「大学での学びを糧に、俳優として自分にしかできない表現を探求していきたい」
文化構想学部 4年 sara
2021年12月、ミュージカル『GREY』のヒロインに大抜擢(てき)。続いて2022年2月には、本屋大賞「翻訳 小説部門」1位を獲得した韓国発の小説『アーモンド』の舞台にも出演するなど、演劇界で注目を浴びている文化構想学部4年のsaraさん。大学2年のときに文学座附属演劇研究所に入り、研究生として3年間の研修を積み、この春、晴れて準座員に昇格しました。一方、大学では国際日本文化論プログラム(Jculp)に在籍し、文学や戯曲について学びを深めています。そんなsaraさんに演劇を始めたきっかけや、演劇と早稲田大学への思い、今後の展望について話を聞きました。
――saraさんが演劇を始めたきっかけを教えてください。
小学5年生のときに、英語でミュージカルをする劇団に入団しました。そのときから歌うことが楽しくて楽しくて。もっと歌を極めたく、中学2年生のときに本格的に歌を習い始め、その中で自分の低くてハスキーな声を生かせる曲にもたくさん出合いました。シャンソンには人生の喜怒哀楽を表現する歌が多いことや人物の内面を表現する点が芝居に通じていることなど、その奥深さにどんどんハマっていったんです。そして、歌の技術をどれだけ磨いても、お芝居を分かっていないとさらに上には行けないのではと思うように。ちょうど高校3年生の頃、早稲田大学への進学を熱望していたこともあり、「神戸から上京したら本格的に演劇を学びたい」と考えるようになりました。
――早稲田を熱望し、また文学座にも入所した理由は何ですか?
小学生の頃、テレビで見た早稲田の角帽に憧れて、大学に行くなら早稲田! となぜか心に決めていました。そして実際にキャンパスを見学したときに、自由でいろいろなチャンスが目の前にあって、その中でどうするかはあなた次第だよ、という早稲田の姿勢に引かれました。また、英検1級を取得した高校3年生のとき、国際日本文化論プログラム(Jculp)の存在を知り、今まで日本語を使って英語を猛勉強していたけれど、今度は逆に英語で日本の舞台や演劇文化を学ぶのも面白そうだな、と思ったことも志望理由の一つです。
早稲田といえば演劇が盛んという話も聞いていたので、入学したらまず「早稲田大学演劇研究会」(以下、劇研)に入るつもりでした。でも、Jculpで必須となる留学の時期と、劇研の大事な公演の時期が重なっていたため、入会は断念したんです。
そんなとき、中高とお世話になった歌の先生から文学座を紹介していただきました。聞くと杉村春子さんや田中裕子さんなど、大好きな俳優さんたちが出身で、一気に気持ちが文学座に傾き、大学2年のときに文学座附属演劇研究所に入所。文学座の研究生と早大生、2足のわらじ生活がスタートしました。
――演劇と学業の両立はハードだったのでは?
それはもう(笑)。文学座附属演劇研究所は、最初の1年間が本科、その後研修科で2年間、演劇を学びます。本科は、月曜日から土曜日までの週6日18時~21時30分に授業があるのですが、大学の授業も多かったので、毎日目が回るようでした。『女の一生』という公演があった時は、授業が終わってすぐに稽古へ向かっていました。しかし舞台の経験がないため、うまくできないことばかりで。帰宅して落ち込みたくても、すぐに大学の課題があってそれどころではないという毎日でした。大学生の場合、履修が落ち着く3年次から文学座に入所することが多い、と後から知りました…。
――早稲田で学んだことは演劇にどのように生きているのでしょうか。
基本的なことだと、シェイクスピアや古典演劇をしっかり学んで、戯曲をきちんと読む力をつけることができましたし、文学座で稽古をしていた劇とは直接関係ない、映画理論の授業や日本文学を英語で読む授業から、ふと演技のヒントをもらうなど、文学座と早稲田での学びがリンクする瞬間を多く経験しました。
演技中に客観的な視点に立つことの重要性については、大学で文学を学んでいた時に気づきを得ました。文芸批評は客観的な視点に立って作品を読むことから始まっていますよね。演技に関しても、独りよがりにならず、自分の演技を受ける相手や舞台全体を意識して演じないといけません。自分がどう見えているかを客観的、批判的に見る視点が必要だったので、そのヒントを大学の勉強を通して得られたのは俳優としてすごく力になっています。
早稲田大学というホームグラウンドから演劇を見つめられること、早大生という自分のアイデンティティーがあるからこそ、怖がらずにがむしゃらに頑張れて、自分の中に早稲田と演劇の二つの根を張ることができているのだと思います。
――昨年は、ミュージカル『GREY』のヒロインに大抜擢(てき)されたそうですね。
完全オリジナルミュージカル『GREY』(※)では、ヒロインのshiroを演じましたが、自分にとってのターニングポイントと言えるくらい大きな経験をさせていただきました。脚本家はミュージカル界で大活躍されている板垣恭一さん。板垣さんと打ち合わせを重ね、私自身の人生観や悩みなども打ち明けながら、キャラクターを作り上げていきました。
それまではまだ自分は学生であるという気持ちもあり、演劇を学ぶ側という意識がありました。しかし『GREY』をきっかけに役者として観客に何を与えられるのかを考え、主体的に演劇を作り上げることを一層強く意識するようになりました。また、大役を任せていただいたからこそ、観客からの反響も大きく感じました。たくさんのフィードバックをいただき、これからプロとして演劇をする覚悟が芽生えたように思います。『GREY』で得た気づきを糧にして、2月には同じく板垣さんの脚本で『アーモンド』(※)という舞台にも臨みました。これからも、このような良い循環で成長を重ねながらお芝居ができたらと思っています。
(※)『GREY』と『アーモンド』には本名の佐藤彩香名義で出演
――最後に将来の目標について教えてください。
2021年後半は『GREY』と『アーモンド』に全力投球したので、卒業を半年遅らせました。なので、まずはきちんと大学を卒業したいです。
将来的には、シャンソンやミュージカルといった、これまで磨いてきた表現方法である歌を生かせる演劇作品に挑戦したいです。お芝居をやりたい、舞台に立ちたいという気持ちが自分の中に軸としてあるので、それを大切にしていきたいなと思っています。そのときの自分に合う作品と出合って、変わっていく自分を楽しんでいけたら。自分にしかできない表現を追求し続けて、この役はsaraにしかできない、と思われるような俳優になるのが当面の目標ですね。
第816回
取材・文:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
文化構想学部 2年 田邊 紗彩
撮影:布川 航太
【プロフィール】
兵庫県出身。文学座準座員。趣味は読書と料理で、得意料理はパスタ。マリモを飼っている。キャンパスで好きな場所は中央図書館。1年次には1人で毎日のように通って本の虫になっていた。お勧めの授業は「マスターズ・オブ・シネマ」(GEC設置科目)。映画や演劇の第一線で活躍されている方々の話を聞ける点が魅力だと話す。