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オリィ吉藤健太朗 分身ロボット開発のヒントは早稲田にあり

2021年度入学記念号

人に会って話すことを大切に、好きなことをやり遂げよう

株式会社オリィ研究所 共同創設者・代表取締役/ロボットコミュニケーター
吉藤 健太朗(よしふじ・けんたろう)

分身ロボットの遠隔操作を通して「人類の孤独を解消する」ことをミッションに掲げる株式会社オリィ研究所。その代表であるロボットコミュニケーター・吉藤オリィこと吉藤健太朗さんが、同社の母体となる「オリィ研究室」を立ち上げたのは早稲田大学在学中のことだった。

筋肉が少しずつ動かなくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの難病患者でも社会と接点を持ち、遠隔でも働けるように手助けする「分身ロボット」への期待、そして開発者である吉藤さんへの注目度は、コロナ禍の影響もあって日増しに高まっている。そんな吉藤さんのものづくりの原点や大学時代の学びについて話を聞くと、コミュニケーションに悩み、乗り越えようと苦心した姿が浮かび上がった。

※インタビューはオンラインで行いました。

大学入学のきっかけは、ある老婦人からの言葉

人工知能ロボットが話題となる中、あえて“人が遠隔操作で動かす分身ロボット”「OriHime(オリヒメ)」の開発にこだわる吉藤さん。そのものづくり志向の原点には、少年時代に不登校で悩んだ自身の過去、そしてその期間に夢中になった「折り紙」の存在があった。

折り紙で作成した花束。19歳のころ作ったという

「私は小学5年から中学2年までの約3年間、不登校でした。そんな私の孤独を埋めてくれたのが大好きな創作折り紙で、そこからプログラミングやロボット創作にも興味が広がっていきました。余談ですが、早稲田の同期入学に『ハンカチ王子』として話題になった斎藤佑樹投手(2011年 教育学部卒、北海道日本ハムファイターズ)がいまして、そこから折り紙が特技だった私も『折り紙王子』と呼ばれるようになり、『折り紙君』を経て『オリィ』と呼び名が変わっていったんです(笑)」

不登校を乗り越えて入学した工業高校では、電動車椅子の新機構発明に関わり、2004年に高校生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞を受賞。折しも早稲田ではJSEC入賞者を対象とした AO入試が始まった時期だった。

「JSECの審査員だった橋本周司先生(前副総長、理工学術院名誉教授)が『早稲田に来ないか』と声を掛けてくださいました。もともとは町工場の職人になるつもりで大学受験なんて考えたこともなく、恥ずかしながら『早稲田』をどう読むのかも知りませんでしたが、調べてみると二足歩行ロボットで有名だということが分かりました。高校卒業後、工業高等専門学校(高専)で人工知能(AI)を学んでいたものの、自分が作りたいのはAIではなくコミュニケーション福祉機器ではないか、と思い始めていたこともあって進路変更を決めました」

高校生科学技術チャレンジ(JSEC)の祝賀会での1枚。左が吉藤さん、右が橋本周司名誉教授

その決断の背景には、高校時代に発明した電動車椅子に対する、ある反応も影響していた。

「あるおばあさんから『吉藤さんが作った車椅子はとても素晴らしい。でも、そんな高性能なものよりも、手軽に使えるローラー付きの座布団が欲しいわ』と言われたことがあり、とてもショックでした。結局私は、現場を全く見ていなかったんです。現場を見なくても論文は書けるし、技術的な追求はいくらでもできます。でも、それでは誰の人生も変えられないことが分かったんです」

この老婦人の言葉をきっかけにさまざまな高齢者、車椅子利用者の話に耳を傾けるようになると、多くの人が「孤独感」を抱えていることに気付いたという。

「不登校に悩んでいたときの自分と一緒でした。ならば、私は大学で現場のことも学びながら、人の生活を変えられるようなデバイスを作って世の中に広めたい。そのためには必要なことにどんどん挑戦していこうと思って、早稲田の門をくぐりました」

高専時代に開発した「電動車いすWander」に座る吉藤さん。今でも車椅子の開発に取り組み続けている

“人と人をつなぐ”ための「オリィ研究室」とパントマイム

早稲田入学後の2年間は人生で最も苦労した時期、と振り返る吉藤さん。その中身は、自らの研究の場を立ち上げる準備と、コミュニケーション能力を養うための修行だった。

大学時代、自らの研究室で研究に没頭した(左が吉藤さん)

「不登校児だったくらいですから、もともとは人と話すことも苦手なタイプです。そんな私だからこそ、人と人をつなぐ福祉機器を作りたい。そんなことに取り組める研究室はどこだろう? と入学後、さまざまな教授の話を聞きに行きました。でも、なかなか自分の思い描いていた研究室が見つからず、なければ自分で作るしかないと、3年生になる際に『オリィ研究室』を立ち上げました。当然、卒業はできませんでしたが、この研究室がのちに会社となって、今の『オリィ研究所』になったんです」

また、大学生活では“人と人をつなぐ”ためのトレーニングとして新歓イベントにも参加し、さまざまなサークルに顔を出してみたという。

「とにかく社交性を磨こうと、社交ダンスのサークルに入ったこともありました(笑)。新歓ってコミュ力のない人間にとって苦手な場ではあるんですけど、1年生の市場価値は高い。だから、こちらからのバッドコミュニケーションは成り立ちにくい分、楽なんですよね。トライ&エラーを繰り返せたのはいい経験でした」

そんな中でも、得るものが多かったのがパントマイムサークル「舞☆夢☆踏(マイムトウ)」(公認サークル)での活動だった。

「理系の人間って例えば、ある物体を移動させる動きに対して、そのための運動学を計算したり、制御したりするのは得意ですが、『移動する意味とは何か』という発想になかなかならない。でも、その意味を見いださなければ、自分の求めるロボット制御はできないと思ったんです。その点で、存在しない壁をあるように見せる、といったパントマイムの動きや考え方を学べたのは大正解でした。他にも、演劇サークルに入って人前で話す練習を積んだことも、今とても役に立っていますね」

在学中、西早稲田キャンパスで折り紙イベントを開催(階段上の右が吉藤さん)。トレードマークの「黒い白衣」は、18歳の頃から着ているそう

早稲田は私にチャンスと出会いをくれた

こうした準備を重ね、自らの研究の場を立ち上げた吉藤さんだったが、「OriHime」誕生までにはさらなる苦労が続いた。

「正規の研究室に所属していないため、研究費もなければ教えてくれる人もいない。さらに、旋盤のような専用工具が使えないのは痛かったですね。そこで、旋盤を所有するサークルに出入りして使わせてもらったり、当時はやっていたmixiというSNSで、近くに住んでいるクリエイターを見つけて造形のやり方を教えていただいたり。苦労は絶えませんでしたが、その分、血肉になったと感じています」

そんな苦労の末に誕生した「OriHime」を世に出す上で、早稲田大学の環境は大いに助けになったと吉藤さんは振り返る。その一つが2010年に立ち上がった「WASEDAものづくり工房」の存在だった。

OriHime制作の様子

「『OriHime』の効果を実証するために、実際の入院患者に使ってもらい、自宅にいる家族と遠隔でコミュニケーションをとることで孤独が解消できるのか? という仮説検証をする必要がありました。ただ、学生の私には何のつてもコネもなく、途方に暮れていたところ、ものづくり工房のコンテストで優勝したことがきっかけとなって、ある教授が病院を紹介してくれたんです。ありがたいことに、研究室に所属していない私に興味を持って、サポートしてくれる先生方はたくさんいらっしゃいましたね」

こうして入院する子どもに「OriHime」のテスト運用をしてもらうと、当初は1週間の利用予定が「もっと使いたい」と退院まで使ってくれることになったのだ。

「延長希望を聞いたときは、人生で一番うれしかった瞬間かもしれません。その後も、早稲田大学発ロボットとして、OriHime1号機を2011年の国際ロボット展で早稲田ブースの最前列に置かせてもらいました。私にチャンスと出会いをくれた早稲田には感謝しています」

忙しい合間を縫って、一歩踏み出すことを恐れている人に向けてTwitter上で励ます吉藤さん。ライフワークとなっているという

自らの目的意識の高さと努力、そして周囲のサポートも生かすことで入学時に立てた目標を実現させた吉藤さん。その立場から、これから目標に向かって進もうとする学生に向けて伝えたいことは何だろうか?

「何かを実現させていく上で大事なことは、やっぱり『人と会うこと』と『話すこと』です。勉強だけなら家でもできるし、ものづくりだってできる。でも、人と会うことで見えてくるものって、ものすごく多いんです。コロナ禍の今、人と対面で会うことは難しい部分もありますが、別にSNSだっていいんです。そういった場にも早稲田の学生は大勢いるし、卒業生も必ずいます。人と接点を持つことを諦めず、ぜひ『早稲田の後輩なんですけど話を聞かせてください』と飛び込んでみてください。結果的に中退することになった私にもこうして声を掛けてくれる大学ですから(笑)、後輩にはもっと優しい先輩たちばかりのはずですよ」

写真提供:オリィ研究所

取材・文=オグマナオト(2002年、第二文学部卒)

【プロフィール】

2019年10月に期間限定で開店した分身ロボットカフェの様子

奈良県出身。早稲田大学創造理工学部出身。高校時代に電動車椅子の新機構の発明に関わり、2004年の科学技術フェア高校生科学チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞を受賞。翌2005年に世界最大の科学大会・インテル国際学生科学技術フェア(ISEF)でグランドアワード3位に。自身の不登校の体験をもとに、対孤独用分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発した。この功績から2012年に青年版国民栄誉賞である「人間力大賞(現TOYP大賞)」を受賞。2016年、雑誌『Forbes』が選ぶ「アジアを代表する30歳未満の30人」に選出、2018年よりデジタルハリウッド大学大学院特任教授。自宅から分身ロボットを操作し、重度障がい者らが接客スタッフとなる「分身ロボットカフェ」を今年6月、中央区日本橋エリアに開店予定。
Twitter:@origamicat
Webサイト:オリィ研究所

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日はほぼ毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

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