
2026年5月、大学は総長候補者選挙の時期であり、あちこちで選挙に関する話題が飛び交い、普段は静かな学内にもどこか独特の緊張感が漂っていた。かく言う私も、今回の選挙では、一人の候補者の推薦人として学内を駆けずり回ることになった。その結果、これまで「少し遠くから眺めるもの」だと思っていた総長候補者選挙を、内側から間近に経験することとなった。
私は役職柄、教授会などで発言する機会が多く、選挙中にお会いした先生方からは「K先生、ご苦労さまです」と声を掛けていただいた。ところが、こちらは相手の先生のお顔を存じ上げていないことが案外多いのである。大学というのは大きな組織であり、同じ学術院にいても、「名前は知っているが会ったことはない」という関係が珍しくない。
しかし、今回の選挙活動を通じて、これまで接点のなかった先生方とも数多く知り合うことができた。大学の中には、まだ自分の知らない研究や教育の世界が広がっているのだと改めて実感すると同時に、こうした新たなつながりを得られたことは、私にとって大きな財産になったと思う。
そんな中、ある研究室を訪ねた時のことである。部屋にいらした若い方を、私はすっかり「先生」だと思い込み、候補者の考えや大学改革について、かなり熱心に語ってしまった。「なるほど、候補者はそういうお考えの方なんですね」と、とても丁寧に聞いてくださるので、こちらも気分よく話し続けていたのだが、話が一段落したところで、「あ、私は学生です」と言われたのである。
あの瞬間の気まずさは、なかなか忘れ難い。しかし同時に、こうした失敗も含めて、今回の経験は実に面白かった。大学という組織の表側だけでなく、普段は見えにくい人間関係や空気感、そしてそれぞれの先生方が大学の将来について抱えているさまざまな思いにも触れることができたからである。
総長候補者選挙は終わったが、自分としては十分に走り切ったという感覚がある。少なくとも以前より、早稲田大学という共同体を、少しだけ深く理解できた気がしている。
(K)
第1191回






