。
馬塲 私は就職活動や資格の勉強も並行して行っていたので、2人で時間を合わせて準備をするのも難しかったですね。時間を見つけながら、ほとんどの準備をオンラインで進めました。
――外務大臣賞受賞をどのように感じていますか?
馬塲 目標を達成でき、うれしかったです。実際にCBAMに関連することを担当されている外務省の方には「実現可能性と野望のバランスがすごく良かった」とお褒めの言葉をいただきました。「この内容なら外務大臣賞を取れる」と自信が持てるレベルまで内容を練ったので、そのかいがあったなと思います。
渡邉 受賞が決まった瞬間には、思わず泣きそうになりました。審査委員長の方からは、「君たちの熱意はどこにも負けていなかった。今のG7における必要性という点でも、頭一つ抜けていた」とおっしゃっていただきました。自分たちの考えた政策をただ説明するのではなく、政策の意義を強調し、相手を説得するんだという強い気持ちが伝わったのではないかと思います。
馬塲 渡邉くんとペアを組んだことで、価値観が変わったこともあります。私は一度目標を定めると、そこに向かって猪突猛進してしまうところがあるのですが、渡邉くんに「ゴールも大事だけど、それまでの過程もとても大事だよ」と言われ、過程を大事にするようになったんです。
渡邉 私は時間を忘れて過程を突き詰めてしまうタイプで、馬塲さんの目標に向かって突き進む姿はリスペクトしています。このように自分たちは全然違うタイプなのですが、同じ目標に向かって、ペアとしていい化学反応が起こせたのではないかと思います。
――今後の展望を聞かせてください。
馬塲 世界の政治・経済情勢が直接影響を及ぼす金融マーケットに興味を持ち、金融業界に就職することを考えています。今回の有言実行を達成できた経験を生かして活躍したいです。
渡邉 大学入学当初から、外交官になることを目指していましたが、最近は「包摂的な国際秩序を作ることにつながる仕事」を軸に、さまざまな進路を検討しているところです。
――最後に、早大生へメッセージをお願いします。
馬塲 私たちがゼミの環境を生かしてコンテストにチャレンジしたように、早稲田大学の環境を最大限生かして、やりたいなと思ったことは無理かもとためらうのではなく、取りあえず挑戦してみてほしいと思います。
渡邉 どんなことでも、興味のあることに主体的に挑戦するのが大事だと考えています。もし国際関係や外交に興味のある人がいれば、このコンテストは毎年開催されるはずですので、ぜひ挑戦してほしいです。ただ学ぶだけではなく、知識をアウトプットし、人にぶつけてより良いものに変えていくというプロセスを体感できるはずです。
第838回
取材・文・撮影:元早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
政治経済学部 2023年3月卒業 山本 皓大
【プロフィール】
馬塲 仁子:東京都出身。筑波大学附属高等学校卒業。G7広島サミットについては、提言で扱った環境問題を含め、さまざまな問題が山積する中で、各国が足並みをそろえる機会になればと期待を寄せる。印象に残っている授業は、「東アジアの比較政治」(政治経済学部設置科目)。中国に対して抱いていたイメージが打ち砕かれたという。海外ドラマの『SUITS/スーツ』が好きで、休日にはよく見ているそう。
渡邉 航大:東京都出身。早稲田大学高等学院卒業。今回の提言が経済的な工夫を通じて国際協調を促すものであったように、G7広島サミットでは、知恵や工夫によって日本が国家間の橋渡し役になることを期待していると話す。「国際政治学」(政治経済学部設置科目)は、国家間の紛争をモデル化したり、ビジネスの観点から国際関係を見たりと、幅広い内容を扱う授業で、印象に残っているという。趣味は野球観戦やギターの弾き語りなど。
(左から)馬塲さん、渡邉さん