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ノーベル賞で話題の「体内時計」は「時間栄養学」でコントロール

2017 年のノーベル生理学・医学賞で話題の「体内時計」は、睡眠障害や肥満など、私たちの健康に大きく関わっていると言われています。この体内時計の調整に、重要な役割を果たしているのが食事です。内容や量に加え、摂取する時間を研究する「時間栄養学」の第一人者、理工学術院の柴田重信教授に、早大生が摂(と)るべき食事について伺いました。時間栄養学に沿った適切な朝食・夕食を摂れば、昼食(13:00ごろまで)は好きなものを食べても良いとか…。その理由を体内時計のメカニズムから解き明かします。

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柴田重信(しばた・しげのぶ)早稲田大学理工学術院教授。先端生命医科学センター長。九州大学薬学部卒業、同大学院薬学研究科博士課程単位取得退学。薬学博士。専門は時間健康科学。時間栄養学の第一人者で、著書に『時間栄養学』(女子栄養大学出版部)、『食べる時間を変えれば健康になる』(監修/ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『体内時計健康法』(共著/杏林書院)など。

1.ノーベル賞で注目される「体内時計」って?

「体内時計」とは、体内の時間軸を調整するシステムです。私たちの体の中には時間のリズムを刻むメカニズムがあり、1日単位で調整しています。この体内時計を形づくっているのが数多くの「時計遺伝子」です。1997年に哺乳動物の「時計遺伝子クロック(Clock)」が発見され、体内時計は脳だけでなく、末梢(まっしょう)臓器全てで機能していることが判明しました。脳の「視交叉上核(しこうさじょうかく)」と呼ばれる部分に主(親)時計があり、同時に内蔵や血液などの末梢組織には、それぞれ個別に動く副(子)時計が機能しています。主時計が”世界標準時”とすると、おびただしい数の”ローカル時間”(副時計)が体中にあることになります。この体内時計の針が狂うと、睡眠障害、うつ病、肥満、糖尿病などの代謝障害や、免疫・アレルギー疾患、さらにがんの発症にもつながることが分かってきました。

(図)体内時計の仕組み

2.「体内時計」をリセットするには朝食が大事

朝ご飯images私たちの体内時計は、1日24.5時間の周期で動いています。これを1日24時間の周期に合わせるために、光と食事の刺激で体内時計を日々リセットしています。脳にある主時計は、目(網膜)を通して入ってきた朝の光を受けて「朝になった」と認識すると、リセットされて時計が進み始めます。それに対し臓器などにある副時計は、明暗に関係なく朝食によって動き出すことが分かってきました。

例えば、朝7時に起きて夜22時過ぎに明かりを消して眠るという同じ条件下で、食事の時間を変えてみます。7時、12時、17時に摂る場合と、後ろへ5時間ずらして12時、17時、22時に食事を摂る場合の実験データでは、前者は主時計と副時計は同じリズムで1日を刻みますが、後者の場合は主時計は起床時から動き始めるのに対し、副時計は後ろに数時間ずれて活動リズムを刻みます。これは、臓器などの末梢組織がバラバラに動き、体の中で時差ぼけが起きている状態です。オーケストラで例えるなら、主時計の指揮者は正確なリズムでタクトを振っているのに、副時計の奏者が勝手に演奏して全体のハーモニーを保っていない状況です。こうして体内時計が不調になると、体調不良や病気を招くことになるのです。体内時計をきちんとリセットさせるためには「いつ食べるか」が重要で、このことを研究するのが「時間栄養学」です。

3.「時間栄養学」でパフォーマンスを上げる食事法とは?

朝食ではパンなどの炭水化物(糖質)と一緒に、ウィンナーソーセージなどのタンパク質を摂ることが大事

朝食ではパンなどの炭水化物(糖質)と一緒に、ウィンナーソーセージなどのタンパク質を摂ることが大事

栄養素の代謝も時間帯によって変化することが、動物実験によって解明されてきました。時間栄養学の観点から見ると、朝は体内時計を動かす食材を、夜は動かさない食材を優先して摂ることが大切です。炭水化物(糖質)、タンパク質、脂質の三大栄養素の中で、ご飯やパンなどの炭水化物(糖質)は朝消費されやすいことが分かっています。穀類のでんぷんが時計遺伝子を動かすのです。また、朝タンパク質を摂ると筋肉が大きくなりやすいという研究があります。筋肉が増えれば基礎代謝が上がり、ダイエットやメタボリックシンドローム対策にもつながります。日本人には朝のタンパク質の摂取が不足していることが、調査結果から分かっています。朝食には、ご飯やパンと一緒に卵料理やウィンナーソーセージ、チーズなどを摂るようにしましょう。

栄養素の吸収は、全般的に朝から昼ごろまでが良いと言われています。体内時計をリセットしやすくするには朝起きてすぐに食べることが重要で、朝食は遅くても起床後1時間以内に摂りたいものです。また、一日の食事量のほとんどを昼食までに摂ることも大切です。朝食に必要な糖質やタンパク質を早い時間に十分摂取できれば、昼食にはラーメンやカレーなど、好きなものを食べても大丈夫です。

とはいえ、学生の中には「朝起きてすぐは食べられない」という人もいるのではないでしょうか? 朝食をおいしく食べるには、前日の夕食の摂り方に注意しましょう。寝る2時間前までに消化の良い食材、主食ならそばや麦ご飯、おかずには食物繊維の多い緑黄色野菜や根菜などを摂ると、次の日の朝食をおいしく食べることができます。「空腹で寝られない」という場合は、温かいスープなどを飲むことをお勧めします。

4.牛乳と納豆は朝と夜の摂取それぞれに意味がある!

納豆には血液凝固を抑えるナットウキナーゼと、骨粗しょう症に良いとされるイソフラボンが含まれている

納豆には血液凝固を抑えるナットウキナーゼと、骨粗しょう症に良いとされるイソフラボンが含まれている

栄養価が高く毎日摂ってほしいのが牛乳と納豆で、どちらも良質なタンパク質が含まれています。タンパク質は1日に80~90g必要とされています。1食あたり20~30gは摂ってほしい栄養素ですが、10g以下の人が多いという調査結果が出ています。牛乳コップ1杯で約10gのタンパク質を摂ることができるので、朝食にぜひ加えてください。納豆にはナットウキナーゼが含まれているので、朝に起こりやすい血液凝固を抑え、心臓発作を防ぐ効果があります。和食ならご飯に納豆と卵をかけて一緒に食べると、糖質、タンパク質を一緒に摂ることができ、忙しい朝に最適です。

また、牛乳と納豆には、夜摂るべき栄養素も含まれています。牛乳に豊富なカルシウムは、夜吸収率が高いと言われています。ただし夜は脂肪分が気になるので、できれば脱脂系のものを選んで、寒くなってきたこの時期は、寝る前にホットミルクにして飲むと良いでしょう。一方、納豆にはイソフラボンが含まれています。これは女性ホルモンのエストロゲンと似た化学構造と働きがあり、骨粗しょう症に良いとされています。骨の形成に必要な栄養素はビタミンKとビタミンDとカルシウムの三つとされていますが、納豆には大豆にはないビタミンKが豊富に含まれています。特に女性は中高年期になると骨粗しょう症になるリスクが高まります。骨密度は年齢とともに右肩下がりで落ちていきますので、今から牛乳や納豆を摂って蓄えておくことが大事です。

5.「分食」のすすめ

規則正しい食生活が良いのは分かっていても、授業やサークル活動などで夕食の時間が遅くなってしまうこともあるでしょう。その場合は、夕食を2回に分けて食べる「分食」をお勧めします。16~17時にカロリーの高いおにぎりのような主食系のものを食べ、帰宅後の遅い時間にはおかずや副食系のものだけを食べましょう。間違ってもラーメンや丼ものなど、カロリーが高く脂肪分が高いものを食べて寝るのはやめましょう。「体内時計」を狂わせる元となり、肥満や生活習慣病の原因になるのは必至です。

間食をするのであれば、10時のおやつがお勧めです。午前中は脂肪の吸収に関わる時計遺伝子の発現量が最も小さくなっているので、乳製品や大豆製品、あるいはケーキなどの脂質が多めの間食でも大丈夫です。

左:間食は15時より10時がお勧め 右:夕食が遅くなるときは、2回に分けて。おにぎりなどの主食は夕方摂りましょう

6.パフォーマンスを上げるための「時間栄養学」

体内時計が乱れると、「社会的時差ぼけ」も引き起こします。これは、平日と休日で全く違う睡眠パターンで生活をしている場合などに起こります。朝浴びる光はコルチゾールなど覚醒ホルモンの分泌を増加させますが、夜浴びる光は体内時計を遅らせ、メラトニンという睡眠ホルモンの分泌を低下させます。パソコンやスマホなどから出る青色光は特に注意が必要です。学生は学業やスマホなどについ夢中になって就寝が遅くなる「夜型人間」が多いと思いますが、夜型人間は生活習慣病や学業不振になりやすく、朝のパフォーマンスが悪いなどの特徴があります。「睡眠負債」(※)という言葉もありますが、毎日十分な睡眠時間を確保して朝すっきり目覚めるためには、夜早めに寝る習慣が大切です。

精神活動において高パフォーマンスが望めるゴールデンタイムは、朝から昼前までと言われています。日本社会は試験も就職試験も午前中が多く、仕事が始まる時間も朝です。生活習慣はすぐに直せるものではありません。学生のうちから「時間栄養学」に基づいて朝食をしっかり摂り、「体内時計」をリセットしてパフォーマンスを上げる習慣を身に付けておくことが重要です。

※日々の睡眠不足が負債のように蓄積された状態で、心身に悪影響を及ぼすリスクがあると言われている。睡眠負債は、休日にたくさん寝ることで返済はできるが、寝貯め(貯金)はできない。

体内時計を狂わせないための生活上の工夫10カ条

1.朝の光は推奨しますが、夜の光(スマホ、PC)は夜型化を助長するのでやめましょう。
2.朝食をしっかり摂り、末梢時計(副時計)に朝を教えましょう。
3.休日もできるだけ起床時刻を守り、平日と2時間以上ずれないようにしましょう。
4.カフェインを含むお茶やコーヒーは、就寝4時間前までに済ませましょう。
5.朝から夕までの運動は推奨しますが、夜遅い運動は夜型化と入眠障害になりやすいのでやめましょう。
6.昼寝をするなら午後3時までに、長くても30分以内にしましょう。
7.明る過ぎる寝室は良くないので、影響が弱い赤色系の電球を利用するようにしましょう。
8.寝酒は深い睡眠を得られにくいのでやめましょう。
9.食事はできるだけ就寝2時間前までに済ませましょう。
10.夕食が遅くなるときは、18時頃に分食(主食)を摂り、夜遅い食事は軽い低カロリー食にしましょう。

参考資料:睡眠障害の診療・治療ガイドライン研究会2002.健康づくりのための睡眠指針2014(厚生労働省、平成26年)
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『体内時計健康法』(柴田重信・ 田原優共著/杏林書院) 体内時計の仕組みやすぐ使える健康術を、柴田先生と校友の田原さんがQ&Aでわかりやすく解説した1冊

【次回特集予告】11月20日(月)公開「ラグビー早慶・早明戦特集」

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