Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早大・駅伝元エースが語る「現役時代に足りなかったこと」 志方×相原

陸上実業団の強豪・旭化成を辞めて農家に転身した、元早稲田大学競走部の箱根駅伝ランナー・志方文典さん(2014年スポーツ科学部卒)と、市民ランナーとして今も走ることを楽しんでいる同期の相原将仁さん(2014年教育学部卒)。長野県南牧村で農業を営む志方さんの自宅で行われた対談の後編では、二人の同期である大迫傑選手の東京オリンピックマラソン代表の行方と、箱根駅伝2020の展望、そして自らの経験を含めた現役箱根ランナーへのエールを語ってもらいました。

マラソン3人目の代表は大迫か? 設楽悠か?

MGCで2位となった服部選手を追う大迫選手(共同通信)

東京オリンピックのマラソン代表を選ぶ2019年9月のMGC(※マラソングランドチャンピオンシップ)は盛り上がりましたね。同期の大迫傑選手(2014年スポーツ科学部卒)は、オリンピック代表内定まであと一歩の3位でした。お二人はご覧になっていましたか?

志方
僕は見てません。大根の収穫で忙しかったので(笑)。ただ、情報は逐一仕入れていました。
相原
僕は妻と子どもを連れて応援しに行きました。選手が2回通るポイントで、「大迫、行けー!」って声を出して。近くに大迫の家族もいましたし、たぶん気付いてくれたと思います(笑)。

志方さん(左)と語り合う相原さん

大迫選手をはじめ、レースを盛り上げたのは、みんな箱根駅伝を走った同世代のランナーですね。1位の中村匠吾選手(駒澤大卒)は一学年下、2位の服部勇馬選手(東洋大卒)は二学年下、前半で飛び出した設楽悠太選手(東洋大卒)は同学年ですね。レースの結果はどんなふうに捉えていますか?

相原
ここ数年、マラソンのタイムが上がっていますよね。それは東京オリンピックがあるからでしょうし、設楽悠選手や大迫の日本記録が起爆剤になっているところもあるのかなと。もともとトラックをやっていた人もマラソンに挑戦していますし。

トップの中村選手は、あまりプレッシャーのない中で勝負に挑めたのかなと思います。レース前の予想では、大迫・設楽・服部の3選手と井上大仁選手(山梨学院大卒)とで4強と言われていましたから。

MGCで優勝のテープを切る中村選手(共同通信)

志方
中村選手は、MGCで勝ったことを自信にして、「日本人で一番強いんだ」という気持ちで臨めれば、オリンピック本番でも十分走れるんじゃないかと思います。もともと高校のころから強かった選手ですし、駒澤大学の選手として三大駅伝(※)で区間賞を4回も取っていますし、3年生のときは全日本駅伝で設楽悠選手、箱根駅伝では大迫にも勝っています。能力は十分なので、あとはどれだけ強い気持ちを持てるかどうかでしょうね。

服部選手は、2018年の福岡国際マラソンで外国人選手もいる中で優勝しているのがすごいですね。今回のMGCでも大迫に勝ってますし。そういう経験が自信になっているでしょうし、本番でも十分戦えると思います。

※)出雲駅伝(出雲全日本大学選抜駅伝競走)、全日本駅伝(全日本大学駅伝対校選手権大会)、箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)の三つ。

MGCファイナルチャレンジの残り2レース(2020年3月1日:東京マラソン、同月8日:びわ湖毎日マラソン)で、このまま大迫選手の持ちタイム(日本記録2時間05分50秒)を超える選手が出なければ、3位に入った大迫選手が代表に内定します。お二人はどう感じましたか。

MGCでは不本意な3位でのゴールとなった大迫選手(共同通信)

志方
まず、「2位までに入っとけよ」って思いましたね(笑)。あとでニュースも見ましたが、後半になって身体が跳ねてブレていました。状態が良くなかったのかなという気はします。

それでも最低ラインの3位に入ったのはやっぱりさすがですね。状態が悪い中でも最低限の結果を出したという印象です。

大迫選手の性格を考えると、残りのレースに出場すると思いますか?

志方
予想はちょっと難しいですね。
相原
設楽悠選手次第だと思うけど、どうだろうね? このままだとオリンピックに出られないから、東京マラソンは出るんだろうなあ。一番タイムを出しやすいもんね。
志方
大迫の日本記録(2時間5分50秒)を切らないといけないんだよね…。このルールがなんか嫌らしいよね。
相原
単純にMGCの上位3人が代表になるということでない、3人目の決め方がね。
志方
レース後のインタビューで、大迫は「コーチと話し合って決めます」って言ってましたよね。信頼関係ができているんだなと。それが印象的でした。走るとダメージが残るので回避するのか、それとも確実に出場権を取るためにレースに出るのかどうか。

僕としては出てもいいと思いますけど。あとは天候次第ですね。雨ならタイムは出ないので回避という選択もあります。
相原
今年(2019年3月)の東京マラソンは雨で寒くて大迫もリタイアしたしね。あんなに寒くなったらタイムは出ないし、走らない方がいい。雨だと靴も滑るからね。
志方
そうだよね。夏の雨は涼しくなるからいいけど、3月初めは冬みたいなもんだから。タイムが出そうないい天候だったら出場して、レース展開を見ながら、設楽悠選手も含めてタイムが出ないと思えば途中棄権する、というのもありでしょうね。周りからはいろいろ言われるでしょうが…。

お二人から見て、大迫選手と設楽悠選手はどちらに力があると思われますか?

志方
大迫です。
相原
同感ですね。
志方
国際経験が大迫の方が上だと思います。日本記録を出したのもシカゴマラソン(2018年10月)ですし、普段の練習もアメリカを拠点にしているのも大きいと思います。
相原
シカゴでの大迫の日本記録は、駆け引きしながら出した印象です。勝負強さという意味でも大迫だと思います。

MGCの序盤で飛ばす設楽悠選手(右)。14位に沈んだ(共同通信)

大学のころから大迫選手の方が強かったんでしょうか?

志方
大学のころは大迫の方がもっと抜きんでていたかなと。今になって設楽悠選手が大迫に近づいてきた印象です。
相原
マラソンは設楽悠選手の方が先に始めていて、マラソンでの経験は設楽悠選手の方が上かもしれませんが、スピードは大迫の方がもともとあります。マラソンでも大迫が力を出すようになったという気がします。

大迫選手との印象的なエピソードがあれば教えてください。

志方
普段から「勝負」を強く意識していますね。陸上と関係ない話をしていても、僕が話したことを全部否定してくるんですよ(笑)。「それは違う」って。半分、諦めて話してました(笑)。「常に一番でありたい」という気持ちがものすごく強い印象です。

負けず嫌いなんですね。

志方
寮の食堂で夕食を食べるときも、ほぼ毎日、一番に食堂にいて、一番早く食べ終わる(笑)。日頃から「一番」にこだわっていたなと。

箱根2020は「戦国時代」 早稲田にも優勝のチャンスはある

箱根駅伝2019のスタートシーン(共同通信)

今年度の大学駅伝についてもお聞かせください。今年は「戦国時代」とも言われていますが、各校の戦力や早稲田の勝機など、どのように考えていますか?

志方
出雲(10月14日)で勝ったのは國學院大、全日本(11月3日)で勝ったのが東海大でしたよね。青学大がなかなか勝てなくなってきたという意味で「戦国時代」かなと思います。

そんな中でも東海大は、選手を集めているので一つ頭が飛び抜けている印象です。スピード重視のチームだと思っていましたが、距離とのバランスも求められる全日本でも勝ちました。前回の箱根で初優勝も飾っていますし(2019年1月)、東海大が最有力かなと。
相原
僕も実力的には東海大が飛び抜けていると思います。でも箱根で10人の勝負となれば、早稲田にもチャンスはあると思います。山でも何が起こるか分かりません。けがをせず練習してほしいですね。予選会(10月26日)には応援しにいったのですが、9位というギリギリの結果でハラハラしました…。それを思えば、その後の全日本は6位でうまくまとめてきたなと思います。
志方
11月23日の記録会(※10000メートル記録挑戦競技会)も、まあまあ良かったんだよね?
相原
新迫志希(スポーツ科学部4年)、宍倉健浩(同3年)、太田直希(同2年)、鈴木創士(同1年)の4選手が自己ベストを出していた。まあまあだね。

箱根駅伝2019を走る新迫選手(左)と太田直選手

志方
…ということなので、自分たちの持てる力を100%出すことを考えればチャンスはあるかなと。120%で走ろう、とか欲を出さずに。

例えば2006年の箱根駅伝で亜細亜大学が優勝したときは、前評判は良くなかったのですが、有力校がみんな力を出せずに転がり込んだ優勝でした。コツコツ走っていたら一番になったと。そういうこともあるので、自分の走りに集中してほしいですね。
相原
あと1カ月、いい練習をしてほしいですね。
志方
監督が相楽さん(相楽豊)に代わって今年で5年目ですよね。僕らのころは箱根でシードをとるのは当たり前で、予選会に出るなんて考えもしませんでしたが、前回の箱根は中途半端な順位ではなく12位でシード落ち。それがチーム全体の意識を変えるという意味では良い方向に働いているのかなという気がします。

早稲田で注目、あるいは期待の選手を教えてください。

相原
僕は2年生エースの中谷雄飛君ですね。復調してきているようなので、チームを引っ張っていってほしいですね。あとは、早稲田実業の後輩の宍倉健浩君(3年)と三上多聞君(4年)の二人に頑張ってほしい。宍倉君は記録会で自己ベストを出していましたし、二人ともメンバーに入る力は十分にあるかと。

宍倉選手(左)と三上選手=撮影:高橋榮

何年生に力のある選手が集まっているとかはあるのでしょうか?

相原
1・2・3年にかなり力のある選手がいます。4年生はちょっと少ないかなという印象ですが、箱根はやっぱり4年生の力が重要です。練習してきた分の力があるので。
志方
4年生が走らないとダメだよね。僕らの代で走ったのは大迫だけだったから。
相原
箱根ではチームを引っ張るには4年生の力が必要なので。チームをまとめていく力も大きいですね。

志方さんの注目選手は?

箱根駅伝2019で1区を走る中谷選手。1年生ながら区間4位と好走した

志方
僕もエースの中谷君には注目しています。中谷君には、僕が持っていた高校駅伝の3区の記録を抜かれましたし(笑)。中谷君が高2のときに塗り替えたんですね。高校駅伝3区の日本人記録って、僕の出身校の西脇工業と、中谷君の出身校の佐久長聖の2校で奪い合いをしているんです。

僕の前は佐久長聖の村澤選手(明伸・東海大卒)が西脇工業の先輩の記録を塗り替えました。それを僕が塗り替えたと思っていたら、中谷君にまた抜かれて。前回の箱根でも1区で区間4位といい走りをしていたので、頑張ってほしいですね。

楽しみですね。

志方
4年生の新迫君(新迫志希)にも期待しています。世羅高校出身で、高校のころ強かったんですよ。大学で伸び悩んでいたのですが、記録会では10000メートルを28分台で走っていました。4年生ですし、高校時代は強くて大学で苦しんだっていう境遇が自分と重なりますし、ぜひいい走りをしてほしいなと。

大切なことは、自分の芯をしっかりと持つこと

「伸び悩む」とか「ぐっと伸びる」とか、ランナーにとっての「伸びる」「伸びない」というのは何が関係してくるのでしょうか?

志方
それが、特に「伸びる」がよく分からないんですよね。
相原
それが分かっていたらみんな苦労しない…(笑)。
志方
一つはけがをしない、ということだと思います。早稲田の先輩、瀬古利彦さんの話がまさにそうですが、けがをしたくないから練習を減らすのではなく、普段からけがをしない体を作るということ。筋トレやジョギングの量を増やすとか。

もちろん、足が痛いという場合には練習は避けた方がいいです。僕は痛いのを我慢しながら走って大きな故障につながったので。ちょっと痛いと感じたらやめる。それでいいと思います。普段からけがをしない体作りができていれば、やってきた練習がつながって速く走れるようになるはずです。才能によるところも大きいですけどね。

急に速くなることってあるんですか?

志方
ありますよ。設楽悠選手も高校時代はそんなに強かった印象はありません。じゃあ何で速くなるんでしょうね(笑)。あるとすれば、体のブレがなくなるとかですね。
相原
うまく体が使えるっていうね。
志方
速い選手は、体の使い方に無駄がないんですよね。左右にブレずに走っている。そういう感覚がつかめると速く走れるんだと思います。

志方さん、いいコーチになりそうですね。苦しんだ経験もされていますし。

志方
今後、自分が指導者になるかは分かりませんが、日本の陸上界にも改善点はあると思います。強かった選手がそのまま指導者になる場合が多く、走れない選手の気持ちが分かってもらえず、選手とコーチでコミュニケーションが取れなくなることがあるんです。

しかし、サッカーにしてもラグビーにしても、他の競技では外国人の監督が当たり前ですよね。海外の指導者はコーチング手法や選手とのコミュニケーションをものすごく大事にしています。

選手時代に苦しんだ人だからこそ、分かる気持ちもあるはずだろうと。強かった人には強い人だからこそ分かる気持ちもあるとは思いますが…。日本の陸上界も国外から指導者を呼んで、世界レベルのコーチングやコミュニケーションを導入した方がいいだろうと思っています。

監督やコーチとの信頼関係は重要ですよね。

志方
そういう意味でも、MGCのあとで大迫がその後のレースについて、「コーチと話し合って決めます」と言っていたことが、やはり素直にうらやましいですね。コーチを信頼していて話し合える関係を築けているということですから。

まさに選手時代に苦労をされたお二人から、今の現役選手にメッセージをお願いします。

志方
一番大切なのは、自分の芯をしっかりと持つことだろうと思います。自分が「こうなりたい」と思う姿にどれだけ近づけるか、そのために毎日努力し続けられるか。レベルは違えど、みんなに目標はあるはずです。5キロ15分台で走っている選手なら、14分台が目標になるでしょうし、そのためには何をすればいいのか。自分がどうしたいのか。人に流されるのではなく自分ができること、するべきことを考えてほしいですね。

一つ目標をクリアすれば、もう一段高い目標ができます。それを積み重ねていって、選手としても人としても成長していってほしいと思います。自分の現役時代に足りなかったことなので、なおさら強くそう思います。
相原
僕も同じで、目標をしっかり持ってやっていくことが大切です。早稲田には強い選手がいるので、力の足りない選手は、そういう選手たちから学べることが本当に多い。盗めるところは盗んで、自分の目標に向かって一歩一歩進んでいく。特に下級生のうちは結果が出なくて苦しいことがあるかもしれませんが、積み上げたからこそ実ることもあります。地道に練習に取り組んでいってほしいと思います。

最後に、お二人が早稲田で過ごした4年間で得たものを聞かせてください。

相原
やはり箱根駅伝を走ったことが一番の経験・思い出ですね。卒業後は競技としては続けていくことができないレベルではありましたが、こつこつと続けることの大切さを学んだ4年間だったと思います。
志方
僕は…。そうですね…。4年間ずっと苦しかったですね。日常がずっと。最初は走れていたのに、走れなくなったことが恥ずかしくて。競技人生という意味では「もし別の大学に行っていたら」と、考えることもあります。しかし、早稲田大学に入ったからこそ妻(2016年スポーツ科学部卒。元スキー部選手)との出会いがあって、結婚もして、こうして今、農業をすることができています。

11月の収穫が終わり、3月までは手が空いている状態です。農業修行のために、他の農家を手伝わせてもらおうと思っています。しかし、子どものころから十数年、積み重ねてきた「走ること」は無駄にはしたくない。大学で苦しかったことも貴重な経験と考えて、今後の人生の糧にしていきたいですね。

志方さん夫妻(左)と相原さんご家族

プロフィール

志方 文典(しかた・ふみのり)

2007年4月―2010年3月 兵庫・西脇工業高校
※3年時の全国高校駅伝3区で日本人最高タイムを記録。7年後に長野・佐久長聖高校の2年生・中谷雄飛選手(現・早大競走部)に破られた。
2010年4月―2014年3月 早稲田大学競走部
※2010年7 月  世界ジュニア陸上10000m出場(9位)
2014年4月―2016年3月 旭化成陸上部(※2019年3月まで同社社員)
自己ベスト:5000メートル14分04秒77、10000メートル28分38秒46、ハーフマラソン1時間03分20秒

相原 将仁(あいはら・まさひと)

2007年4月―2010年3月 東京・早稲田実業高校
2010年4月―2014年3月 早稲田大学競走部
自己ベスト:5000メートル14分20秒12、10000メートル29分56秒40

取材・文:萱原 正嗣

フリーランスのライター・編集者。IT企業での勤務を経て、コンテンツ制作の世界に。自然科学・理工系の制作物を中心に、人物ルポなども幅広く掛ける。理系ライター集団「チーム・パスカル」所属。
撮影:石垣 星児
編集:早稲田ウィークリー編集室
デザイン:中屋 辰平、PRMO
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