Waseda Weekly早稲田ウィークリー

特集

マイノリティが導く社会のイノベーション 早稲田から始まる“前提を変える勇気”

早稲田大学ダイバーシティ推進宣言1周年 GSセンターのこれから

全学を挙げてキャンパスにおけるダイバーシティ推進に取り組んでいる早稲田大学が、一人一人の多様性と平等を尊重する「ダイバーシティ推進宣言」を発表してから2018年7月1日で1年がたちました。同宣言は性別、障がい、性的指向・性自認、国籍、人種、文化的背景、信条、年齢などに関わらず、早稲田大学に関わる誰もが尊厳と多様な価値観や生き方を尊重され、各自の個性と能力を十分に発揮できる環境の構築を目標の一つとしています。

「ICC(異文化交流センター)」「障がい学生支援室」に加えて、2017年4月にスチューデントダイバーシティセンター内に開設した「GSセンター」は、特にセクシュアル・アイデンティティ(性的指向・性自認含む)の多様性を尊重し、さまざまなサポートを行うことを目的として活動しています。ところが、こうした取り組みに対する関心や理解度・認知度は、一般社会においても、また早稲田大学においても、まだまだ不十分だと認識せざるを得ません。今週の特集ではGSセンターによる、ダイバーシティ推進やジェンダー・セクシュアリティについて理解を深めてもらう学内外での取り組みや、その考え方について、同センター専門職員の大賀一樹(たいが・かずき)さんに聞きました。

正しい知識を持つことが、今後の社会を変えていく一歩になる

GSセンター専門職員 大賀 一樹

年間約1000人が利用

2017年4月にオープンした、ジェンダー・セクシュアリティに関する学生向けのリソースセンター「早稲田大学GSセンター」は、発足から1年あまりが経過しました。 当初、大学が想定していたよりもはるかに多くの学生が利用しました。2017年度の来室者は1000人弱、そのうち相談案件が128件ありました。センター開設前は、「そこまでのニーズはないのでは」という懐疑的な声もありましたが、顕在化されていなかっただけで、実際は大きなニーズがあったと言えるでしょう。また学外からの注目も大きく、各種メディアに取り上げられた他、映画試写会とのコラボレーションや、ジョージ・タケイさん(2005年にゲイであることを告白した日系アメリカ人俳優)の講演会など、多彩なイベントを開催し、ジェンダー・セクシュアリティに関する啓発活動を行いました。

セクシュアルマイノリティ学生の支障軽減のために

学生からの相談では、自身の性に関する悩み以外にも、大学の制度面に関するものもありました。例えば、トランスジェンダーの学生からは「戸籍上と違う氏名を使うためにはどうすればいいか」といった相談が寄せられました。

そこで、学内の各種制度を調べてみたところ、「手続きにあたっては学術院事務所へ相談が必要」という案内があっても、相談内容にはカミングアウト(自ら他者に告げること)を伴うものも多いため、相談すること自体に制度上の大きなハードルがあることが分かりました。学生は「誰が信頼できる相談相手か」「勇気を出してカミングアウトしても理解してもらえるか」という不安を常に抱えています。相談のハードルは、「性別や本名を公にすることで損害を受ける人はいない」という前提によって作られています。現状では相談する制度はあるのに、助けを求めている学生がこういったハードルによって利用できないケースがあります。

GSセンターとして2度目の参加となった、「東京レインボープライド2018」。多様な性を祝うイベントで毎年、渋谷区の代々木公園で行われている

GSセンターは、セクシュアルマイノリティ学生が学生生活を送る上での支障が少しでも軽減するよう、早稲田大学の取り組みや各種対応、学内の手続き方法を整理してまとめた『セクシュアルマイノリティ学生のためのサポートガイド』を作成しました。学内での相談方法、通称名の使用を希望する場合の手続き、定期健康診断を受ける場合やセミナーハウスを利用する際の心配事などについて説明している冊子です。こうしたことはトランスジェンダーだけではなく、さまざまな事情を持つ学生全員に関わる問題ですので、同サポートガイドの作成は学内のダイバーシティ推進にあたって大きな進展となりました。

それでも起こる、教員・職員からの意図しないハラスメント

GSセンターにある読書スペース(写真奥)では、学生が本を読んだり談笑している

2017年7月に「ダイバーシティ推進宣言」をしてから、教員に対して「学生本人の了解なく性別を明らかにしないように」「授業などで異性愛者しかいないという前提で話をしないように」などの通知を出しています。しかし、まだその意識が浸透していないらしく、意図しないハラスメントやアウティング(他人の公にしていない秘密を暴露すること)が発生している事例も報告されています。「悪意のない加害」は、知識のなさから起こってしまうのです。そのため、全学術院事務所にGSセンターのチラシを配布し、ジェンダー・セクシュアリティに関する教職員向けの説明会を実施するなどの啓発活動を開始しました。

しかし、今なお学内でも部署によって理解度や取り組みの熱心さには温度差があるため、関連部署でより密接な連携を行っていくことが肝要です。セクシュアルマイノリティに関して、GSセンターが全ての相談を受けるのではなく、各部署がそれぞれに知識を蓄積し、適切な対処が行えるようになることが今後の目標です。

多様性があるからこそ生産性が高まる

ダイバーシティが推進され、周囲の理解が進んで行くと、どのようなことが起こるのでしょうか。GoogleIBMのようなグローバル企業では、ダイバーシティ推進がすでに前提となっています。Apple最高経営責任者(CEO)のティム・クック氏はゲイであることをカミングアウトしています。「多様性があるからこそ生産性が高まる」という考えを持ち、多様性を成長の原動力と位置付けているからです。

早稲田大学は「多様性」を大きな特徴の一つとしており、GSセンターも多様性によって「大学の更なる進化につながる新たな発想が生まれるようなアカデミック・コミュニティの形成を目指す」という共通理念を持って設立されました。ところが、一般的な日本企業の多くは発想が逆で、生産性を高めてから多様性を認めるという流れが多い。つまり、ダイバーシティ推進は“経営の余力”で行っている企業がほとんどで、“経営の原動力”にはなっていません。世界を変えるような革新は、多様性を原動力にしてこそ生まれるのではないでしょうか。ダイバーシティ推進は、ハード面や数値目標といった“形”だけでは不十分で、ソフト面の課題こそ重要です。そこでは、“前提を変える勇気”を一人一人が求められているのです。

正確な知識を学ぶ必要性

最近ではゲイを笑いのネタにしたバラエティー番組が批判され、評論家・勝間和代さんのカミングアウトが話題となるなど、セクシュアルマイノリティについて議論できる俎上(そじょう)が徐々に形成されつつありますが、当事者性が高い人だけが取り組むのではなく、あらゆる人が自分の問題として考えられる社会がゴールだと思います。そのためには、社会の構成員一人一人が声を上げる必要があります。地球上のあらゆる人間で、「性」から離れられる人はいません。にもかかわらず、性的指向や性自認、性愛などを含めた性の多様性や在り方について、教育できちんと教えられていないのです。性に関する知識は、“自然と身につく”ものではありません。“義務教育などで教えられてこなかった”という前提を一人一人が持ち、正確な知識を学ぶ姿勢が大事だと考えます。

2016年から始まった「WASEDA LGBT ALLY WEEK」は今年で3回目。セクシュアリティの違いを超えた「ありのままの『その人』を尊重できる人」であるALLY (支援者) を増やすことを目的とした啓発活動

早稲田大学の取り組みにおいても、“トップダウン”や“形”だけで終わらせるのではなく、学生・教員・職員に対してダイバーシティ推進の意識をどう高めてもらうかという、具体的・実際的な課題を持っています。GSセンターには、性の在り方や扱われ方について関心のある人はもちろん、性について無関心な人(今の現状に満足している人)にこそ来てほしいですね。性の多様性について、聞く前と聞いた後では、驚くほど自分の世界観が変わるかもしれません。それぞれが正しい知識を持つことが、今後の社会を変えていく一歩になります。

取材・文=小堀芙由子

【プロフィール】大賀一樹。1988年、島根県生まれ。幼いころから自身の性別に違和感を覚え、20歳の時に「Xジェンダー」という言葉を知り、自らのセクシュアリティを認識する。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科臨床心理学専攻の修士課程にて「ジェンダー・アイデンティティ」の研究を2年おこない、2015年臨床心理士資格を取得。厚労省補助金事業「よりそいホットライン」(アジア・日本初の24時間365日稼働のワンストップ・フリーダイヤル)における、「性別や同性愛」に関する公的な相談窓口の現場で6年従事。約6年間の電話・対面支援で、8000件以上のLGBTsのケースや事例を支援。小学校~大学までのLGBTsを含む包括的支援、性の多様性教育の可視化を行うべく、NPO法人「共生社会をつくるセクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク」理事に就任し、自治体の男女共同参画センターや大学機関などで性の多様性に関する講師・講演活動に取り組んでいる。2017年4月から現職。

学内連携のためのジェンダー・セクシュアリティ研修

ピアサポートが可能な新たな相談窓口

保健センターの職員に対してジェンダー・セクシュアリティの知識を伝えるGSセンターの大賀さんと渡邉さん

保健センターは、学生相談室やこころの診療室などを抱え、学生からさまざまな相談を受けており、GSセンターの学内における連携先でもあります。GSセンターは、学生相談室から依頼を受け、6月11日にジェンダー・セクシュアリティに関する研修・事例検討会を実施しました(心理専門相談員、医療職、管理職参加)。

GSセンター専門職員の大賀一樹さんと渡邉歩さんが講師となって、2017年度の活動内容や今後の展望について紹介。ジェンダー・セクシュアリティに関する揺らぎや悩み、性別管理、通称名使用などの大学の制度に関すること、またカミングアウトやアウティング、恋愛関係、保証人(保護者)との関係、ハラスメントに関することなど、多岐にわたる相談があったことが報告されました。

大賀さんは「センター内で話を聴く中で徐々に表面化してきたトランスジェンダーの学生の健康診断に関する悩みについては、直ちに保健センターと連絡をとり、個別に健康診断を実施していただくということで解決しました。当該学生は『GSセンターがなければ、健康診断をあきらめようと思っていた』と語ってくれました。このようにGSセンターは、これまで早稲田大学にはなかった相談に至る一歩手前でピアサポート(同じような悩みを持った、同じような立場にある仲間によるサポート)を受けられる窓口としても機能しています」と話しました。

GSセンターは2018年度、学生相談に関連する部署以外にも、ダイバーシティ推進を強化するため、教職員向けにジェンダー・セクシュアリティに関するセミナーを不定期で随時実施していく予定です。

日本IBMや大阪教育大学で講演・講義

日本IBM本社で講演する大賀さん。多くの社員や人事担当者等が集まった(写真左)
大阪教育大学で大賀さんが行った講義(写真右)

また、大賀さんは6月15日、社内でのセクシュアルマイノリティへの配慮について30年以上前から先駆的に取り組んでいるアメリカのIT企業「IBM」の日本法人「日本アイ・ビー・エム株式会社」の本社(東京都中央区)を訪れ、「日本IBM PRIDE Month LGBT+ セミナー」の講師の一人として、早稲田大学の取り組み事例を紹介しました。6月25日には大阪・柏原市の大阪教育大学で講師としてジェンダー・セクシュアリティに関する講義を行いました。

【次回特集予告】7月16日(月)公開「感動をありがとう!西野朗監督 サッカーW杯特集」

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