Waseda Weekly早稲田ウィークリー

特集

早稲田の起業家教育とスタートアップ支援 「いいとこ取り」で開ける未来

アントレプレナーシップセンター WASEDA Startup Lounge(早稲田キャンパス 19‐3号館)にて。(左から)川路さん、武藤さん、吉田さん

近年、スタートアップ企業の躍進が注目を集め、大学在籍中から起業する人の数も増加しています。そんな中で、自らも挑戦してみたいと関心を持っている学生もいるはず。しかし、起業は特定の学部に偏る領域ではないため、どこでどう学べばいいのか疑問に思うことがあるかもしれません。そこで今回、スタートアップ支援を行うアントレプレナーシップセンターの取り組みと、実際に利用している学生や校友(卒業生)の事例を紹介。起業への第一歩を踏み出してみましょう。

INDEX
▼【職員の声】アントレプレナーシップセンターはこんなところ
「起業は社会貢献を実現するため
の一つの方法」
▼【学生の声①】~起業に興味のある1年生~
「起業のハードルはそこまで高くないと感じることができたのが収穫」

▼【学生の声②】~起業目前の3年生~
「サポートが手厚く、熱心な応援に勇気づけられる」

▼【校友の声】~支援を受け起業、経営する校友~
「早稲田での縁で未来を開く」

【職員の声】アントレプレナーシップセンターはこんなところ

起業は社会貢献を実現するための一つの方法

アントレプレナーシップセンター担当職員
武藤 恵美(むとう・えみ)
――はじめに、アントレプレナーシップセンターの概要を教えてください。

アントレプレナーシップセンターは、起業をしたいと考えている学生や教職員、校友(卒業生)の方々に対して支援を行っています。大学には、教育と研究という大きな二つの役割があります。近年はそれに加えて、学んだ知識や研究の成果を通じて社会に貢献することが重要視されるようになりました。その社会貢献を実現するための一つの方法として起業があり、その創出支援を行っています

多くの人々の役に立つサービスを提供した結果、高い収益を上げることはあるかもしれませんが、本学が重要視しているのはビジネスとしての成功ではなく、大学の学びや研究を社会に役立てることです。それを実現する手段の一つが起業であり、起業自体を目的にしてほしくないと考えています。多くの人は、既存の企業や自治体などに就職することで、自己実現や社会貢献をすることができるでしょう。でも、どうしても今の世の中に存在しない、起業することでしか実現できない目標を持っている人もいるはず。そうした方々を支援することが私たちの役割だと思っています。

――アントレプレナーシップセンターが実施している具体的な起業支援の内容について教えてください。

起業に関する教育から、実際に起業を考えている人のお手伝いや起業後の支援まで、体系的にサポートしています。

教育については、起業家精神を知るものから、より実践的な学びを得られるものまでさまざま。特に2017年度からグローバルエデュケーションセンター(以下、GEC)で提供している「ビジネス・クリエーションコース」では約30科目を開講し、学部・研究科を問わず必要に応じて履修することができます。

アウトプットの場としては、2023年で26回目となる大学主催として日本で最も歴史ある「早稲田大学ビジネスプランコンテスト(産業経営研究所主催)」や、WASEDA-EDGE人材育成プログラム(以下、EDGEプログラム)としては例年2月に開催している「WASEDA-EDGE Demo Day」という、アイデアやプロジェクトを発表できる場もあります。

実際に起業するとなった場合は、アントレプレナーシップセンターの会員(要入会審査)になれば、経営コンサルタントなどのビジネスの専門家の支援を受けながら、会社の立ち上げに向けた第一歩を踏み出すことができます。また、事業化の可能性が高い起業前のビジネスアイデアには、「WASEDA-EDGE ギャップファンドプロジェクト」、理工系を対象とした研究成果の事業化には「Waseda PoC Fund」という資金支援のプログラムもあります。早稲田大学の提携ベンチャーキャピタル2社に加え、2022年に新設された早稲田大学ベンチャーズを通じた出資の相談も可能になりました。これほどきめ細かく、多様な支援メニューを用意している大学はなかなかないと思いますね。

早稲田大学のスタートアップの体系的支援:起業家教育は2014年からEDGEプログラムとして提供。起業家の卵を生み出す教育から、大きく羽ばたく出口戦略を見据えた企業の成長段階に応じた企業活動支援まで、一気通貫の体系的支援を提供している。

――学生はこの施設をどのように利用できるのでしょうか?

現在のアントレプレナーシップセンター は大きく三つのエリアに分かれています。一つは起業に関心のある早大生であれば誰もが利用できるフリースペース、続いて、企業をスタートさせた会員(有料)のみが利用できるコワーキングスペース「Waseda Startup Lounge」、最後にメンバーが増えた企業に貸し出している個室の専用スペースです。起業に興味のある学生はまず、情報収集の場としてフリースペースを気軽に利用してみてください。すぐ隣で熱心に事業に取り組む先輩起業家たちの姿を見れば、きっといい刺激になると思いますよ。

早大生であれば誰でも使用できるアントレプレナーシップセンターのフリースペース。同センターに入ってすぐ右手のエリアにあり、起業支援に関する案内や関連書籍なども置いてある

――最後に、起業に関心を持っている学生に向けてメッセージをお願いします。

アントレプレナーシップセンターでは企業活動のステージに応じた多くの支援を展開していますが、それらを一から順に利用する必要はありません。最近では東京大学、東京工業大学とともにGTIE(Greater Tokyo Innovation Ecosystem)というプラットフォームを形成し、東京エリアの大学、自治体、民間企業が連携して、大学からのスタートアップ創出に取り組んでいます。大学内に限らず、学外にも起業に役立つプログラムやサポート体制が整備されていますので、それらの中から自分に合った支援を見つけ、「いいとこ取り」するイメージで活用してもらって構いません。

起業したいけれど何から始めればいいのか分からないという方は、ぜひ一度アントレプレナーシップセンターを訪れてみてください。大学が提供する起業支援の最大のメリットは、同じような志を持つ学生と交流できるところだと思います。学年や学部の枠を越えて、早稲田大学から社会を変えるようなビジネスが動き出すことを期待しています! 失敗を恐れず、まず第一歩を踏み出しましょう。

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【学生の声①】~起業に興味のある1年生~

起業のハードルはそこまで高くないと感じることができたのが収穫

文学部 1年 川路 航平(かわじ・こうへい)
――アントレプレナーシップセンターを知ったきっかけを教えてください。

高校生の頃から経営分野に関心があり、「学生のうちに起業したい!」という思いがありました。そのため商学部を目指していたのですが、受験で落ちてしまい文学部に入学することに。起業に関する知識をどのように身に付ければいいのか分からずいろいろと調べていたところ、アントレプレナーシップセンターの存在を知り、まずはビジネス・クリエーションコース「ビジネスモデル仮説検証(エッセンシャル)」を受講することにしました。

――実際に受講した感想を教えてください。

想像していたよりも学びが体系化されていて、起業のハードルはそこまで高くないと感じることができたのが収穫でした。この授業は、アイデアを生み出すところから損益分岐点を超えるまで、つまり事業を軌道に乗せるまでの方法論を学んでいく講座となっています。ユーザーのニーズに応えるサービスを提供していくための思考法である「デザイン思考」や、ビジネスの構造をフレームワーク化して、どのようにビジネスモデルを構築していくのかを可視化する「ビジネスモデルキャンバス」などを学びました。

受講する前は、類まれな経営手腕や新規性のあるアイデアを生み出すセンスなど、個人の力量が起業の成功を左右するのではないかと考えていました。しかし、ビジネスには成功の可能性を高める確立された理論があり、そこに自分を合わせていくという方法があることを知りました。もちろん、それだけでうまくいくとは考えていませんが、視野が広がったように感じています。

――今後の展望を教えてください。

まずは、2024年2月に開催される「WASEDA‐EDGE Demo Day」に参加することが直近の目標です。プレゼンテーションを行ったり、審査員の方からフィードバックをもらったりすることで、自分のアイデアがどの程度通用するのかを試したいと考えています。具体的には、私の地元である鹿児島県南九州市では過疎化が進んでいますが、この課題を解決するためのビジネスアイデアを模索しています。

――最後に、起業に関心のある学生にメッセージお願いします。

起業に関心があるのであれば、何か一つ、授業を受けてみると良いと思います。特にビジネス・クリエーションコース科目の「起業家養成講座Ⅱ」という、オムニバス形式で起業家の方から実際に話を聞くことができる講座はお勧めです。起業を考えると、自ずと自分のキャリア形成を意識するはず。その過程で悩みながら考え抜く経験や、プレゼンテーションのスキルの上達などは、結果的に起業せずとも後々就職活動や社会人になってからも役に立つと思っています。

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【学生の声②】~起業目前の3年生~

サポートが手厚く、熱心な応援に勇気づけられる

基幹理工学部 3年 吉田 志織(よしだ・しおり)
――これまで、どのように早稲田大学のスタートアップ支援を受けてきたのでしょうか。

元々ビジネスに関心があったので、大学1年生の頃から学外の起業支援に関するプログラムにいくつか参加してきましたが、学内でビジネス・クリエーションコースの授業を履修したのは2年生の秋学期からです。その学期の終了後、2023年2月には「WASEDA‐EDGE Demo Day」に挑戦し、現在留学している現地の学生とこれから留学する学生がつながることのできるマッチングサービスを発表し、審査員特別賞を授賞しました。そのときのメンターで、アントレプレナーシップセンター副所長である島岡未来子先生(リサーチイノベーションセンター教授)から、本格的に起業を考えるのであればアントレプレナーシップセンターを利用するのがいいと声を掛けていただいたんです。その後、2023年10月の「WASEDA-EDGE ギャップファンドプロジェクト」では、海外留学のために必要な情報やサービスのプラットフォーム事業「Linknit」を提案し、1位になり資金提供を受けることになるなど、さらに接点が増えてきているところです。

――アントレプレナーシップセンターの魅力はどこにあると感じますか?

教職員の方々のサポートが手厚いところです。皆さん熱心に応援してくれるので、非常に勇気づけられます。起業については独学で勉強してきたことも多いため、自分の方向性が正しいのか分からなくなることもありましたが、授業やサポートを通じてさまざまな考え方を吸収できるところも大きな魅力だと感じています。

――起業支援の中で役に立ったものを教えてください。

ビジネス・クリエーションコースの授業は非常に勉強になりました。そもそも、留学生支援のサービスを思いついたのは「ビジネスモデル仮説検証」を受講したことがきっかけだったんです。この授業は講義だけではなく、その知識を自分のアイデアに反映させて実習していくので身をもって学びを深めることができ、とにかく起業に対するモチベーションが高まりました。そこから、ご担当だった堤孝志先生(研究院客員教授)の後押しもあって「WASEDA‐EDGE Demo Day」をはじめとするビジネスコンテストに出場することになったんです。

――起業に興味を持っている学生にメッセージをお願いします。

私もまだまだ勉強中の身ですが、とにかく挑戦することが大切だと思います。以前は自分の力だけでどうにかしようと思っていましたが、知識と経験のある先生から教わることで着実に成長できると実感しているので、もっと早く支援を受けておけばよかったと後悔しているくらいです。せっかく早稲田大学にいるからには、起業に向けて使えるものは全て利用するくらいの気持ちが良いと思います!

撮影:番正 しおり

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【校友の声】~支援を受け起業、経営する校友~

早稲田での縁で未来を開く

大学院先進理工学研究科 修士課程 2010年3月修了
ハインツテック株式会社 代表取締役 青木 睦子(あおき・むつこ)
――アントレプレナーシップセンターを利用して起業された、ハインツテック株式会社の事業についてお聞かせください。

細胞を加工するためのツールを製造・販売しています。これは半導体の微細加工技術を応用したもので、細胞用の小さな注射器をイメージしていただけると分かりやすいかもしれません。医療や環境、食品など、幅広い分野での活用に向けて事業を展開しています。

――これまでのアントレプレナーシップセンターとの関わりをお聞かせください。

大学在籍時から、学内の研究から生まれた技術シーズを社会のニーズとマッチさせて実装することに興味があったため、その手段として起業という選択肢があることは認識していました。そこで、自身の研究活動と並行して、当時のインキュベーションセンター(現アントレプレナーシップセンター)で「学生ファシリテーター」として活動していました。ただし、大学院修了時には自身が起業することは想定しておらず、「技術の事業化」を行うために外資系テック企業の事業開発部に就職。さらに渡米することにもなり、日本に帰国後も別の外資系テック企業で新規事業のアライアンス・マーケティング(※)担当として働いていました。

※企業同士がメリットを得るために業務提携をしていく戦略

つまり、長年、早稲田大学とも起業とも接点がなかったんです。ですが、あるとき、大学在籍時の研究室の先輩である三宅丈雄先生(情報生産システム研究科教授)が手掛けていらっしゃる、弊社の現在の事業に通じる研究を知り、「これは絶対に将来性がある」と感じたことで、私自身が経営者となり三宅先生の研究の事業化を実現するための起業を決意。三宅先生との話し合いを重ねると同時に、昔インキュベーションセンターでお世話になっていた先生とも密に連絡を取るようになり、再び、今のアントレプレナーシップセンターとの接点ができました。

――具体的にはどのような支援を受けたのでしょうか。

研究者を対象とした、研究成果の事業化を支援するためのWaseda PoC Fundに採択され、支援を受けました。起業してからは、法律相談などのコンサルティングサービスも受けていて非常に役に立っています。また、具体的なサービスではないのですが、人脈やコネクションに発展する、人との縁に感謝しています。私が再びアントレプレナーシップセンターと関わりを持てたのもそうですが、それ以降も、早稲田での縁により多くの機会をいただいています。

――起業に関心を持っている学生に向けてメッセージをお願いします。

大学の研究成果を事業化する際に、アントレプレナーシップセンターの存在は非常に心強いと思います。起業時に課題となることの多い資金調達や知財、法律の問題などについても親身になって教えてもらえます。私は社会人になってから、また福岡県在住という地理的に距離がある中でもオンラインも含めてサポートを受け、起業につなげることができました。早稲田大学には起業しやすい環境が整っていますので、まずは相談から始めてみると良いと思います。早稲田発のスタートアップを一緒に盛り上げましょう!

取材・文:上垣内 舜介

【次回フォーカス予告】12月11日(月)公開「就活特集」

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日は毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

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