Waseda Weekly早稲田ウィークリー

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演劇しかすることがない幸せ!理想郷「利賀村」で過ごした早大生の3日間

野外劇場を背景に語らう3名。左から浜田さん、田村さん、片山さん

テント泊、台風、雨中の観劇、稽古場で宿泊、俳優との語り合い

出演俳優らとの歓談後に記念撮影

劇団「早稲田小劇場」を前身とする劇団「SCOT」(鈴木忠志主宰:1964年政治経済学部卒)の本拠地・富山県南砺市利賀村で、8月23日から約1カ月にわたって行われた国際演劇祭「第9回シアター・オリンピックス」。山深く、街から隔絶された地域に期間中、世界の16カ国・地域から500人以上の演劇人が参加し、約2万人の観客が訪れました。富山市内から行く主な道路は2本しかなく、片方は地元のタクシー会社が勧めない険しい山道。交通の便は極めて不便なのに、演劇の理想郷「TOGA」の名は日本よりもむしろ海外で知られているとも言われ、観客の約2割を外国人が占めます。

【写真左】初日は全員でテントを設営。しかし翌日には台風が来たために撤去を余儀なくされ、SCOTの稽古場に避難して宿泊。稽古場で寝るというなかなか体験できない貴重な一夜となった

【写真右】土砂降りの中で行われた野外公演を観劇する片山さんと田村さん

国際色豊かな同演劇祭の特徴の一つが、同じ空間で時間を過ごす観客と俳優ら演劇スタッフの距離感が近く、会場で語り合えることです。今回参加した早稲田大学で演劇活動をしている浜田誠太郎さん(早稲田小劇場どらま館学生スタッフ、大学院文学研究科1年、劇団24区所属)、片山さなみさん(文学部3年、劇団てあとろ50’所属)、田村将さん(文化構想学部2年、劇団くるめるシアター所属)は、それぞれ何を思い、何を体験したのか。会場では偶然、スタッフとして働いていた演劇サークルの早大生との出会いもありました。四六時中、演劇論を交わす演劇漬けとなった2泊3日の様子と共にお伝えします。

北京ダックにイワナ、伊サルディーニャ料理・・・世界や富山の本格グルメも堪能

会場の前を流れる百瀬川で養殖されたイワナを手にする3名。北京ダックも一気にがぶり。

9月21日から23日の演劇祭の最終3日間で、3名は五つの公演を観劇した他、演劇評論家によるシンポジウム一つ、また劇団SCOT主宰でシアター・オリンピックスの芸術監督を務めた鈴木忠志さんによるトークショーに参加しました。演劇人の多くが集い、飲食を通じて観客と交流ができる会場が「天空と星空のシアターヴィレッジ」です。そこにある「グルメ館」では国際演劇祭らしく、中国から来日したシェフによる北京ダック、イタリア・サルディーニャ島から来たシェフによる本格イタリアン、もちろん富山県内の食材を生かした郷土料理、会場近くを流れる百瀬川で養殖されたイワナの塩焼きなども。ロシア料理、韓国料理、鹿肉やイノシシ肉のジビエ料理など多様な料理ブースがずらりと出店されていました。また、富山の木材や解体された古民家の木材を利用した「ウッドラウンジバー」では毎夜、出演した演劇人と観客が集い、歌い、踊り、語り合っていました。

演劇について語り合いっ放しの日々

『マクベス』出演俳優と語らう田村さん

初日から延々とやむことのない演劇談義。二日目の夜、浜田さんと田村さんはウッドラウンジバーで俳優たちと交流し、『マクベス』(イタリア人演出家)と同性愛や近親相姦(そうかん)を描いた『浄化』(リトアニア人演出家)に出演した俳優と語り合いました。『浄化』の出演俳優と話した浜田さんは、自らが研究するロシアの著名な演出家であるコンスタンチン・スタニスラフスキー(1863-1938年)について「リトアニアではスタニスラフスキーは一番最初に習う演劇メソッド」などと、教えてもらっていました。

『浄化』に出演した俳優とも演劇論を交わした

田村さんも「ショッキングかつセクシュアルに同性愛が描かれていたが、あのようなグロテスクな描き方は日本では行われていないと思うし、少なくとも僕は見たことがありません」と切り出し、リトアニアのジェンダー・セクシュアリティ事情についても話題が及びました。「リトアニアでも同性愛への理解は若年層では浸透しているけれど、高齢者層では難しいし、都市部に比べると地方は閉じられている」という日本と似通った状況の説明を受けるなどして演劇談義を交わしました。

シアター・オリンピックスのフィナーレ公演となった花火劇『世界の果てからこんにちは』を、雨の中で観劇した3名。翌朝、前夜の興奮冷めやらぬ中で鈴木忠志さんのトークショーに参加し、40年以上かけて創り上げた一大演劇空間が、亡くなった方も含めていかに多くの人々の協力によって成り立っているかということなどを軽妙に語る話術に引き込まれていました。

「ここまで作品に向き合わされ、体感した人々で語らえる場は珍しい」

浜田 誠太郎(はまだ・せいたろう)

整理番号順で長蛇の列に並ぶたび、これだけの人が演劇を楽しむために、長い時間をかけてこの山奥へはるばる旅をしていると考えると、私は驚きを隠せませんでした。その上、演劇を見て飲み食いして寝る以外にできることはありませんし、携帯電話の電波も電源も十分に整った場所ではありません。観劇の合間には連れだった人たちと感想を伝え合い、あるいはその姿を見ていました。それゆえ美しく豊かな時間を過ごせた気もします。

だから「田舎は良い/都市はダメだ」などと簡単に語るつもりは決してありませんが、こうして文化や芸術に大勢が集まることやその方法はとても面白いことです。もちろん多様な演劇祭・芸術祭は全国に存在しますが、これほど作品に向き合わされ、それを体感した人々同士で語らえる場は珍しいと思います。しかもそれは「みんなで話しましょう」のような「イベント」が「シアター・オリンピックス」自体にプログラムされているわけでは決してありません。

丸々模倣すれば、どこでもできるというわけでもなく、当然土地の固有性や主催者・出演者の名前などが周到に機能しているはずです。私にはそれが怖いことにも思えます。ただそのような冷静な目は少しおき、どうしたらあの豊かさをもう一度、別の場所で別の人たちと共に味わえるのかを今は考えています。貴重な体験をありがとうございました。

「新しい、と感じる演劇にたくさん出合った」

片山 さなみ(かたやま・さなみ)

「利賀という山奥で演劇をやっている人がいるらしい!」ということは高校生のころ同じ演劇部の子が教えてくれました。それから度々気になっていたので、今回行けてとても楽しかったです。

初めてテントに泊まったりとか、イワナを食べたりとか、大きな虫に遭遇したりとか(笑)。観劇以外にも初めての経験が多くて面白かったです。外国の方もたくさんいて、こんな山の中に、演劇を見るためにこれだけの人が集まる場所がある、ということが不思議でした。

野外観劇では雨に降られましたが、そんな中で花火が打ち上がり、役者さんたちが水しぶきを上げながら動き回っているのを見たときは、奇麗で、迫力があって、とても感動しました。私にとって「新しい」と感じる演劇にたくさん出合って、普段たくさん見ていると思っていても、実は東京の劇場で行われているものしか見ていないんだなあと、思い知らされました。

普段、私から見えている世界の外側に、利賀という場所も、そこで上演されている演劇もあって、自分の知らない世界がまだまだたくさんあるんだろうな、という予感を強く感じたのが、何だかとてもうれしかったです。

「『行くと人生が変わるよ』は本当だった」

田村 将(たむら・まさる)

二日目の夜、勇気を出して外国の俳優に話し掛けてみました。勇気さえ出せばそういうことができる環境が整っていること自体、すごいことでは? と思っています。

話したのはイタリア人とリトアニア人の俳優。イタリア人の方には演出の疑問点を質問しようとしたが、うまく伝わりません。僕の英語力が破滅的なのであり、すごく歯がゆい思いをしました。こんなにも伝えたいことがあるのに…。と思っていたところへ、日本語が話せるイタリア人に間に入ってもらって、なんとか会話が成立しました。

リトアニア人の俳優はとにかく可憐(かれん)で笑顔がすてき! 演劇のこと、ジェンダーのことなど愉快に話すことができました。まさか初めて自分のセクシュアリティをカミングアウトした外国人がリトアニア人になるとは!? 「私たちは衣装しか持ってきていません。他の大道具・小道具などは全て、利賀のスタッフが用意してくれました。素晴らしいスタッフです」と満面の笑みで言っていたのが印象に残りました。自分たちの作品に対する誇り、そして日本のスタッフへの誠実さが伝わってくる「演劇人」の笑みでした。

僕みたいな“ど素人”に対しても、世界レベルの演劇の空気を、出演している演劇人と平等に与えてくれる利賀。「行くと人生変わるよ」と、早稲田大学のある教授に言われましたが、まさにその通り! とても刺激的でした。

アルバイトで1カ月滞在「何だ、この祭りは!」

シアター・オリンピックス運営スタッフ
松浦 みる(商学部4年、演劇倶楽部所属)

松浦みるさん(左端)は、グルメ館で朝食を用意してくれた

ある演劇の先輩から「鈴木忠志は早稲田の先輩、知っておいた方がいいぞ」と言われ、ちょうど夏が空いていたのでアルバイトとして1カ月滞在してみました。一番最初に『世界の果てからこんにちは』を見たとき、野外劇場で繰り広げられる劇の華やかさに「何なんだ、この祭りは!」と衝撃を受けました。堅い椅子にも関わらず800人くらいの人が見ていて、観客も半分くらいが外国人。「野外でやる演劇って、こんなに面白いんだ」と気付くことができました。アルバイトをしているグルメ館にも出演者が普通に訪れて、同じ場所で自分たちと一緒に生活している。こうした環境を体感することができて本当によかったです。早稲田での夏の新人公演が全く見られなかったのは残念でしたが、来年もここで演劇を見たいなと思います。

『世界の果てからこんにちは』で打ち上げられた花火を劇場外から見た様子

早稲田に必要な演劇とは? 富山・利賀村「シアター・オリンピックス」で考えた

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