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特集

早大宿泊施設にセクシュアルマイノリティの視点で泊まってみたら…

いわゆるLGBTなどのセクシュアルマイノリティ、特にトランスジェンダー(広義では身体の性と性自認が一致しない人)の多くは、ホテル・旅館などに宿泊するとき、風呂やトイレなどの日常的行動で無意識に慣習化された「男女別対応」から生じる困難に直面します。こうした困難への対応が十分に進んでいる宿泊施設は国内ではほとんどなく、少しでも対応を始めた施設は「ニュース」として報道されるのが現状です。

そこで、学生からジェンダーセクシュアリティに関する相談を受けている早稲田大学GSセンターのスタッフは、こうした宿泊施設の問題点を主にセクシュアルマイノリティの視点で調べるため、9月下旬、サークル・ゼミ合宿などで学生・教職員が最も多く利用する「軽井沢セミナーハウス」で1泊2日を過ごしました。

誰もが利用しやすい施設にするために、どういった工夫が必要なのか、スタッフが協力して問題点を探っていった調査合宿。GSセンターは今回の調査結果をまとめ、ダイバーシティ推進室と連携して改善に向けて検討していく予定です。

本記事の内容は2018922日、23日の取材に基づいています。その後改善がなされたものは本文中に注釈で示しました。今後「セクシュアルマイノリティ学生のためのサポートガイド」に情報を集約し公開していきます。(2020/1/16追記)

軽井沢セミナーハウスに宿泊したGSセンタースタッフ

【参加者】
GSセンター職員:佐藤 元気(専門職員)、大賀 一樹(専門職員)、渡邉 歩(専門職員)、布施 直人(学生生活課兼任)、木綿 洋平(学生生活課兼任)
学生スタッフ:こー、ジウ、しゅんどーちゃん、はらしょー、まっちぃ、ろーた

泊まる前の大きな問題「部屋割り」

セミナーハウスを利用するに当たって、まず必要なことが学生生活課への申し込み手続きです。教職員や学生リーダーなど、各ゼミやサークルの代表者が情報を取りまとめて、以下の手続きを行います。

  • 利用者の男女別の人数を申請する。
  • 宿泊する1週間前までに、氏名・学籍番号・性別を書いた名簿を提出する。

セミナーハウスでは男女同部屋は認められていないため、事前に人数を聞いて部屋割りをしています。しかし、この部屋割りを巡って参加者の議論は白熱しました。

GSセンター専門職員の大賀さん(右)と渡邉さん

申し込み段階で大賀さんが思ったことは「自分の性別はXと書けばいいのか」ということ。大賀さんは女性・男性のいずれでもないという性を自認している「Xジェンダー」。見た目からは“心の性別”が判断できません。心と体の性の不一致を表明していない「トランスジェンダー」(※)の人も同様です。申し込み担当者は、自分自身で参加者が「男性」か「女性」か判断しなければならないのです。渡邉さんは「部屋割りや風呂・トイレのことで悩んでも、申し込み担当者に相談しなければならないので、手続きを進める上でカミングアウトの問題が生じるのではないか」と指摘します。

※)性自認と異なる自身の身体に対する違和感や嫌悪が強い人。違和感を解消するために、性別適合手術を行う人もいる。

「一番困る人は周囲にカミングアウトをしていない埋没しているマイノリティ、つまり『Xジェンダー』や『トランスジェンダー』だと思います」と言う大賀さん。「男女を分けることは宿泊者の安全・安心への配慮だと思いますが、Xジェンダーやトランスジェンダーがその配慮を受けることができないという状況は、差別に当たるのではないでしょうか。例えばゼミメンバーにXジェンダーやトランスジェンダーがいた場合は、男女どちらの部屋へ泊まればいいのでしょうか。性別へ配慮される機会が存在せず(※)、聞かれてもいないし合意もしていないのに、勝手に自分の性別を割り振られるのは納得がいきません」と心情を語りました。

(※)予約システム(部屋割り)の仕組みはこれまでと同様ですが、システムによる部屋割りで不都合がある場合は、申し込み担当者を介さずとも学生生活課、およびGSセンターに直接相談ができます。(2020/1/16追記)

軽井沢セミナーハウスでのミーティング

この意見に対して、こーさんから「部屋割りは、実際には利用者によって自主的に行われています。男女別にすることによる安全性への配慮を施設側がしっかりと行わないのであれば、性別を聞く手続きはただ単にトランスジェンダーに対して無用の心的負担を強いているだけになるのではないでしょうか」との意見があり、はらしょーさんからは「セミナーハウスの申込用紙やWebサイトに、セクシュアリティや部屋の男女分けの相談先としてGSセンターを紹介することから始めるとよいのでは」などの改善案が提案されました。

男女で大きさが違う? 「お風呂」が抱える切実な問題

次の話題は入浴設備。特にトランスジェンダーにとって、「男湯」か「女湯」かの選択はさまざまな葛藤を強いられる問題です。ジウさんが声を上げました。「一番、問題に感じたことは、脱衣スペースで服を脱いでからシャワー室に行くまでの導線。シャワー室はカーテンの仕切りのみで脱衣スペースがなく、着替えができないようになっているんです(※1)。また、女性用は二つしかシャワー室がなく、利用者の人数からするとすごく少なく感じました。女性の場合は生理中はシャワーのみで済ますことも多いので、人数が多いと全然、体を洗えなくなってしまいます」。「男湯は五つありましたよ」とまっちぃさん。実は男湯と女湯では大きな違いがあるのです。それは浴室・脱衣スペースの大きさやシャワールームの数(※2)。利用時間外に軽井沢セミナーハウスの許可を得て、全員で男湯と女湯を確認してみました。

(※1)シャワー室内に専用の脱衣かごの持ち込みができ、カーテンの仕切内で着替えが完結できるようになりました。(2020/1/16追記)

(※2)設計当初の利用者統計により現在の大きさ・シャワー数となっていますが、現在は利用団体の男女比により男風呂と女風呂のスイッチングの仕組みを導入しています。(2020/1/16追記)

「やっぱり女湯は狭い。早稲田は女子学生のほうが人数が少ないから? 脱衣スペースは3人いると 窮屈になります」

「髪を乾かしたりするから、女性の方が利用時間が長いのに」

「シャワー室の前に脱衣かごや棚を置けば着替えも可能になるのでは」

「つっかえ棒でタオルを掛けられるようにするとよい」

「それらの対策は、安価な金額で可能ですね」

学生スタッフからはさまざまな意見が発せられる中で、まっちぃさんが情報提供。「ニュースで見たのですが、同性愛者や両性愛者の場合でも、入浴の場面で、意図せず他人の裸が見えてしまうことへの罪悪感を感じる場合もあるようです。とりわけ、湯船に浸かって体が見えないときよりも、着替えている最中に気まずさを感じる場面が多いようです。それを踏まえると、ここの脱衣スペースは一番気を遣う着替えに配慮がなされていない状態になっています。やはり、シャワー室内で着替えが完結できたほうがよいと思います」

タオル掛けや脱衣かごがないシャワールーム

大賀さんが応じました。「ジェンダーに関わらず、他人に体を見られたくないという人もいます。みんなが健康体を持っているわけではないですし、友達同士でもあえて入浴時間をずらす人もいます。シャワー室を個室にすることは必要でしょうし、脱衣スペースにパーティションがあるだけでも違いますね」。ろーたさんも「やはりシャワーを個室にするだけでだいぶ違うと思います。浴槽よりもシャワーを充実させるべきだなと思います」と話し、しゅんどーちゃんからは「一般の入浴施設で行われているように、日によって男湯と女湯の入れ替えを行ってほしいです。また、女性は髪を乾かしたり、滞在時間が長い人が多いと思います。広さに大きな差があるのに、入浴時間は男女共に同じというのは納得がいきません」と要望が挙りました。

「だれでもトイレ」はあるけれど…

82-2号館にある「だれでもトイレ」

お風呂と並んでセクシュアルマイノリティ、中でも特にトランスジェンダーにとって大きな問題となるトイレ。広大な敷地である軽井沢セミナーハウスの82-2号館1階には「だれでもトイレ」(※)が設置されていますが、当事者目線で見ていくと、やはりいろいろな問題が見つかりました。

※ 早稲田大学では多様な構成員が安心して過ごせるキャンパス環境を確保するため、早稲田・戸山・西早稲田・所沢キャンパスに、性別を問わず誰でも利用できる「だれでもトイレ」を設置しています。車いす対応、オストメイト(人工肛門保有者・人工ぼうこう保有者)対応、オムツ交換台やベビーチェアなどの機能があります。

ここでも大賀さんから重要な指摘がありました。「だれでもトイレがあることはいいのですが、一つしかない。居酒屋にあるようなトイレでもいいので、男女共用の個室トイレがほしいところです。また『誰でも』なのにピクトグラム(絵によるサイン)は『身体障がい者用』しかありませんでした。ところが身体障がい者用なのに、内部には着替え台が設置されていなくて、さらに人感反応の電灯がすぐに切れてしまいました」。施設内を見渡すと一見、ダイバーシティ的な配慮はなされているのですが、全体的にチグハグさが目立つのだそうです。まっちぃさんも「だれでもトイレの場所の分かりやすさも必要です。周知がちょっと足りていないという気がします」

入り口に階段があるトイレ

また、ジェンダー視点からではなくとも気になる部分が発見されました。こーさんは「だれでもトイレは一カ所しかないので、例えば車いすの人は長い距離を移動しなければならないときがあるのではないでしょうか」(※)。ろーたさんは「しかも、舗装の荒れた坂を通る必要があり、一人では難しそう」。さらに、しゅんどーちゃんも「宿泊した棟(82号棟)のトイレは入り口が階段になっているので、車いすだけではなく足が悪い人でも使いにくくなっていますね」と、バリアフリー対応の不足が挙げられました。

※ 宿泊施設の82号館1階には身障者用特別室(最大2名)が一部屋あり、室内にトイレが設置されています。

セミナーハウスのセクシュアリティ対応 GSセンター学生スタッフの気付き

学生生活課セミナーハウス担当者より

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