Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

新薬開発のキーワード② 時間薬理学と時間栄養学

理工学術院 教授 柴田 重信(しばた・しげのぶ)

九州大学薬学部卒業、同大学院薬学研究科博士課程単位取得退学。博士(薬学)。専門は時間健康科学。著書に、『時間栄養学』(女子栄養大学出版部)など。

人間をはじめ多くの生物が備える「体内時計」。これが、薬の服用や栄養の摂取に、ある影響を及ぼすのだ。

時間薬理学や時間栄養学とは造語であり、既存の学問に「時間」という接頭語がついたものである。ここでいう時間とは、われわれの体内時計が知らせる時刻のことだ。薬理学や栄養学は、薬や栄養が効く仕組みを調べる学問である。1997年に哺乳動物の時計遺伝子Clockが発見され、体内時計は脳のみならず、末梢臓器の全てで機能していることが分かった(図1)。体内時計を生物学的に調べる研究として時間生物学「chronobiology」が誕生し、その後、時間生物学を医療やヒトの生活に応用しようという考えが台頭してきた。そして、体内時計と薬理(薬)の相互作用を理解する学問として時間薬理学が、食や栄養との相互作用を理解する学問として時間栄養学が提案された(図2)。

薬や栄養の体内時計に対する作用

これらの学問を利用し、体内時計に働きかける薬や機能性食品を開発することができる。体内時計は睡眠・覚醒、体温変動、血圧変動など約1日の周期で現れる現象であり、外界の手がかりがない状態では24時間より長い周期で振動し、朝日や朝食が周期を24時間に合わせる効果(同調)を有する。この振動現象は一般的にコサイン関数で表現できるので、周期、位相、振幅の要素で表すことができる。

例えば、シフトワークや海外旅行の際に体内時計を遅らせたいときは、周期を延ばし、位相を後退させるような薬や食品が役立つ。また、老化に伴い、昼夜のメリハリがなくなり振幅が低下すれば、振幅を増大させる薬や食品が役立つ。

最近では、カフェインが体内時計周期を遅くし、振幅を増大させ、夕方摂取で位相を後退させ、朝方摂取で前進させることが見出された(Br. J. Pharmacol.,2014)。高齢者は一般的に極端な早寝早起きで、振幅の低下が見られるので、カフェインを含むコーヒーや緑茶を夕方摂取するとよいかもしれない。また、朝にコーヒーを飲む習慣は、体内時計を前進させ、朝の光と同様、体内時計の遅れを解消することが期待される。体内時計の異常は睡眠障害、うつ病、肥満・糖尿病などの代謝障害、免疫・アレルギー疾患の悪化、さらにがんの発症・増殖につながるので、体内時計を正常化させる新薬や機能性表示食品の登場が期待される。

体内時計の薬や栄養に対する作用

体内時計が薬や食品の体内への吸収、分布、代謝、排泄のプロセスに大きくかかわるので、薬や栄養の働きは時刻によって影響されることがわかってきた。消化管からの薬物や栄養素の吸収においてはトランスポーターが、薬物や栄養素の代謝においてはおもに肝臓の代謝酵素が、腎臓からの排泄においてはやはりトランスポーターが重要な役割を果たしている。これらのトランスポーターや代謝酵素の働きは体内時計の支配下にあり、一日の中でダイナミックに変化する。したがって、薬物や機能性食品を摂取する時刻が変われば、血中濃度も大きく変わる場合が多いので、作用に影響する。また、薬や栄養素が作用する受容体や酵素などにも、体内時計の支配が見られる。例えば、スタチン系と呼ばれる薬物は、コレステロールの合成抑制により脂質異常症を改善させる。スタチンは、コレステロール合成に重要な酵素であるHMG-CoAreductaseを抑制して薬効を発揮するが、この酵素活性は夕方から夜間にかけて高いので、処方上は夕方摂取が望ましいとされている。また、夕食にウエイトを置いた食事が太りやすい理由なども、脂肪の合成・代謝の時間栄養学から説明できる。このように、時間薬理学・時間栄養学は、新薬・機能性表示食品の開発に欠かせないキーワードなのである。

(『新鐘』No.81掲載記事より)

※記事の内容、教員の職位などは取材当時のものです。

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